
ダウン症は、新生児に見られる染色体異常の中で最も頻度が高く、NIPTや超音波検査など、いくつかの出生前診断でその可能性を調べることができます。
特に、高齢出産ではダウン症の発生率が高まることが知られており、晩婚化による出産年齢の上昇に伴って、出生前診断を希望する方も増えています。
このコラムでは、ダウン症がいつわかるのか、検査の時期やエコー所見の特徴などについてわかりやすくまとめています。
ダウン症(21トリソミー)とは

ダウン症(ダウン症候群)は、染色体異常の一つであり、新生児の染色体疾患の中で最も多くみられます。
21番目の染色体が3本あるため「21トリソミー」とも呼ばれます。(「トリ」はラテン語で「3を意味します」)
【ダウン症の特徴】
- 顔や体の特徴:
- 平坦な顔立ち
- つり上がった目(内眼角贅皮)
- 小さく低い鼻
- 小さい耳、耳の位置がやや低い
- 舌が大きく見える(相対的巨舌)
- 首が短い
- 手足が短い
- 手のひらに1本の横しわ(猿線)
- 筋肉の緊張が低く、体が柔らかい(低緊張)
- 発達の傾向:
- 運動発達(はいはい、歩行など)がゆっくり
- 言葉の発達が遅れがち
- 知的発達の遅れ(軽度~中等度が多いが個人差あり)
- 学習には時間がかかるが、理解力・社会性は育つ
- 明るく社交的な性格の子が多い
- 合併しやすい疾患:
- 先天性心疾患(心室中隔欠損など)
- 消化器系の異常(腸閉鎖、ヒルシュスプルング病など)
- 視力障害(白内障、屈折異常)
- 聴覚障害(中耳炎、難聴)
- 甲状腺機能低下症
- てんかん
- 白血病の発症リスク上昇
- 睡眠時無呼吸症候群
- 環軸椎不安定症(頸椎の不安定)
なお、「ダウン症候群」は「病気」として認識されがちですが、染色体に変化があることと病気であることは必ずしも同じではありません。
人は誰でも数個の遺伝子の変化を持っているとされており、遺伝子の変化自体は決して珍しいことではありません。
そのため、ダウン症を「疾患」としてだけでなく、一人ひとりの個性や多様性の一つとして受け止める考え方が、社会の中で少しずつ広まりつつあります。
本コラムでは便宜上「疾患」という表現を用いていますが、すべての人が尊重され、自分らしく生きられる社会を目指すうえでも、こうした理解と受け入れが広がっていくことが望まれます。
ダウン症はいつわかる?

ダウン症であることが分かる時期は、妊娠中の検査または出生後のいずれかです。
ダウン症は、生まれる前に行う出生前診断によって疑われることがあります。
スクリーニング検査のひとつであるNIPT(新型出生前診断)は、妊娠10週から検査を受けることができ、非確定検査であるものの、ダウン症に対する検査精度が非常に高いのが特徴です。
出生後には、筋肉の緊張が弱いことや特有の顔つきなどから、医師がダウン症の可能性を疑うことがあります。
その場合は、血液を用いた染色体検査(染色体分析)によって確定診断が行われます。
妊娠中:エコー検査で分かる特徴

妊婦健診で行われる超音波検査(エコー検査)では、胎児にダウン症の可能性があることを示唆する特徴(所見)が確認されることがあります。
【ダウン症の可能性を示す主なエコー所見】
- 首の後ろ(後頸部)のむくみが厚い(頸部浮腫:NT)
- 鼻骨の低形成(鼻骨が短い、または確認できない)
- 大腿骨が短い
- 上腕骨が短い
- 内反足(足が内側に曲がっている)
- 心臓の形態異常(心奇形)
- 腎盂拡張(軽度の水腎症)
- 十二指腸閉鎖(腸の閉塞)
- 羊水過多
生まれたダウン症のある赤ちゃんの約半数に先天性心疾患がみられます。
十二指腸狭窄や閉鎖などの消化器官奇形はおよそ10%に見られます。
ただし、これらの所見が一つでも見られるからといって、必ずしも胎児がダウン症であるとは限りません。
多くの所見は健常な赤ちゃんにも見られることがあるため、慎重な判断が必要です。
複数の所見が重なる場合には、染色体異常の可能性が高まることがあるため、必要に応じて詳しい検査(NIPTや羊水検査など)が検討されます。
NT肥厚

