妊娠中にインフルエンザにかかることは、妊婦自身だけでなくおなかの赤ちゃんにも影響を及ぼす可能性があります。
2025年1月現在、日本ではインフルエンザの感染が急速に拡大しています。
一医療機関あたりの患者数が64.39人で「警報レベル」の30人を大幅に上回り、調査開始以来、最多となりました。
日本では毎年約1千万人、およそ10人に1人がインフルエンザに感染しています。
コロナ渦ではマスクの着用や外出制限によって感染対策が徹底されたことで、2020年度の感染者数は1.4万人と、例年と比較して1,000分の1まで減少しました。
コロナが流行していた時期はインフルエンザは全然流行していませんでしたが、感染対策が緩和された2025年現在、インフルエンザの免疫を持つ人が少なくなっているためか、過去最多の勢いで大流行しています。
このコラムでは、インフルエンザが妊婦と胎児に及ぼす具体的な影響や罹った際の対処法、ワクチン接種のメリットについて詳しく解説します。
正しい知識を身につけて、妊娠中の健康を守りましょう。
インフルエンザの症状を知っておこう
インフルエンザは、インフルエンザウイルスを病原とする感染症のことで、日本では主に冬季に流行します。
【インフルエンザの症状】
- 急な発熱(38℃以上の高熱)
- 全身の強い倦怠感や悪寒
- のどの痛みやせき
- 筋肉痛や関節痛
- 頭痛
- 鼻水や鼻づまり
- 食欲低下
- 腹痛・下痢
症状は風邪と似ていますが、風邪より症状が重く突然の高熱や全身のだるさが特徴で、重症化しやすい傾向にあります。
通常は一週間程度で回復しますが、妊娠中にかかると重症化しやすく、肺炎などの合併症を引き起こす可能性があります。
インフルエンザは、飛沫感染や接触感染によって広がります。
感染者の咳やくしゃみを介して空気中に広がる飛沫を吸い込むことで感染します。
また、感染者が触った物を触ることでウイルスが手につき、その手で口や鼻を触ることで感染することもあります。
妊婦がインフルエンザにかかったらどうなる?
妊娠中は免疫力が落ちているため妊婦自身の重症化リスクが高くなるだけでなく、おなかの赤ちゃんにも影響を及ぼす可能性があります。
おなかの赤ちゃんへの影響とは?
妊婦さんが感染しても、インフルエンザウイルスは胎盤を通過しないため、ウイルスそのものが胎児に直接影響を及ぼすことはないと考えられています。
しかし、妊娠初期の感染が原因で染色体異常以外の先天異常の頻度が上昇したとの報告があり、その可能性が指摘されています。1)
これは、胎児の器官形成期である妊娠初期での高熱などが影響している可能性がありますが、はっきりとは分かっていません。
また妊娠後期での感染は胎児の発育に影響し、早産2)や低出生体重児となるリスクが高まります。
妊婦自身への影響:重症化リスクに注意
ただでさえつらいインフルエンザですが、妊娠中は重症化しやすく、まれに合併症を引き起こして最悪の場合、命を落とすこともあります。
心臓にウイルスが感染すると急性心筋炎を引き起こし、心不全や不整脈が起こる場合があります。
妊娠後期は子宮が大きくなり肺が圧迫されるため、呼吸機能が低下しやすくなります。
この状態でインフルエンザによる肺炎を発症すると、肺が十分に酸素を取り込めず、重症化しやすくなります。
さらに、胎児への酸素供給が不足することで、母体だけでなく胎児の成長にも悪影響を及ぼす可能性があります。
そのほか糖尿病(妊娠糖尿病)、ぜんそく、心疾患などをもつ妊婦さんは、基礎疾患の症状が悪化することがあるので注意が必要です。
妊娠中のワクチン接種は可能?
妊娠中のインフルエンザワクチン接種は可能であり、むしろ推奨されています。
インフルエンザワクチンは不活性化ワクチン(生きたウイルスを含まない)で、胎児への悪影響も報告されておらず、妊娠中のどの期間でも接種することができます。
特に、妊娠後期に接種したワクチンで作られる抗体は胎盤を通じて胎児に移行します。
これにより、生まれた赤ちゃんは生後6カ月間、インフルエンザ感染リスクが低下することが報告されています。
なお、生後6カ月未満の赤ちゃんはワクチン接種ができないため、この効果は特に重要とされています。
【妊娠中のワクチン接種のメリット】
- 母体の重症化予防
- 生後数か月の抗体獲得
- 早産・低出生体重児の予防
ワクチンを接種すれば100%インフルエンザに罹らないわけではありませんが、もしかかっても重症化するリスクを低減できます。
インフルエンザによる高熱や炎症は、早産や低出生体重児のリスクを高める可能性がありますが、予防接種によりこれらのリスクを減らせます。
このように、妊娠中のインフルエンザワクチン接種は、母体と胎児の健康を守るために非常に効果的な手段と言えるでしょう。
なお、ワクチン接種の際は母子手帳を忘れずに持参しましょう。
妊娠中にインフルエンザにかかったら
妊娠中にインフルエンザの症状を感じた場合は、迅速かつ適切な対応が重症化を防ぐことにつながります。
発熱、強い倦怠感、せきなどの症状が現れた場合は、速やかに内科や一般診療科を受診し、妊娠中であることを必ず伝えてください。
タミフルやリレンザなどの抗インフルエンザ薬の妊婦への投与による、胎児の先天異常発症リスク増加は報告されておらず、妊娠中でも投与可能です。
インフルエンザの治療薬は、発症後48時間以内に投与されると効果的です。
特に妊娠初期の高熱は、胎児の器官形成に悪影響を及ぼす可能性があるため、発熱したら速やかに受診し、適切な治療で熱を下げることが重要です。
市販の解熱鎮痛剤の中には、流産や胎児の心不全を引き起こすものもあるため、自己判断で市販薬を使用することは避けましょう。
家族がインフルエンザにかかった場合の対処法
妊婦の家族がインフルエンザにかかった場合、家族全員で感染拡大防止策を徹底することが重要です。
インフルエンザの感染経路は「接触」と「飛沫」です。
まずは家庭内で可能であれば、感染者を一つの部屋に隔離して、特に妊婦と接触しないようにしましょう。
トイレなどの共用部分を感染者が使用する際はマスクをして、タオルは使い捨てのペーパータオルを利用しましょう。
かわいそうですが食事も別にして、徹底的に接触を避けてください。
インフルエンザウイルスはアルコール消毒液や石鹸、洗剤で感染力を失います。
アルコール消毒液を使いやすい場所に置いてこまめに使用し、ドアノブなども適宜消毒しましょう。
洗濯物は感染者の分も一緒に洗って大丈夫です。
感染者の使用済みティッシュペーパーはゴミ箱に放置せず、ビニール袋などに密閉して捨ててください。
飛沫感染も徹底的に防ぎましょう。
まとめ
妊娠中にインフルエンザにかかると妊婦自身の重症化リスクが高まります。
妊娠後期での感染は早産や低出生体重児となるリスクが高まり、妊娠初期での感染は先天異常のリスクが増加する可能性が指摘されています。
一方で、インフルエンザワクチンの接種や日常的な予防策を徹底することで、感染や重症化のリスクを大幅に軽減することができます。
万が一感染した場合は、早めに医師に相談し、妊娠中でも使用できる治療法で適切に対処することが大切です。
【参考文献】