出生前診断の一つである「新型出生前診断(NIPT)」では、どこの施設で検査を受けても基本的に「ダウン症」「18トリソミー」「13トリソミー」が検査項目に含まれます。
13トリソミーは小児慢性特定疾病に指定されている染色体異常で、医療費の助成制度や様々な支援体制があります。
ここでは13トリソミーとはどういった疾患でどのような合併症があるのかなどについてご紹介しています。
13トリソミー(パトウ症候群)とは
13トリソミー(パトウ症候群)は染色体異常の一つで、ダウン症(21トリソミー)、18トリソミーに次いで頻度が高い疾患です。
口唇口蓋裂や多指、小眼球などの外表的な合併症の割合がほかのトリソミーと比べて高く、運動機能や知的発達に関連する神経系の発達に重度の遅れが見られます。
生まれる前からたくさんの症状があり、ママのおなかの中にいる間に約50%は流産や死産となり、生後1年での生存率は5~10%と生命予後が厳しいことで知られています。
近年では医療技術の発達やデータの蓄積などにより予後が改善するケースも増えており、子どもの状況を含め夫婦の多様な考え方を尊重した治療方針をという認識が高まっています。
特徴
ママのおなかの中にいる胎児の段階から超音波検査で分かるだけでも様々な症状があり、特に体の形成に異常が見られることが多くあります。
なおすべての特徴が見られるわけではなくその有無や程度には個人差があります。
胎児の特徴
胎児期の特徴は超音波検査によって調べることができます。
【胎児の超音波所見】1)
- 発育不全(61%)
- 手足の異常(52%)
- 心奇形(43%)
- 全前脳胞症(39%)
- 口唇口蓋裂(39%)
- 水腎症(37%)
- 大槽拡大(25%)
- 臍帯ヘルニア(17%)
妊娠週数に対して成長が遅い傾向にあります。
前脳が適切に分割されない「全前脳胞症」があると、知的発達の遅れや言語障害、運動障害などにつながります。
後述の身体的特徴に出てくる、多指や手指の重なりなど、手足の異常が52%に見られます。
大槽(だいそう)とは小脳の後ろ側のスペースのことで、この部分が拡大すると脳脊髄液が過剰に蓄積し、脳の圧迫や神経細胞の損傷などが引き起こされることがあります。
顔貌
顔や顔周りの特徴が多く見られます。
【13トリソミーの顔貌】
- 小眼球
- 眼間近接
- 目立つ鼻梁
- 少顎
- 後頭部や頭頂部の頭皮部分欠損
- 耳介異形成
- 短頸
顔立ちの特徴としては、両眼の間が近い、はなすじが目立つ、あごが小さい、くびが短いなどがあります。
生まれつき眼球が小さい「小眼球症」など目の異常が多く見られます。
耳の形や位置に異常が見られることもあります。
後頭部や頭頂部の皮膚の一部が生まれつき欠損していることがあります。
身体的特徴
【13トリソミーの身体的特徴】
- 多指
- 手指の重なり
- 踵の骨が突出している
- 口唇口蓋裂
- 内反足
手足に異常が見られることが多く、指の数が多いことや、指が重なり合っているような握り方をすること、足が足首から内側を向いている内反足などがあげられます。
くちびるや上あごが生まれつき割れている「口唇口蓋裂」が39%に見られます。
合併症
生まれたときからさまざまな合併症が起こる可能性があり、重度であることも珍しくありません。
【13トリソミーの合併症】
- 心疾患
- 無呼吸
- 全前脳胞症
- 臍帯ヘルニア
- 水腎症
- 視神経欠損
- 難聴
- 外耳道閉鎖
- 停留精巣(男児)
- 双角子宮(女児)
- 運動発達や知的発達の重度の遅れ
循環器系や呼吸器系、消化器系や筋骨格系、泌尿器系や中枢神経系など全身に数多くの合併症を抱えて生まれてきます。
心疾患
生まれつき心臓に何らかの病気があることをまとめて先天性心疾患といい、13トリソミーでは約80%の人に心疾患がみられます。
心疾患の中でも、心臓の右心室と左心室の間の壁に穴が空いている「心室中隔欠損症」、心臓の右心房と左心房の間の壁に穴が空いている「心房中隔欠損症」が多く見られます。
手術で穴を塞ぎますが、その大きさや位置などによっては自然に閉じる場合もあります。
無呼吸
脳や脊髄などの中枢神経系の障害により、長く呼吸のない状態が続いたり突然呼吸が止まったりすることがあります。
全前脳胞症
全前脳胞症(ぜんぜんのうほうしょう)は、脳が作られる過程の一部が上手くいかなかったために起こり、染色体異常の中でも特に13トリソミーに多く見られます。