NT(ヌーカル・トランスルーセンシー)は、妊娠初期(11週~13週頃)に行う超音波検査で、胎児の首の後ろにある透明な組織の厚さを測定するものです。
一般には「首のうしろのむくみ」とも表現されます。
この部分が通常より厚い場合、ダウン症などの染色体異常や心臓の構造的な異常など、特定の先天性疾患のリスクが高まる可能性があります。
ただし、NTが厚くても必ず異常があるわけではなく、逆にNTが正常範囲内でも異常が見つかることもあります。
そのため、NT測定は他の検査(NIPTや母体血清マーカー検査など)と組み合わせて評価されるのが一般的です。
妊娠中:出生前診断

生まれる前にダウン症の可能性を調べる検査にはいくつかの種類があり、検査の時期や精度はそれぞれ異なります。
検査名 | 実施期間 | ダウン症に 対する感度 | 対象疾患 | 結果報告 までの期間 | 費用 | 留意点 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
非確定検査 | NIPT | 妊娠10~16週頃 | 99% | ・ダウン症 ・18トリソミー ・13トリソミー ・その他… | 数日~2週間 | 10~25万円 | 結果が陽性でも 確定ではない |
コンバインド検査 | 妊娠11~13週頃 | 85%程度 | ・ダウン症 ・18トリソミー ・13トリソミー | 2~4日 | 3~5万円 | ||
母体血清マーカー検査 | 妊娠15~17週頃 | 80%程度 | ・ダウン症 ・18トリソミー ・神経管閉鎖障害 | 1~2週間 | 2~3万円 | ||
確定検査 | 羊水検査 | 妊娠15~18週頃 | 100% | 染色体異常全般 | 2~4週間 | 10~20万円 | 流産・死産 リスクあり |
絨毛検査 | 妊娠11~14週頃 | 100% | 染色体異常全般 | 約2週間 | 10~20万円 |
このうち、NIPT、コンバインド検査、母体血清マーカー検査はスクリーニング検査(非確定検査)として用いられます。
これらの検査で陽性となった場合や、ダウン症の可能性が高いと判断された場合には、確定検査である羊水検査や絨毛検査を受けて、ダウン症かどうかを診断します。
出生前診断の目的は、生まれる前に胎児の病気や障害について把握し、安全な分娩方法を選択するとともに、出生後の治療や育児につなげるための準備をすることにあります。
なお、ダウン症だからといって難産になりやすいというわけではありませんが、早期にサポート体制などの情報を得ることで、出産や育児に向けた準備を早めに進めることができます。
出生後に分かる特徴

生まれたばかりの赤ちゃんにダウン症がある場合、特有の顔貌(顔つき)やその他の見た目の特徴、筋力の弱さなどから、医師がダウン症の可能性を疑うことがあります。
ただし、生まれてすぐにははっきりと分からず、後日の乳児健診などで初めて疑われることもあります。
【ダウン症の主な身体的特徴】
- つり上がった目(内眼角贅皮)
- 鼻が低くて平坦な顔立ち
- 舌が大きく見える(相対的巨舌)
- 手のひらに1本の横しわ(猿線)
- 筋肉の緊張が弱く、体がふにゃっとしている(低緊張)
- 手足が小さい、指が短い
- 首が短い
ただし、こうした特徴は個人差が大きく、すべての赤ちゃんに見られるわけではありません。
生まれたばかりのダウン症の赤ちゃんの特徴については、こちらのコラムもご参考にしてください。
ダウン症の赤ちゃんが生まれる確率

染色体異常の中で最もよく知られているのがダウン症ですが、その理由のひとつとして、他の多くの染色体異常と比べて出生に至る割合が高いことが挙げられます。
受精卵の段階では、ダウン症を含むさまざまな染色体異常が発生しています。
しかし、ダウン症以外の染色体異常の多くは流産につながる可能性が高く、生まれても重篤な症状があり、長く生きることが難しいケースが少なくありません。
日本では、ダウン症のある赤ちゃんが生まれる確率は、出生児の約500人に1人程度の割合で、その人数は10年間変わらず推移しています。1)
染色体異常の中で一番多い

