
妊娠中に気をつけなければいけないトラブルの一つに、妊娠高血圧症候群があります。
妊娠高血圧症候群は妊婦さんの約10人に1人の割合で起こり、重症化すると母子ともにトラブルが生じ、「胎児発育不全」や「胎児仮死」を引き起こす可能性もあります。
妊娠前の血圧が高くなかったからと言って油断はできません。
初期の段階では自覚症状がなく、特に今まで血圧に由来する病気と無縁であった方にとっては、妊娠中の高血圧についてどのように予防などしていけばよいのかわからないという方もいらっしゃるかもしれません。
今回は、妊娠高血圧症候群とはどのような病態なのか、予防方法や気をつけることなどをご紹介いたします!
妊娠高血圧症候群とは
妊娠高血圧症候群とは、妊娠前は正常な血圧だった人が、妊娠をきっかけに高血圧となってしまう病態です。
妊娠20週以降に初めて高血圧が見られ、分娩後12週までに正常値に戻る場合、妊娠高血圧症候群だと診断されます。
さらにタンパク尿を伴うこともあります。
*妊娠高血圧 収縮期血圧(最高血圧) 140mmHg以上 または 拡張期血圧(最低血圧) 90mmHg以上 の場合 |
*タンパク尿 尿中にタンパクが1日あたり0.3g以上出る場合 |
血流が悪いために高血圧になりますが、その状態が続くと血管に負担がかかり、心臓など各臓器に十分な血液が行き届きません。
腎機能が低下するとタンパク尿が出ますが、これは身体がSOSを出している証拠です。
ママの身体だけではなく、お腹の赤ちゃんにも十分な血液が届かないために、母子ともにさまざまなトラブルが生じます。
妊娠高血圧症候群は以前は「妊娠中毒症」と呼ばれていたため、そちらの方が耳にしたことがあるかもしれません。
妊娠中毒症とは、「高血圧」「尿タンパク」「浮腫(ふしゅ:むくみ)」のいずれかの症状があれば診断されていましたが、現在はむくみが外され特に高血圧を重要視し「妊娠高血圧症候群」となっています。
妊娠前から高血圧であったり、妊娠20週未満で高血圧になった場合は、「高血圧合併妊娠」といいます。
原因
妊娠高血圧症候群のはっきりとした原因はまだ解明されていません。
妊娠するとママの胎盤から子宮へ血管が作られ、血液を介してお腹の赤ちゃんにも栄養や酸素が運ばれます。
妊娠高血圧症候群はその血管が上手くつくられず、胎盤でさまざまな物質が異常につくられ、全身の血管に作用して引き起こされるのではないかといわれています。
妊娠すると、お腹の赤ちゃんにも血液に酸素や栄養をのせて供給していかなければならないこともあり、血流量が増えます。
そのため血圧も変化しやすくなり、非妊娠時より高血圧になりやすい傾向にあります。
症状
妊娠高血圧症候群の主症状は高血圧とタンパク尿です。
妊娠高血圧症候群は、妊娠後期である妊娠32週以降に発症しやすいのが特徴ですが、妊娠32週未満で発症した場合は重症化しやすいため、特に注意が必要です。
初期の段階では自覚症状はありませんが、重症化すると以下の症状を引き起こすことがあります。
【妊娠高血圧症候群が重症化すると起こる症状】
- 頭痛
- 耳鳴り
- 手足がしびれる
- 火照る
- 脳出血
- けいれん発作(子癇:しかん)
- 意識障害
- 肝臓や腎臓の機能障害
- HELLP症候群(ヘルプ症候群):肝機能障害に溶血と血小板減少を伴う
通常これらの症状は出産後に軽快しますが、一度妊娠高血圧症候群になるとその後に高血圧や脳卒中、心筋梗塞やメタボになりやすくなることが分かってきています。
そのため、出産後も長期にわたって注意が必要です。
赤ちゃんに及ぼす影響
妊娠高血圧症候群は、重症化するとお腹の赤ちゃんに十分な栄養や酸素が行き届かず、以下の症状を引き起こすことがあります。
すべての症状が出るわけではありませんが、重症であればあるほど、赤ちゃんへ影響を及ぼす割合が高くなっていくことが分かっています。
妊娠高血圧症候群の人では、平常な血圧の妊婦さんと比べて早産のリスクが2倍高くなります。
また、ママや赤ちゃんの状態が悪くなると、出産予定日を待たずに人工早産(帝王切開)にすることもあります。
さらに、生まれた赤ちゃんが将来、生活習慣病になりやすくなるといわれています。
なりやすいのはどんな人?

