
高齢出産が増えている中、生まれてくる赤ちゃんの染色体の疾患を心配する夫婦が増えています。
出生前診断を受けるか迷い、ネットなどで検索している方も多いのではないでしょうか。
本コラムでは、染色体異常はなぜ起こるのか、その確率がどれくらいなのかなど皆さまが疑問に思うことについてご紹介しています。
染色体とは

染色体は、遺伝情報がつまったDNAが太く折り畳まれたもので、親から子に受け継がれる多くの遺伝情報が収められています。
ヒトの体は37兆個あるいは60兆個の細胞からできていると言われていて、とにかく途方もなくたくさんの細胞からできており、その細胞一つ一つの核の中に染色体があります。
ヒトの染色体は23対46本で1セットです。
染色体は、以下の2タイプがあります。
- 常染色体
- 性染色体
染色体の数は生物によって異なります。
ヒトは46本ですが、例えばネコだと38本で構成されています。
46本の染色体は、父親から受け継ぐものと、母親から受け継ぐものとがペアとなって23組に分かれており、44本(22対)は常染色体、2本(1対)は性染色体と呼ばれています。
常染色体

ヒトの染色体のうち、44本(22対)が常染色体です。
常染色体は、長いものから順番に番号が割り振られているのですが、21番と22番を比べると、実際は21番の方が短いことが判明しています。
21番の染色体に異常があると、ダウン症(ダウン症候群)の赤ちゃんが生まれます。
性染色体
性染色体は23番の染色体で、常染色体と役割が異なります。
性染色体は性別に関わる染色体で、X染色体と、Y染色体があり、通常XXだと女性、XYだと男性になります。
母親はX染色体しか持っていないため、赤ちゃんには母親からはX染色体を受け継ぎます。
そして、父親からY染色体を受け継げば男の子に、X染色体を受け継げば女の子が生まれることになります。
染色体異常とは

染色体異常とは、親から子に染色体を受け継ぐ時、父母から1本ずつもらうべき染色体を2本受け継いだり、遺伝情報が突然変化したりして生じる異常です。
染色体異常は、数が増減するタイプ(数の異常)と形状に変化が起こるタイプ(構造異常)があります。
父母から1本ずつもらうべき染色体を多くもらってしまう確率は、妊娠年齢が上がるほど上昇する傾向にあります。
1本余計にもらう「染色体の数の異常」をトリソミーと呼びますが、23対のどの染色体でも起こります。
最も多いのが、21トリソミー(ダウン症候群)、13トリソミー、18トリソミーです。
染色体の形が変化する「構造の異常」は、染色体の一部に異常が起こります。
ある染色体の一部、または全体が別の染色体と誤って結合してしまうケースや、染色体の一部が欠けていたり、重複していたりするケースもあります。
構造の異常は、父母のいずれかが保因者の場合、子どもに遺伝する可能性があります。
保因者とは、症状は出ていないけれども染色体の構造異常がある人です。
父親あるいは母親に染色体異常が発見された時は、遺伝カウンセリングを受けることで遺伝的リスクについて理解することができます。
染色体に変化が起こった場合、サイズが大きい染色体の方がより影響が大きく、生きていくうえで重大な問題が発生しやすいため、ほとんどの場合は流産してしまい出生まで至りません。
大きい染色体というのは、番号が小さい染色体のことです。
染色体異常があると出産後に知的障害、低身長、けいれん発作、心臓の病気、口蓋裂などさまざまな症状や合併症が起こる可能性がありますが、その程度まで予測することは困難です。
染色体異常の多くは遺伝ではなく偶然に起こるため、誰にでもその可能性があります。
出産年齢と染色体異常の頻度
染色体の数の異常は母親に由来することが多く、出産年齢が上がるにつれて、受精卵が作られる過程での分裂が正しく行われず染色体の過剰や不足が起こりやすくなります。
一般的に35歳以上ではじめて出産することを高齢出産といいますが、出産年齢が高くなるほど子どもの染色体異常の頻度が高くなることが知られています。
【女性の年齢と染色体異常を持つ子が生まれる頻度】