染色体疾患をもつ赤ちゃんの中で、最も多いのがダウン症であり、半数以上を占めています。
ダウン症、18トリソミー、13トリソミーの3つのトリソミーが、出生時に確認される染色体異常の約7割を占めており、そのため、胎児の染色体異常を調べる検査である「新型出生前診断(NIPT)」では、これら3つが基本の検査対象となっています。
染色体異常が起こる割合などについては、「コラム:染色体異常が起こる確率とは?」をご参考にしてください。
高齢出産とダウン症のリスク
35歳以上で出産することを、一般的に高齢出産といいます。
出産年齢が上がると、ダウン症のある子どもが生まれる確率が高くなることが知られています。
これは、女性が生まれたときにすでに卵子のもととなる細胞を持っており、年齢を重ねるにつれて卵子が成熟・排卵される過程で染色体の分離エラーが起こりやすくなるためです。
【出産年齢と染色体異常を持つ子供が生まれる頻度】

Hook EB. (1981). Rates of chromosome abnormalities at different maternal ages. Obstet Gynecol , 58, 282-5. PMID: 6455611
Hook EB, Cross PK & Schreinemachers DM. (1983). Chromosomal abnormality rates at amniocentesis & in live-born infants. JAMA , 249, 2034-8. PMID: 6220164 Schreinemachers DM, Cross PK & Hook EB. (1982). Rates of trisomies 21, 18, 13 & other chromosome abnormalities in about 20 000 prenatal studies compared with estimated rates in live births. Hum. Genet. , 61, 318-24. PMID: 6891368
ダウン症の出生確率は35歳以降緩やかに上昇し、40歳前後からそのリスクは加速度的に高まります。
染色体異常のある胎児は多くの場合、出生まで至らず妊娠初期に流産となりますが、ダウン症の場合も、約75〜80%が妊娠の途中で流産や死産となります。
なお、日本国内には現在、約8万人のダウン症のある方が生活していると推定されています。
次の妊娠での再発率
一人の女性が二度妊娠したとしても、それぞれの妊娠は統計的に独立しているとされています。
つまり、基本的には一度目の妊娠でダウン症のあるお子さんを授かったとしても、そのことが二度目の妊娠に直接的な影響を与えるわけではありません。
ただし、条件によっては次回妊娠の際のダウン症再発リスクがわずかに上昇することが知られています。
要因としては、妊娠時の母親の年齢や、両親いずれかに潜在的な染色体構造異常(転座など)がある場合などが挙げられます。
家族内にダウン症やその他の染色体トリソミーの方がいる場合、再発リスクは一般よりも高く、約1%程度とされています。
また、ダウン症の子の妊娠歴がある方では、次の妊娠時の年齢が30歳未満の場合、同年代の他の女性と比べて再発リスクが8.2倍、30歳以上の場合は2.2倍に上昇するという報告もあります。2)
さらに、ダウン症の子の妊娠歴が2回以上ある場合は、再発リスクが10〜20%となり、このようなケースでは、両親のいずれかが染色体構造異常の保因者である可能性が考えられます。2)
ダウン症の平均寿命

ダウン症のある方は、かつては合併症である先天性心疾患や消化管疾患の影響により、平均寿命が20歳未満とされていました。
しかし、これらの疾患に対する手術技術や術後管理の向上により、現在では平均寿命が60歳を超えるとされています。
日本国内では、現在約8万人のダウン症の方が生活しており、その過半数が成人を迎えていると推定されています。
これまでに報告されているダウン症の方の最高年齢は83歳です。
ただし、出生から5歳までの死亡率は、一般の小児と比べて高い傾向にあります。
特に小児期における主な死因は、先天性心疾患と白血病とされています。
また、米国の研究では、ダウン症のある黒人の平均寿命が白人に比べて短い傾向があることが示されており、これは医療や教育、支援制度の利用における格差が関係している可能性が指摘されています。
ダウン症の方は、比較的若い年齢から認知症の症状が現れることがあります。
40代頃から、記憶障害、知的機能の低下、人格の変化といった、アルツハイマー型認知症に似た症状がみられるケースも報告されています。
ダウン症の原因と遺伝の可能性

