
妊婦健診で「胎児の成長が平均より遅れている」と伝えられると、戸惑いや不安を抱く方が多いでしょう。
赤ちゃんに何か問題があるのか、これからどうすれば良いのかと心配になるのは当然のことです。
この記事では、胎児発育不全の原因や症状、さらに日常生活で取り入れられる予防の工夫について分かりやすく解説します。
読み終えたときには、不安が少し和らぎ、安心して妊娠生活を送るための具体的なヒントが得られるはずです。
胎児発育不全とは

胎児発育不全とは、妊娠週数に対しておなかの中で赤ちゃんの成長が遅れている状態を指します。
これは単に小柄な体質というわけではなく、母体や胎児などに何らかの要因があり、成長が妨げられている可能性があるのが特徴です。
多くは超音波検査で推定される体重が基準より小さいときに疑われ、日本では「胎児の推定体重が平均より1.5標準偏差(-1.5SD)未満」の場合をひとつの目安としています。
これは同じ週数の赤ちゃんを体重順に並べたとき、下位およそ7%にあたります。
発育不全と「小柄な体質」の赤ちゃんとの違い

赤ちゃんが小さく生まれる理由は主に二つあります。ひとつは遺伝や体質によるもので、健康上の問題はなく成長も順調です。
もうひとつが「胎児発育不全」で、これは母体の病気(高血圧など)や胎盤の機能不全、赤ちゃん自身の異常などにより、成長が阻害されている状態です。
医師は超音波検査での成長の推移や母体の健康状態を総合的に評価し、体質的に小さいだけなのか、それとも発育不全なのかを見極めます。
なぜ早期の発見と管理が重要なのか?
胎児発育不全を放置すると、出産時に合併症のリスクが高まったり、生まれた直後に低血糖や低体温、呼吸障害などを起こす可能性があります。
さらに将来的に高血圧や糖尿病など生活習慣病のリスクが高まることも知られています。
根本的な治療は難しいことも多いですが、早期に発見して適切な管理をすれば、赤ちゃんが安全に生まれるための準備が整えられます。
そのため、妊婦健診で「赤ちゃんが少し小さい」と指摘された場合は、医師の指示に従って慎重に経過を観察し、必要な管理を受けましょう。
胎児発育不全の原因

胎児の発育が遅れる背景にはさまざまな要因があり、大きく分けると母体側、胎盤やへその緒、胎児側の3つに分類されます。
原因は単独で起こる場合もあれば、複数が重なって発育を妨げることもあります。
一方で、検査しても明確な原因が見つからないケースもあり、原因不明のまま胎児発育不全と診断されることも少なくありません。
母体に関連する要因(生活習慣・持病など)
妊娠中の母親の健康状態や生活習慣は、胎児の発育に直接影響します。
代表的な要因としては、まず妊娠高血圧症候群があります。
母体の血管が収縮し、胎盤への血流が悪化することで、赤ちゃんに十分な酸素や栄養が届かなくなります。
また、腎臓病や糖尿病、自己免疫疾患(膠原病など)のような慢性疾患を持つ場合も、胎盤の血流障害を引き起こす可能性があります。
生活習慣も重要です。極端な栄養不良や過度なダイエット、過労や睡眠不足は、母体の血流やホルモンバランスを乱し、胎児の成長を妨げる要因のひとつです。
さらに、双子や三つ子といった多胎妊娠では、限られた子宮内のスペースや栄養を分け合うため、それぞれの赤ちゃんが十分に発育しにくくなります。
胎盤やさい帯に起こる異常
胎盤と臍帯(さいたい)は、母体から胎児へ酸素や栄養を届ける重要な役割を担っています。その働きに異常があると発育不全の原因となります。
【胎盤やさい帯に関連する要因】
- 胎盤機能不全
- 胎盤の形態異常
- さい帯の異常
胎盤機能不全では、胎盤の血管に異常が起こり血流が低下します。これが胎児発育不全の最も一般的な原因のひとつです。
胎盤の形態異常では、胎盤が通常より小さいことや形に異常があることで、胎児に栄養や酸素が届きづらくなります。
さい帯に異常があり、通常より細い、ねじれている、あるいは胎盤への付着部位がずれている(辺縁付着・卵膜付着など)場合、胎児への血流が妨げられます。
胎児に由来する要因
胎児自身の健康状態や遺伝的な問題も原因のひとつです。
【胎児に関連する要因】
- 染色体異常
- 先天性感染症
- 先天性奇形
染色体異常の代表例には、ダウン症(21トリソミー)や18トリソミーがあります。これらは発育の遅れや内臓の奇形を伴う場合もあります。
先天性感染症としては、サイトメガロウイルスや風疹などが挙げられます。母体から胎児へ感染が及ぶことで、発育に影響を与えることがあります。
先天性奇形も要因のひとつです。心臓や腎臓などに重度の奇形がある場合、成長が阻害されるケースがあります。
胎児発育不全とダウン症・染色体異常の関係