口唇口蓋裂や鼻や目の異常など顔面の形成に障害が起こりやすく、多指や心奇形などの原因にもなります。
多くは重度の知能障害と運動障害をともないます。
臍帯ヘルニア
臍帯ヘルニア(さいたいヘルニア)は、胎児の段階で赤ちゃんのおなかの壁が上手く作られず、生まれたときにへその緒の中に胃や腸、肝臓などが出たままの状態のことをいいます。
水腎症
水腎症とは腎臓で作られた尿が途中でせきとめられて、腎臓やその先の通り道などに尿がたまって拡張した状態のことをいいます。
小眼球
13トリソミーでは小眼球のほか目の異常が多く見られます。
【13トリソミーの目に起こる異常】
- 小眼球症:片方または両方の眼球が小さい
- 眼間狭小:眼と眼の間が狭い
- コロボーマ:眼の組織の一部に欠損が生じた状態
- 無眼球症:片方または両方の眼球が無い
- 単眼症:眼が顔の中央に一つしか作られない
難聴
耳にもさまざまな異常が見られます。
難聴がよく見られますが、赤ちゃんの難聴は発見が遅れがちです。
難聴の可能性があるということを知っておくと検査によって早めに診断することができます。
そのほか耳の形や位置が通常と異なることや、耳の穴が生まれつき塞がっていたり極端に狭いことなどがあります。
生殖器の異常
男女ともに高い確率で生殖器に異常の傾向があり、男児では停留精巣と陰嚢異常、女児では双角子宮などの子宮の形の異常が起こります。
停留精巣とは「陰嚢(いんのう)(たまたま)」の中に精巣がない状態のことです。
双角子宮(女児)とは、子宮体部(子宮の上の方の部分)が2つに分かれている状態のことです。
運動発達、知的発達の遅れ
今まで出てきた脳の発達の遅れや体のさまざまな問題から、比較的重い運動障害と知的障害がよく見られます。
言葉を話したり、一人で歩くことは難しいですが、ゆっくりと成長していきます。
個人の状況に応じて言語療法や理学療法を行なうことによって、できる幅が広がることもあります。
原因は染色体異常
13トリソミーは染色体の異常によって起こります。
染色体とは遺伝情報がつまったDNAが太く折りたたまれたもので、親から子に受け継がれる多くの遺伝情報が収められています。
ヒトの染色体は22対(44本)の「常染色体」と、男女の性別を決める1対の「性染色体」から成り立っています。
常染色体は長いものから基本的に順番に1~22番の番号が付けられています。
13トリソミーはこのうち13番目の染色体が1本多いなど通常と異なる構造に変化していることにより起こります。
染色体に変化のある細胞と正常な細胞の両方が混ざったものを「モザイク型」とよび、13トリソミーの約5%はこのモザイク型とされています。
モザイク型は症状や合併症の程度が軽くなる傾向にあります。
ダウン症、18トリソミーに次いで多い
染色体疾患をもって生まれてくる赤ちゃんのうち、最も割合が多いのはダウン症(21トリソミー)で半分以上を占めており、18トリソミー、13トリソミーと続きます。
ダウン症、18トリソミー、13トリソミーの3種類のトリソミーで染色体異常の7割を占めることもあり、胎児の染色体異常を調べる検査である「新型出生前診断(NIPT)」では、この3種類を基本の検査項目としています。
生まれる確率
出生頻度の報告には幅がありますが、生まれてくる赤ちゃんのうち約8,000~12,000人に1人の確率で13トリソミーであるとされています。
受精卵の段階では13トリソミーを含むもっと多くの染色体異常が起こっていますが、その大部分は流産や死産となり生まれてくることができません。
13トリソミーは胎児期からの発育不全や合併症などもあいまって、妊娠初期に13トリソミーであると発覚した妊娠のうち、約半数は流産もしくは死産となってしまいます。
高齢出産では確率が高くなる?
35歳以上で初めて出産することを一般的に高齢出産といいます。
出産年齢が上がるにつれて、受精卵が作られる過程での分裂が正しく行われず染色体の過剰や不足が起こりやすくなります。
その結果ダウン症などの染色体異常の頻度が増えることが知られていますが、13トリソミーも同様に高齢出産によって生まれる確率が高くなります。
【女性の出産年齢と13トリソミーの子が生まれる頻度】
グラフからも分かる通り、35歳になると急に確率が高くなるわけではなく30代後半から緩やかに上昇します。
遺伝するのか?