ダウン症(21トリソミー)は、染色体の異常によって起こります。
染色体とは、遺伝情報を担うDNAが凝縮して折りたたまれた構造体であり、多くの遺伝情報が親から子へ受け継がれる際の媒体となっています。
ヒトの染色体は、22対(計44本)の「常染色体」と、性別を決定する1対(2本)の「性染色体」から構成されています。
常染色体には、基本的に大きい順に1番から22番までの番号が付けられています。
ダウン症(21トリソミー)は、21番染色体が通常は2本で1対のところ、3本存在する、もしくは部分的に過剰な状態にあることが原因です。
染色体異常のほとんどは偶発的に発生するものであり、ダウン症もその約95%は遺伝によるものではなく、自然に発生します。
ダウン症は、染色体の数や構造の違いによって、以下の3つの型に分類されます。
【ダウン症の3つの型】
- 標準型
- 転座型
- モザイク型
標準型(トリソミー型)
ダウン症の中で最も多いのがこの標準型であり、全体の約90〜95%を占めます。
標準型は、染色体の数に異常が生じることによって起こり、その約90%は母親の卵子形成時に起こる染色体の不分離という、偶発的な染色体異常によるものです。
このタイプは、高齢出産において発生頻度が高まる傾向がありますが、年齢に関係なく一定の確率で自然に発生することも確認されています。
そのため、妊娠前の生活習慣や飲食物、両親の遺伝的な特性などが直接的な原因となるわけではありません。
なお、約10%は父親の精子形成時における染色体の不分離が原因とされています。
転座型
転座型ダウン症は、21番染色体の一部または全体が、他の染色体に転座(染色体の一部が入れ替わる)して構造が変化した状態であり、ダウン症の約3〜4%を占めます。
このタイプでは、21番染色体に由来する遺伝情報が過剰になるものの、その余分な部分が他の染色体に付着しているため、見かけの染色体数(46本)は正常でも、21番染色体の遺伝子が3コピー存在することになります。
その結果、遺伝子量が増加し、標準型の21トリソミーと同様の症状が現れます。
転座型のうち、約3分の1は父母いずれかが転座型の染色体を保因している(遺伝性)ケースで、残りの約3分の2は新たに生じた偶発的な転座によるものと考えられています。
モザイク型
モザイク型ダウン症は、正常な細胞と21トリソミーの細胞の両方をもつ状態であり、ダウン症全体の約1〜2%を占めるまれなタイプです。
この型では、正常な細胞の割合が多いほど、症状が比較的軽くなる傾向があるとされています。
ただし、症状の程度はモザイク細胞の割合や分布によって異なり、個人差が大きいことにも留意が必要です。
まとめ

ダウン症は、超音波によるエコー検査での所見や、NIPT(新型出生前診断)などの検査によって、早期に可能性を知ることができます。
出生頻度はおよそ500人に1人で、母親の年齢が上がるほどリスクも高まりますが、誰にでも起こりうる染色体の偶発的な異常です。
染色体異常そのものを治療することはできませんが、心奇形など手術で治療可能な合併症については、出生前にわかっていれば、早期に適切な医療体制を整えて出産に備えることができます。
NIPTを受けるかどうか迷っている場合は、遺伝カウンセラーや専門医に相談することができます。
第三者に相談することで、正確な情報のもとで冷静に考えを整理し、自分にとって納得のいく選択がしやすくなるかもしれません。
不安を感じている方は、ひとりで抱え込まず、まずは相談してみてください。
NIPT JapanのNIPTの特長についてはこちらをご参考にしてください。
【参考】
1)成人期を見据えたダウン症候群のある児への関わり/小児保健研究
2)Gardner RJM, et al. Chromosome abnormalities and genetic counseling. 4th ed. Oxford University Press; 2012. p.277-94.
編著:関沢明彦,佐村修,四元淳子,「周産期遺伝カウンセリングマニュアル 改訂3版」,中外医学社,2020年5月