妊婦が麻疹(はしか)に感染したら?流産・早産リスクと母体への影響

妊婦が麻疹(はしか)に感染したら?流産・早産リスクと母体への影響

妊娠中に麻疹(はしか)の流行や感染に関するニュースを目にして、「もし自分が感染したら赤ちゃんに影響はあるのだろうか」と不安になっていませんか。

麻疹は感染力が非常に強く、免疫を持っていない人が感染すると90%以上が発症します。1)2)

流産や早産との関係が取り上げられることもありますが、情報が多く、どこまで心配すべきなのか判断に迷う方もいるでしょう。

この記事では、妊婦が麻疹に感染した場合に考えられる母体や赤ちゃんへの影響と、知っておきたい基本的なポイントを整理しています。落ち着いて状況を理解するための参考にしてください。

妊婦の麻疹感染が胎児へ与える影響

妊娠中に麻疹へ感染した場合、胎児への影響として特に注意したいのは、流産や早産などの妊娠合併症です。

一方で、「麻疹にかかると赤ちゃんに先天異常が起こるのでは」と不安を感じる方もいるかもしれませんが、現在の報告では、麻疹と先天異常との関連は確認されていません。

詳しくは後述しますが、この点は風疹とは胎児への影響が異なるため、区別して理解しておくことが大切です。

流産・早産リスク

妊娠中の麻疹感染では、流産早産低出生体重児のリスクが高まることが報告されています3)

海外の研究では、麻疹に感染した妊婦は感染していない妊婦と比べて、自然流産のリスクが約5.9倍子宮内胎児死亡のリスクが約9倍高かったとする報告もあります4)

妊娠時期主な胎児への影響
妊娠初期(~15週頃)流産リスクの上昇
妊娠中期(16~27週頃)胎児発育不全や早産のリスク上昇
妊娠後期(28週以降)早産、低出生体重児、胎児死亡のリスク上昇
分娩直前新生児への感染(先天性麻疹)の可能性

流産や早産のリスク上昇には、母体の高熱や肺炎などの全身状態の悪化が関与している可能性が考えられています。

また、妊娠後期や出産間近に母体が発症すると、赤ちゃんが十分な免疫を獲得できない可能性があり、出生後に重症化することもある5)ため注意が必要です。

ただし、実際のリスクは母体の重症度や妊娠経過によって異なるため、感染や接触の可能性がある場合は速やかに産婦人科へ相談しましょう。

先天異常とは関係ない

麻疹と風疹の違い

麻疹は流産や早産のリスクを高める一方で、胎児に形態的な奇形などの先天異常を引き起こすことは確認されていません5)

この点は風疹との大きな違いです。風疹は妊娠初期の感染によって先天性風疹症候群を引き起こし、難聴や心疾患・白内障などの先天異常につながることがあります。

ただし妊娠後期に麻疹へ感染した場合には、胎児や新生児へウイルスが感染する「先天性麻疹」が起こることがあります。この場合、出生後に発熱や発疹、呼吸器症状などがみられ、新生児管理が必要になる可能性があります。

妊娠中の麻疹感染は母体が重症化しやすい

妊婦は麻疹が重症化しやすい理由

妊婦が麻疹にかかると重症化しやすいことが知られています6)

その理由として、妊娠中は胎児を維持するために母体の免疫機能が変化しており、その影響で一部の感染症が重症化しやすくなるためと考えられています。

特に肺炎などで呼吸状態が悪化すると、母体だけでなく胎児への酸素供給も低下し、胎児機能不全や早産のリスクが高まります。

麻疹感染で注意したい主な合併症には、次のようなものがあります。

合併症特徴
肺炎激しい咳や呼吸困難、低酸素状態を招く。

妊婦では肺炎の合併頻度が高い
・1941〜2012年の妊婦麻疹420例を対象としたシステマティックレビューでは、肺炎の合併は17.9%(75例)7)
脳炎激しい頭痛、嘔吐、けいれん、意識障害などを伴う。
一般の麻疹では約1,000人に1人と発症はまれ1)だが、重篤な後遺症や死亡につながることがある。

・ナミビアの研究では、麻疹感染妊婦55例中5%に脳炎を合併4)
中耳炎激しい耳の痛みや高熱、耳だれを伴う。麻疹でよくみられる合併症のひとつ
腸炎・下痢激しい下痢や腹痛、脱水を引き起こす