グラフから分かる通り、35歳から急激に増えるわけではなく、緩やかに増加していきます。
「何歳から確率が高い」ととらえるかは、人それぞれでしょう。
一方で、染色体の構造の異常は父親に由来することが多く、こちらも父親の高年齢化によって頻度が増えることが知られています。
染色体異常が起こる頻度と多い順番

染色体異常を含めて、生まれつきの疾患や障害を「先天性疾患(先天障害)」といいます。
生まれた赤ちゃんのうち、3~5%は何らかの先天性疾患を持って生まれてきます。
「何らかの先天性疾患」には染色体異常のほか、筋ジストロフィー症などの遺伝子病、遺伝的要因に環境要因が作用したものなどがあります。
そして、染色体異常はその「何らかの先天性疾患」のうち、約25%を占めています。
染色体異常(染色体疾患)のうち、最も多いのがダウン症(21トリソミー)でおよそ53%、次いで18トリソミー、13トリソミーの頻度が高く、この3種類のトリソミーで染色体異常の約7割を占めます。
胎児の染色体異常を調べる検査である「新型出生前診断(NIPT)」では、この3種類のトリソミーを基本の検査項目としています。
新型出生前診断(NIPT)についてはこちらもご参考にしてください。
染色体異常はいつ分かる?
妊娠中のおなかの赤ちゃんについて、発育や異常の有無などを調べる検査のことを「出生前診断」といい、エコー検査もこれに含まれます。
出生前診断には、超音波画像によって見た目の異常を調べる検査と、羊水検査や新型出生前診断(NIPT)などの染色体異常を調べる検査があり、それぞれの検査で特徴が異なります。
染色体異常を調べる検査は早いと妊娠10週から受けられるものもありますが、すべての先天性疾患が分かるわけではないことに注意が必要です。
出生前診断についてはこちらもご参考にしてください。
生まれた後ではどうでしょうか?
出生直後に特徴的な見た目や症状などから何らかの疾患を疑い検査をすることもありますが、症状がほとんどない場合もあります。
乳幼児期は何の症状もなくても思春期に二次性徴があらわれなかったり、出産を考えたときに不妊で検査をした際などに発覚することもあります。
特に性染色体異常は症状がほとんどない場合もあり、一生気づかない人が一定数いると考えられています。
染色体異常の種類の一覧
【比較的出生頻度の高い染色体異常一覧】
染色体異常 | 発生頻度(人) | |
---|---|---|
常染色体 | ダウン症(21トリソミー) | 1/500 |
18トリソミー | 1/8,000 | |
13トリソミー | 1/12,000 | |
性染色体 | ターナー症候群 | 1/2,000~2,500 |
トリプルX症候群 | 1/1,000(女児) | |
クラインフェルター症候群 | 1/500~1,000(男児) | |
XYY症候群(ヤコブ症候群) | 1/1,000(男児) | |
微小欠失(構造異常) | ディジョージ症候群 (22q11.2欠失症候群) | 1/4,000~6,000 |
アンジェルマン症候群 プラダー・ウィリー症候群 (15q11-q13欠失症候群) | 1/15,000 (それぞれ) | |
猫鳴き症候群 (5p欠失症候群) | 1/15,000~50,000 | |
1p36欠失症候群 | 1/25,000~40,000 | |
ウルフ・ヒルシュホーン症候群 (4p欠失症候群) | 1/50,000 |
まとめ
先天性疾患の種類や特徴、症状は多様なため、治療や対応も一人ひとり異なります。
赤ちゃんのことで気になる点があれば、早めに医師に相談することをおすすめします。
また新型出生前診断で検査できるのは一部の疾患に限られ、確実に疾患の有無を判定できるわけではありません。
新型出生前診断を受ける際には検査結果への正しい知識や最新の医療情報を知っておきましょう。