胎児発育不全と染色体異常のあいだには一定の関連があります。
特にダウン症(21トリソミー)、18トリソミー、13トリソミーなどの染色体異常をもつ胎児では、子宮内で成長が遅れるケースが多く報告されています。
これは染色体の異常が臓器や組織の発達に影響を与え、成長が妨げられるためと考えられています。
ただし、胎児発育不全が見つかったからといって、必ずしも染色体異常とは限りません。
母体の健康状態や胎盤の機能低下など、他の要因によっても発育不全は起こり得ます。
実際の診断では、超音波検査や母体血清マーカー検査、必要に応じてNIPTや羊水検査などを組み合わせ、総合的に原因を判断します。
妊婦健診で「発育不全の可能性がある」と言われた場合も、落ち着いて医師の指示に従い、必要な追加検査を受けることが大切です。
胎児発育不全の兆候

胎児発育不全は妊婦が自覚することは少なく、多くは妊婦健診で見つかります。
【妊娠中に見られる主な兆候】
- 子宮底長が妊娠週数に比べて小さい
- 超音波検査で推定体重が基準より低い
- 羊水量が少ない
- 胎動が弱い、または減少している
子宮底長が妊娠週数に比べて小さい場合や、赤ちゃんの頭囲・腹囲・大腿骨長などから算出される推定体重が基準を下回った場合、発育不全が疑われます。
また、胎児の尿産生が減ると羊水量が減り、これは重要なサインのひとつです。
胎動の減少や弱まりも胎児の健康状態に関わる所見ですが、胎児発育不全に特有の兆候ではないため、他の検査と合わせて総合的に判断されます。
胎児発育不全の影響

胎児発育不全は出生直後の体温・呼吸・代謝の安定に影響するだけでなく、その後の成長や健康リスクにも関わります。
ここでは出産直後に注意すべき合併症と、成長後に考えられる長期的なリスクを整理します。
出生直後に起こりやすい合併症
胎児発育不全で生まれた赤ちゃんは、体の予備力が小さく以下の合併症が生じやすいため、早期の適切なケアが大切です。
【代表的な合併症】
- 低血糖症
- 低体温症
- 多血症
- 呼吸窮迫症候群
代表的なのは低血糖症で、体内に蓄えられるエネルギーが少ないため血糖値が下がりやすくなります。
また、体脂肪が少ないことから体温を維持しづらく、低体温症を起こしやすい点も特徴のひとつです。
子宮内で酸素不足が続くと、赤血球が増えすぎて血液が濃くなり、多血症につながる場合があります。
さらに、肺の成熟が不十分だと自力での呼吸が難しく、呼吸窮迫症候群を発症する可能性もあります。
成長後に懸念される長期的リスク
多くの子どもは適切なフォローで順調に成長しますが、胎児期の栄養や低酸素の影響は、その後の体格・発達・代謝に反映されることがあります。
リスクはあくまで「なりやすさ」であり、早期からの見守りと生活管理で低減が期待できます。
【長期的に懸念されるリスク】
- 生活習慣病のリスク上昇
- 発達の遅れ
- 免疫力の低下
胎児期の栄養不足に体が適応する仕組みが働くと、将来的に肥満や高血圧、糖尿病、高脂血症などの生活習慣病を発症しやすいと考えられています。
また、重度の発育不全がある場合、運動能力や精神面、学習や行動面での発達の遅れが見られるケースもあります。
さらに、免疫力が十分でないため、感染症への抵抗の弱さも指摘されています。
胎児発育不全の診断方法

胎児発育不全を正しく判断するには、複数の方法を組み合わせて評価することが欠かせません。
まず基本となるのが、超音波による推定体重の算出と子宮底長の測定です。
子宮底長とは妊婦のお腹の最も上の部分(子宮底)から恥骨までを測った長さのことで、妊娠週数に比べて短い場合は発育不全の可能性が疑われます。
加えて、ドップラー法による血流測定やノンストレステスト(NST)により胎盤やさい帯の機能を確認し、胎児の酸素状態や心拍の反応を把握します。
尿検査や血圧測定は妊娠高血圧症候群の早期発見に有効であり、血液検査では感染症(サイトメガロウイルスなど)や貧血、腎機能の異常を調べることが可能です。
こうした結果を総合的に判断することで、単なる一時的な成長の遅れなのか、それとも医学的な管理が必要な状態なのかを見極めます。
胎児発育不全の治療と管理