一般的な麻疹の死亡率は、医療体制の整った先進国でも1,000人に1人程度です1)。一方で、妊婦の麻疹感染では入院、肺炎、死亡のリスクが高いことが報告されています。

海外の研究では、妊婦の麻疹感染による死亡率は約3~4%とする報告もあります6)7)が、この数値には古い時代や医療環境の異なる地域の症例も含まれるため、現代の日本にそのまま当てはめることはできません。

妊娠中に麻疹感染が疑われるとき

妊娠中に麻疹への感染が疑われる場合は、直接病院へ行く前に、必ず電話で相談してください。

麻疹(はしか)は空気感染するため1)、まずは「かかりつけの産婦人科」または「地域の保健所」に連絡し、受診方法などの指示を仰ぎましょう。

電話では、妊娠中であること、症状の内容、麻疹患者との接触歴の有無などを伝えるとスムーズです。

発疹が出る前の段階では、風邪と区別がつきにくいこともあります。「ただの体調不良かもしれない」と自己判断せず、感染の可能性がある場合は早めに相談することが大切です。

麻疹の主な症状

麻疹が感染する時期

麻疹(はしか)は風邪のような症状から始まり、その後に高熱や発疹が現れるのが特徴です。1)

約10~12日間の潜伏期間を経て、3つのステージをたどりながら症状が大きく変化します。

時期主な症状8)
初期(カタル期)
最初の3~4日間
・38℃前後の発熱
・激しい咳、鼻水、のどの痛み
・目の充血、大量の目やに、まぶしさ
発疹期
その後の4~5日間
・カタル期の終わりに熱が下がりかけた後、半日以内に39~40℃の高熱
・本格的な発疹(赤い発疹が融合しながら全身へ広がる)
・強い咳
回復期
発症から約1週間後
・発疹の赤みが消え徐々に薄くなる。一時的に色素沈着を残すことがある

麻疹は発疹が出る前から感染力があります1)。そのため、「まだ発疹がないから麻疹ではない」とは判断できません。

風邪のような症状でも、次のような状況に当てはまる場合は麻疹の可能性を考慮する必要があります。

  • 麻疹が流行中である
  • 麻疹にかかったことがない
  • 麻疹ワクチンを接種したことがない
  • 麻疹患者と接触した
  • 高熱や呼吸苦などの症状がある

症状だけで麻疹かどうかを判断することは難しいため、感染の可能性があると感じた場合は早めに医療機関へ相談しましょう。

同居家族に感染者が出たら

同居家族が麻疹と診断された場合は、妊婦本人に症状がなくても速やかに産婦人科へ連絡しましょう。

麻疹は感染力が極めて強く、同じ空間にいただけでも感染している可能性があります。

妊婦本人に麻疹に対する十分な免疫がなく、麻疹患者との接触があった場合は、曝露後6日以内であれば免疫グロブリン製剤の投与が検討されます。日本のガイドラインでも妊婦は投与対象とされており9)、発症予防や重症化リスクの低減が期待できます。

自宅では生活空間を分けることや換気を行うことが重要ですが、家庭内では感染を完全に防ぐことが難しいため、早めに医療機関へ相談してください。

可能であれば、発症した家族の感染力が落ち着くまで、抗体を持つ親族宅などへ一時的に避難することも検討しましょう。

妊娠中に麻疹感染を防ぐためにできること

麻疹は手洗い・マスクだけでは防げない

妊娠中に麻疹(はしか)の感染を防ぐうえで最も重要なのは、「同居家族が2回のワクチン接種を完了していること」と、「流行期の人混みを極力避けること」です。

手洗いやマスクだけでは、麻疹を十分に防ぐことはできません1)

麻疹は非常に感染力が強く、かつ妊娠中は麻疹ワクチンを接種できません。そのため、周囲からウイルスを持ち込まない環境づくりが基本になります。

パートナーや同居家族のワクチン接種

麻疹は家庭内で感染が広がりやすく、免疫のない人の90%以上が感染するとされています10)

現在の子育て世代には、子どもの頃に麻疹ワクチンを1回のみ接種した人や、定期接種の機会がなかった人が含まれています。日本では2006年度から麻疹ワクチンの2回定期接種が導入された11)ため、それ以前の世代では、十分な免疫を獲得できていない人がいる可能性があります。

麻疹の予防には2回のワクチン接種が推奨されています1)

