
妊娠したら注意すべき感染症の一つが「麻疹」と「風疹」です。
これらは感染力が非常に強く、妊娠中に感染すると母子の健康に多くのリスクをもたらします。
このコラムでは、麻疹と風疹が妊婦や胎児にどのような影響を及ぼすのか、具体的な症状やリスクについてわかりやすく解説します。
症状を知っておこう
麻疹と風疹は非常に強い感染力を持つことで知られています。
免疫を持たない集団での感染拡大の指標である基本再生産数で見ると、インフルエンザが1.5~2であるのに対し、麻疹は12~18、風疹は5~7とされています。
【麻疹(はしか)の症状と特徴】
- 初期は風邪のような症状
- コプリック班が現れる(口の中の白い斑点)
- 高熱
- 全身に広がる発疹
- 同じ空間にいるだけで感染する
- 免疫がない人の感染率はほぼ100%
- 合併症:肺炎、中耳炎、脳炎
- まれに命に関わる場合もあり
- ワクチン接種で予防可能
【風疹の症状と特徴】
- 軽い発熱
- 顔から全身に広がる発疹
- 発疹は3日程度で消える
- リンパ節の腫れ
- 潜伏期間:2~3週間
- ワクチン接種で予防可能
麻疹

麻疹(ましん)は、麻疹ウイルスによる感染力が非常に強い病気で、風邪のような症状が2~3日続いた後、38度以上の高熱と全身に発疹があらわれるのが特徴です。
一般的に「はしか」と呼ばれ、飛沫感染や空気感染、接触感染などによって広がります。
免疫を持たない人が接触するとほぼ100%の確率で発症し、感染者と同じ空間にいるだけでも感染する可能性があります。
一度感染して発症すると免疫を獲得し、再感染することはほとんどありません。
大人になってから感染すると重症化しやすく、妊娠中に感染すると流産や早産のリスクが高まります。
麻疹の潜伏期間は10~12日程度で、発疹が出る1~2日前から感染力が強まります。
症状がなくても感染させる可能性があるため、予防対策が重要です。
風疹

風疹(ふうしん)は、風疹ウイルスによって引き起こされる感染力が強い感染症で、発熱、顔から全身に広がる発疹、耳の後ろや首のリンパ節の腫れが特徴です。
はしか(麻疹)に症状が似ているものの、はしかより軽症で発疹が約3日程度で消えることから、「三日ばしか」とも呼ばれます。
感染しても15~30%の人は無症状です。
とは言っても決して軽視はできず、妊娠中に感染すると胎児が「先天性風疹症候群」を発症するリスクがあるため、予防接種が重要です。
風疹は飛沫感染や接触感染によって広がります。
一度感染して発症すると免疫を獲得し、再感染することはほとんどありません。
大人になってから感染すると高熱や発疹が強くでる可能性があるほか、関節痛や合併症が見られることもあり、子どもに比べて症状が長引くことがあります。
風疹の潜伏期間は2~3週間程度で、発疹が出る前後約1週間は感染力があります。
妊娠中に麻疹に感染するとどうなる?
妊娠中に麻疹に感染すると流産や早産の可能性が高くなりますが、胎児の先天異常とは関係ないとされています。
妊婦さん自身は重症化するリスクが高いため、妊娠前のワクチン接種が大切です。
【妊婦の麻疹感染による影響】
- 流産、早産となる可能性が高い
- 胎児の先天奇形・先天異常とは関係ない
- 妊婦自身は重症化リスク大
胎児への影響
麻疹は妊娠中に感染しても胎児に先天的な異常を引き起こすことは少ないとされていますが、流産や早産のリスクが15~30%増加します。
特に、その多くは麻疹の発疹が出てから2週間以内に流産となります。
また、母親が麻疹の抗体を持っている場合、その抗体は胎盤を通じて子どもに移行し、生後数カ月間赤ちゃんを麻疹から守ります。
一方で、母親が抗体を持たない場合、新生児期に感染すると重症化するリスクが高まるため注意が必要です。
妊婦自身への影響:重症化リスク
妊娠中は免疫力が低下しているため、麻疹に感染すると肺炎や脳炎などの重い合併症を伴う重症化のリスクが高まり、命にかかわることもあります。
また、高熱や全身の発疹による体力消耗が大きく、妊娠の継続が難しくなる可能性があります。
これらを防ぐため、妊娠前にワクチン接種を行い、感染リスクを減らすことが重要です。
妊娠中に風疹に感染するとどうなる?
妊娠中に風疹に感染すると、妊婦自身は比較的軽い症状で済むことが多いものの、胎児に「先天性風疹症候群」という深刻な影響を及ぼす可能性があります。
【妊婦の風疹感染による影響】
- 先天性風疹症候群のリスク
- 流産、死産
- 妊婦自身の症状は軽度
妊娠週数が早いほど胎児への影響は大きく、妊娠12週までの感染で90%以上の確率で先天性異常が発生するとされています。
また、流産や死産の可能性も高まります。
胎児への影響:先天性風疹症候群