妊娠高血圧症候群を起こしやすい人には、以下のような傾向があります。
【妊娠高血圧症候群になりやすい人の特徴】
- 太りすぎ、妊娠中の体重増加が著しい
- やせすぎ
- もともと血圧が高い
- 持病がある:糖尿病や心臓病、腎臓病など
- 家族に高血圧やその他持病がある人がいる
- 高齢初産:血管が老化し始めるので負担が大きい
- 多胎妊娠(双子など):母体にかかる負担が大きい
- ヘマトクリット(Ht)値が高い:血液中の赤血球の割合が多いと血液が濃くなり過ぎて血圧が高くなる
- 生活習慣が乱れている
- 前の妊娠時に妊娠高血圧症候群になった
高血圧になるのはどちらかというと太っている人のイメージがあると思いますが、痩せすぎていても身体にかかる負担が大きいため、リスクになります。
初産は妊娠高血圧症候群の発症リスクとして特徴的なものの一つで、妊娠高血圧症候群の2/3は最初の妊娠時に発症しているというデータもあります。
35歳以上の高齢出産の場合に発症頻度が高くなり、40歳以上でさらにリスクが高くなります。
妊娠間隔が開くと、妊娠高血圧症候群となる頻度が高くなるというデータもあります。
最初の妊娠から次の妊娠まで5年以上開くと頻度が高くなり、10年以上開いた場合は初産の時と発症頻度が同程度になるとされています。
父親側のリスクも指摘されています。
父親となるパートナーとの妊娠に至るまでの性交期間が短ければ短いほど、妊娠高血圧症候群を発症するリスクが高いという報告もあります。
遺伝するのか?
妊娠高血圧症候群は、遺伝的な要因が関係します。
家族歴としては特に、母親や姉妹が妊娠高血圧症候群になったことがある場合、発症頻度が高くなります。
また、高血圧や糖尿病、腎臓病などの持病のある方がご家族にいらっしゃる場合にも妊娠高血圧症候群になりやすいといわれています。
ご家族にそのような方がいらっしゃる場合には、特に気をつける必要があります。
治療法
妊娠高血圧症候群になってしまった場合は「安静」を基本とし、血圧が上がらないよう食事や日々の生活習慣を見直します。
安静にすることで交感神経の緊張が緩和し、血圧が下がりやすくなります。
どのくらい安静にするべきかは、妊娠高血圧症候群の重症度によっても異なります。
食事では体重が増えすぎないよう、脂肪・糖分の摂りすぎに気をつけます。
また減塩による有効性は証明されていませんが、むくみの原因にもなるため、塩分は摂り過ぎないようにしましょう。
重症の場合は入院をして安静にし、徹底した食事の管理と降圧剤によってコントロールします。
しかし、急激に血圧が下がるとお腹の赤ちゃんに悪影響を及ぼす可能性があり、降圧剤の使用は慎重にする必要があります。
入院治療でも状態が悪化し、ママやお腹の赤ちゃんに危険があると判断した場合は、人工早産で早く赤ちゃんを出してあげて、妊娠を終わらせることもあります。
出産への影響
妊娠高血圧症候群になってしまったとしても、血圧を上手くコントロールできてお腹の赤ちゃんも元気に育っていれば経膣分娩が可能です。
ただし、陣痛中は血圧が上がりやすいため、危険があると判断した場合は緊急帝王切開となることもあります。
帝王切開については「コラム:どういうときに帝王切開になる?費用やキズのケアなど徹底解説!」もご参考にしてください。
ならないようにするためには?予防方法

妊娠高血圧症候群になりやすい人の傾向はありますが、誰にでも起こり得ます。
また、妊娠の経過が順調でも、妊娠末期に妊娠高血圧症候群になることもあるので油断はできません。
妊娠高血圧症候群の詳しい予防法は分かっていませんが、高血圧を予防するためには以下のことに気をつけるとよいでしょう。
体重のコントロール
妊娠中の体重増加は、多すぎても少なすぎてもよくありません。
特に、急激に増えないよう管理しましょう。
塩分を摂り過ぎない
妊娠中は特にむくみやすいため、食事は薄味を心掛けましょう。
ストレスをためない
ストレスが多いと疲れや睡眠不足につながり、血圧が高くなりやすくなります。
できるかぎり、ストレスを減らしたり解消できる工夫をしましょう。
血行が悪くなることを避ける
身体を冷やす、長時間座りっぱなしなど同じ姿勢を続けるなど、血行が悪くなることは避けましょう。
また、適度な運動を心掛けるとよいでしょう。
まとめ

妊娠高血圧症候群は重症化すると母子ともに危険な状態になることがあるため、まずはならないように予防することが大切です。
しかし、予防に努めていてもだれにでも起こる可能性があり、初期の段階では自覚症状もないため、きちんと妊婦健診を受けて早期発見をすることが、重症化を防ぐことになります。
妊娠中は気をつけることがたくさんありすぎてストレスが増えると思いますが、可愛い我が子と会える日を思い浮かべて、今しかない妊娠生活を楽しんでください。
参考:
妊娠高血圧症候群/北海道薬剤師会(外部サイトへ移動します)
妊娠高血圧症候群の診療指針2015/日本妊娠高血圧学会(外部サイトへ移動します)