しかし、「子どもの頃に1回打ったから大丈夫」と思っている人も少なくありません。その結果、職場や通勤中に感染した家族が、気づかないまま自宅へウイルスを持ち込んでしまうケースがあります。

一部の自治体では、妊婦の同居家族を対象に抗体検査やワクチン接種費用を助成しています。お住まいの自治体のホームページなどで確認してみてください。

麻疹流行時に注意したい行動

麻疹が流行している時期は、不特定多数の人が集まる閉鎖的な空間や、小さな子どもが多い場所への不要不急の外出はできるだけ避けましょう。

麻疹は非常に感染力が強い感染症です。1人の患者から平均12〜18人に感染が広がる可能性があるとされており12)、季節性インフルエンザ(R₀約1〜2)を大きく上回る感染力を持っています。

また、麻疹は空気感染するため、患者と直接接触していなくても感染する可能性があります。感染者が立ち去った後の空間でも、ウイルスが最大2時間程度空気中に残ることがあり、その場所に後から入った人が感染することもあります2)

そのため、一般的な感染症以上に人との接触機会を減らすことが重要です。

特に注意したい場所としては、次のような環境が挙げられます。

  • イベントや大型商業施設への外出:流行が落ち着くまでは極力控える
  • 混雑した電車やバス:時差通勤や空いている時間帯を選ぶ
  • 保育園・幼稚園・児童館への出入り:送り迎えや行事参加は可能なら家族に代わってもらう
  • 麻疹流行地域への海外渡航、および帰国直後の人との接触

まとめ

麻疹の症状

妊娠中の麻疹感染では、流産や早産、低出生体重児などのリスクが高まることが報告されています。一方で、風疹のような先天異常との関連は確認されていません。

ただし、妊婦は重症化しやすく、肺炎などの重い合併症を起こす可能性があります。母体の健康だけでなく、胎児への影響を防ぐためにも感染予防を徹底することが大切です。

感染の可能性がある場合や、同居家族に感染者が出た場合は、自己判断せずに速やかに産婦人科や保健所へ相談してください。


参考URL

1)厚生労働省.麻しん(はしか).https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/measles/index.html(参照 2026-06-05)

2)Centers for Disease Control and Prevention.About Measles.https://www.cdc.gov/measles/about/index.html(参照 2026-06-05)

3)American College of Obstetricians and Gynecologists.Measles, Mumps, Rubella (MMR) Vaccination and Management of Obstetric–Gynecologic Patients During a Measles Outbreak.https://www.acog.org/clinical/clinical-guidance/practice-advisory/articles/2024/03/management-of-obstetric-gynecologic-patients-during-a-measles-outbreak(参照 2026-06-05)

4)National Library of Medicine.Maternal, Fetal, and Neonatal Outcomes Associated With Measles During Pregnancy: Namibia, 2009–2010.https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10613509/(参照 2026-06-05)

5)National Library of Medicine.Rasmussen SA, Jamieson DJ.What Obstetric Health Care Providers Need to Know About Measles and Pregnancy.https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4552307(参照 2026-06-05)

6)National Library of Medicine.Eberhart-Phillips JE, Frederick PD, Baron RC, et al..Measles in Pregnancy: A Descriptive Study of 58 Cases.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8414327/(参照 2026-06-05)

7)sciencedirect.Congera VA, et al..Measles in Pregnant Women: A Systematic Review of Clinical Outcomes and a meta-analysis of antibodies seroprevalence.https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0163445319303846(参照 2026-06-05)

8)国立健康危機管理研究機構.麻しんQ&A.https://id-info.jihs.go.jp/relevant-information/measles/faq/overview/index.html(参照 2026-06-05)

9)国立感染症研究所.医療機関での麻疹対応ガイドライン 第七版.https://id-info.jihs.go.jp/manuals/guidelines/measles/medical_201805.pdf(参照 2026-06-05)

10)Centers for Disease Control and Prevention.Measles (Rubeola).https://www.cdc.gov/yellow-book/hcp/travel-associated-infections-diseases/measles-rubeola.html(参照 2026-06-05)

11)厚生労働省.MRワクチン.https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/yobou-sesshu/vaccine/mr/index.html(参照 2026-06-05)

12)National Library of Medicine.Guerra FM, Bolotin S, Lim G, et al..The Basic Reproduction Number (R0) of Measles: A Systematic Review.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28757186/(参照 2026-06-05)


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