妊娠初期に風疹に感染すると、生まれてくる赤ちゃんに先天性風疹症候群という先天異常が生じる可能性があります。
【先天性風疹症候群の主な症状】
- 先天性心疾患
- 難聴
- 視覚障害(白内障、網膜症、緑内障)
- 低出生体重
- 精神発達遅滞
- 血小板減少
- 小眼球
先天性心疾患、難聴、白内障が3大症状であり、その他にも低体重で生まれる、精神発達遅滞のリスクなど影響は多岐にわたります。
難聴は高度な場合が多く、視覚障害も併発するため、日常生活に大きな支障をきたします。
妊娠1ヵ月で感染した場合50%以上、妊娠2ヶ月の場合は35%の確率で胎児に先天性風疹症候群が発生するとされています。
妊娠中期以降は胎児への影響は減少しますが、完全にリスクがなくなるわけではなく、引き続き注意が必要です。
妊婦自身への影響
妊娠中に風疹に感染した場合、妊婦自身への影響は通常軽症で、軽い発熱や全身の発疹、耳の後ろや首のリンパ節の腫れ、関節痛などが見られる場合があります。
一般的に症状は軽度ですが、妊娠中は免疫力が低下しているため、まれに重症化することがあります。
感染対策

麻疹は接触、飛沫、空気のいずれの感染経路でも感染します。
【麻疹の感染経路】
- 接触感染:触ったものから感染(手を洗わないと危険)
- 飛沫感染:近くにいると感染しやすい(咳やくしゃみのしぶき)
- 空気感染:空気中を漂うウイルスを吸い込んで感染(離れていても危険)
感染者が触ったものを介して感染するほか、咳やくしゃみ、会話をしたときに出る唾液や鼻水のしぶきを吸い込むことで感染します。
麻疹は同じ空間にいるだけで感染します。
ウイルスが非常に小さいため、手洗いやマスクの着用だけでは予防できません。
【風疹の感染経路】
- 接触感染
- 飛沫感染
風疹は空気感染はしませんが、接触、飛沫によって感染します。
飛沫は空気中に長く留まらず、感染する距離は1~2m程度とされています。
マスクの着用は風疹の予防に一定の効果がありますが、完全な防止策ではありません。
麻疹も風疹も、最も有効な予防方法はワクチン接種です。
ワクチンは免疫をつけることで感染を防ぐだけでなく、集団免疫を形成して感染の拡大を抑える効果もあります。
また、アルコール消毒や界面活性剤入りの洗剤もウイルスの不活化に有効です。
妊娠中のワクチン接種は可能?

妊娠中または妊娠の可能性がある女性は、麻疹や風疹のワクチン接種はできません。
これらは生ワクチンであり、胎児への安全性が確立されていないためです。
妊娠を希望する女性は、妊娠前に麻疹や風疹の抗体検査を受け、必要に応じてワクチン接種を行うことが推奨されています。
麻しん風しん混合ワクチン(MR)は、約95%の人が両方の感染症に対する免疫を獲得するとされています。
ワクチン接種後は、約2か月間の避妊が必要です。
麻疹や風疹に対する抗体がない妊娠中の女性は、感染を防ぐために人混みを避けるなどの予防策を講じることが重要です。
さらに感染リスクを減らすため、妊婦本人だけでなく同居家族や職場の人も未接種・未感染の場合はワクチンを接種することが推奨されます。
妊娠前の抗体検査
麻疹・風疹は一度感染すると免疫(抗体)が作られ、生涯にわたって持続するため、通常は再感染することはありません。
またワクチン接種でも同様に終生免疫を獲得できます。
そのため過去の感染歴やワクチン接種があれば基本的に抗体があると言えます。
ただし、初回感染や接種で十分な抗体が形成されなかった場合、抗体価の減少や免疫力の低下により、再感染する可能性があります。
妊娠を計画している女性は、胎児を守るために麻疹・風疹の抗体検査を受け、必要に応じて予防接種を行うことが推奨されます。
夫が麻疹・風疹にかかった場合の対処法
麻疹は感染力が非常に強いため、夫や同居の家族が麻疹にかかった場合、すみやかに医療機関に相談して指示を仰ぐことが重要です。
受診前には必ず電話で連絡し、麻疹患者に接触したことを伝えてください。
かかりつけの産婦人科では他の妊婦への感染リスクがあるため、感染症に詳しい内科や大きな病院を受診してください。
病院では妊婦自身が麻疹の抗体を持っているかを確認し、過去の感染歴やワクチン接種歴が不明な場合は抗体検査が行われます。
抗体がない場合、接触から5~6日以内であれば、ガンマグロブリン注射による一時的な感染予防が提案されることがあります。
また、夫が麻疹と診断された場合、妊婦は接触を避け、別室で生活するなど感染予防策を徹底してください。
麻疹は空気感染するため、同じ空間で過ごさないよう注意してください。
夫が風疹にかかった場合も基本的な対処法は同じですが、風疹は飛沫感染が主な経路であるため、感染対策の中心は接触回避と換気です。
空気感染対策ほどの隔離は不要ですが、特に妊娠初期は胎児への影響を考慮し、慎重に対応する必要があります。
まとめ

麻疹は感染力が非常に強く、妊婦が感染すると肺炎や脳炎などの重症化リスクが高まり、流産や早産のリスクも増加します。
妊娠中の感染で胎児に先天的な異常が直接起こることはないものの、母体の健康状態が胎児に影響を与える場合があります。
一方、風疹は妊娠初期に感染すると胎児に先天性風疹症候群(CRS)を引き起こすリスクが高くなります。
CRSの主な症状は、心疾患、難聴、視覚障害です。
特に妊娠12週までの感染では90%異常の確率で胎児に障害が発生するとされ、流産や死産の可能性も高まります。
麻疹・風疹の影響を防ぐため、妊娠前に抗体検査を行い、必要に応じてワクチン接種を受けることが重要です。
【参考文献】