胎児発育不全は根本的な治療が難しく、多くの場合「管理」にを通じて母体と胎児にできるだけ良い環境を整え、安全な出産へとつなげます。
基本となるのは、母体の安静や栄養バランスの改善、十分な休養といった生活習慣の見直しです。
必要に応じて入院し、点滴や薬による補助的な治療を行いながら、超音波検査やノンストレステスト(NST)で胎児の状態を継続的に観察します。
胎児の状態が悪化する恐れがある場合は、妊娠週数や推定体重、母体の健康状態を考慮して、分娩時期や分娩方法を検討します。
胎盤機能が低下しているときや胎児が極端に小さいときは、経腟分娩よりも帝王切開が選択されるケースもあります。
最終的には母体と胎児の状況を総合的に判断し、最も安全と考えられる方法がとられます。
胎児発育不全を防ぐためにできること
胎児発育不全を完全に防ぐのは難しいものの、妊娠前からの体調管理や妊娠中の生活習慣の工夫、定期健診によってリスクを減らせます。
1. 妊娠前の体調管理
高血圧・糖尿病・腎臓病など持病がある場合は妊娠前から専門医に相談し、適切に管理しておくことが重要です。
痩せすぎや肥満もリスクのため、妊娠を考える段階から適正体重を意識しましょう。
2. 妊娠中の生活習慣
バランスのとれた食事、適度な運動や休養、質の良い睡眠を心がけることが大切です。
趣味やリラックス法を取り入れてストレスを和らげる工夫も役立ちます。
3. 定期健診を欠かさない
胎児発育不全は自覚症状が少ないため、妊婦健診での子宮底長測定や超音波検査が早期発見のカギです。
胎動が急に減る、お腹の張りが頻繁にあるといった変化を感じたら、健診を待たずに早めに医療機関へ相談しましょう。
胎児発育不全と予後
胎児発育不全で生まれた赤ちゃんは、出産直後だけでなく成長の過程でも継続的なフォローが必要です。
出生直後は体温維持や血糖管理が重要で、必要に応じてNICUでの専門的な治療が行われます。
長期的にも発達や健康に影響が出る可能性があるため、定期健診で確認を続けることが欠かせません。
医療と家庭が連携して支えることが、赤ちゃんの健やかな成長につながります。
出産直後の赤ちゃんのフォロー

発育不全で生まれた赤ちゃんは、出産直後から特別なケアを必要とする場合があります。
重度の胎児発育不全で生まれた赤ちゃんは、新生児集中治療室(NICU)で専門的な治療を受けます。
たとえば、低血糖にはブドウ糖点滴、呼吸障害には人工呼吸器を使用します。
体重が少なく自分で母乳やミルクを飲めない赤ちゃんには、点滴やチューブを使った栄養補給など、一人ひとりの状態に合わせたケアが行われます。
長期的な発達や成長のサポート
退院後も赤ちゃんの発育を長期的に見守ることが大切です。
まず、定期健診で体重や身長の伸びを確認し、発育の遅れがあれば栄養指導や追加の支援が検討されます。
また、運動や言語の発達を定期的に確認し、必要に応じて理学療法や言語療法など専門的なサポートを受けることも重要です。
さらに、胎児期の栄養不足は将来の高血圧や糖尿病など生活習慣病のリスクを高める可能性があります。
成長期から食事や運動習慣を工夫し、健康的な生活を送ることが求められます。
まとめ 胎児発育不全を正しく理解して安心できる妊娠生活を送ろう

胎児発育不全とは、妊娠週数に対して赤ちゃんの成長が遅れている状態を指し、母体の健康状態、胎盤やさい帯の異常、胎児自身の要因などが関わります。
妊婦自身が異変に気づくことはほとんどないため、妊婦健診での早期発見と適切な管理が赤ちゃんの安全を守るために欠かせません。
染色体異常(ダウン症や18トリソミーなど)で胎児発育不全が見られることがありますが、必ずしも結びつくわけではありません。
診断を受けた場合も、過度に不安を抱かず、医師の指示に従い安静や生活習慣の改善に努めましょう。
また、家族や周囲の協力を得ながら心身の健康を保つことが、最大の予防と対策につながります。
気になることがあれば一人で抱え込まず、かかりつけの医療機関へ早めに相談してください。
染色体異常について知りたい方はこちらのコラムもご参考にしてください。