染色体異常と聞くと親から子へ遺伝すると思われるかもしれませんがそのほとんどは偶然起こるもので、13トリソミーも転座型トリソミーと呼ばれる一部の型を除いては基本的に遺伝ではありません。
常染色体の数の異常は高齢出産などによって頻度は高くなりますが、誰にでも起こり得ます。
妊娠前の生活習慣や飲食物が影響するものではありません。
寿命
生命予後は厳しいことで知られており、生まれてからの治療介入が不明な状態での2003年の調査によると、生後1年の生存率は5~10%との報告があります。2)
しかし近年では手術での治療介入や新生児集中治療などにより、生後1年での生存率が54%との報告もあり3)、さらなる改善が期待されます。
治療法
13トリソミーは現在のところ根本的に治療することはできず、染色体異常そのものに対する治療法はありません。
治療方針については、赤ちゃんの状況やご夫婦の意思を尊重しながら最善の医療を検討していきます。
多くの合併症を持つため、医療設備の整った病院で分娩し、すぐに合併症の治療を開始する必要があります。
13トリソミーは出生後の命に係わる疾患のため、超音波検査やスクリーニング検査により13トリソミーの指摘を受けた際は、医師に相談しながら家族でよく話し合うことが大切です。
また昨今では標準的新生児集中治療、心臓手術などの手厚い医療により、生命予後が改善するとされるエビデンスが蓄積されてきています。
赤ちゃんにとって必要な医療的ケアや療育的支援、家族への支援を考えていくことが大切です。
検査方法:出生前診断
出生前診断にはいくつかの種類があり、新型出生前診断(NIPT)や羊水検査のほか、超音波検査も広義には出生前診断に含まれます。
NIPTは任意の検査のため希望をする方のみ受けますが、基本的な超音波検査は妊婦健診で全員が受けるものです。
超音波検査による画像から著しい発育不全やイチゴ型頭蓋などを見つけ詳しく検査をして発覚する場合もあります。
出生後はすぐに新生児集中治療や外科治療が必要になるため、生まれる前に13トリソミーだと分かっていることは大きな意味があります。
遺伝カウンセリング
出生前診断でダウン症などの染色体異常が発覚した場合、中絶を選択する人が多いことについて議論がつきません。
特に13トリソミーは外表的な合併症が多いのが特徴で、生まれる前の超音波検査で分かるものもありますが、生まれた後にどのような症状がどの程度起こるのかまで調べることは困難です。
NIPTを含む出生前診断は受ける前に、検査の結果を受けてどう判断しその後はどのように行動していくのかを、あなたとあなたのパートナーで十分に話し合っておく必要があります。
とはいっても、検査を受けて気持ちが変わることも判断に迷うこともあるでしょう。
そのようなときに遺伝カウンセリングを受けることは、難しい決断を迫られたときの一助になるでしょう。
遺伝カウンセリングは臨床遺伝専門医や遺伝カウンセラーなどのプロによって行われます。
遺伝カウンセリングでは、正確な遺伝学的情報を知れる事に加えて「社会的にどのような支援体制があるのか?」「どのような倫理的問題があるのか?」など、自らが意思決定できるように援助してもらえます。
今後どのような検査や治療を選択すべきか、あるいは検査を受けるべきか否か悩んでいる方は、遺伝カウンセラーに相談してみるのがよいでしょう。
遠隔での遺伝カウンセリングを行っている施設も少数ながらあります。
遺伝カウンセリングについてはこちらもご参考にしてください。
まとめ
13トリソミーは生命予後が非常に厳しいことで知られていますが、医療技術の発展や考え方の多様化などにより個々に合わせた治療方針をという認識が高まってきています。
出生前診断では生まれたあとの障害の程度までは調べることができませんが、事前に知ることによって選択肢が広がるかもしれません。
とはいってもそう簡単な問題でもなく、安心したくて受けた出生前診断でおなかの赤ちゃんが13トリソミーだと聞かされて動揺するケースが多々あります。
知る権利も知らない権利もあります。
もし検査に迷うのなら、一度遺伝カウンセリングを受けられてみてもよいかもしれません。
参考文献:
1)Ville YG, Nowakowska D. Prenatal diagnosis of fetal malformations by ultrasound. In: Milunsky A, Milunsky JM, eds. Genetic disorders and the fetus. UK: Wiley-Blackwell; 2010. p.819-81.
2)Rasmussen SA, Wong LYC, Yang QY, et al. Population-based analysis of mortality in trisomy 13 and trisomy 18. Pediatr. 2003; 111: 777-84.
3)Nishi E, Takasugi M, Kawamura R, et al. Clinical courses of children with trisomy 13 receiving intensive neonatal and pediatric treatment. Am J Med Genet. 2018; 176 A: 1941-9.
編著:関沢明彦,佐村修,四元淳子,「周産期遺伝カウンセリングマニュアル 改訂3版」,中外医学社,2020年5月