お腹の赤ちゃんが元気に育っているかは妊婦さんの大きな関心事の一つだと思います。
妊婦健診では胎児の推定体重が分かりますが、平均体重よりも大きい、または小さいと言われた場合、どのように解釈すれば良いのでしょうか?
本コラムでは、胎児発育曲線の見方と妊娠週数別の胎児の平均体重について解説し、そのサイズが平均から逸脱する理由についてご紹介しています。
胎児の大きさの測り方
胎児の体重を含めた大きさは、妊婦健診の超音波検査(エコー検査)で測定しています。
とは言っても実際に重さを測っているわけではなく、超音波検査で計測した以下の部分のサイズから胎児の体重を推定しています。
【胎児の推定体重を算出するために測る部分】
- 頭の大きさ(横幅)
- 腹囲
- 大腿骨の長さ
胎児発育曲線とは?
妊娠週数別の胎児の望ましい体重をグラフにしたものが「胎児発育曲線」です。
胎児発育曲線は、理想的な時期に理想的な体重で生まれた赤ちゃんたちのたくさんのデータを元に、その子たちがお腹の中にいたときの推定体重から平均値を算出して作成されました。
理想的な出産時期のことを「正期産」といい、妊娠37週から妊娠42週未満の間に出産することをいいます。
生まれたときの赤ちゃんの理想的な体重(正常体重)は2,500gから4,000g未満の間です。
グラフの真ん中の線は妊娠週数別の胎児体重の平均値を表しており、上の線は+2.0 SD(SD:標準偏差)、下の線は-2.0 SDを表しています。
正期産で正常体重で生まれた赤ちゃんの約95.4%は、胎児発育曲線の上下のグラフの間に当てはまるため、医師はこの曲線を参考にして、胎児の成長が平均的な範囲内にあるか、または成長が遅れている、あるいは逆に急速に成長しているといったことを評価します。
胎児発育曲線から外れるとどうなるの?
胎児の推定体重はあくまでも「推定」であり、実際に±10%程度の誤差があることが分かっています。
そして生まれるときの体格も皆同じなわけはなく、性別の差や個人差があります。
このように誤差や個人差があるため、一度の測定でグラフの理想的な範囲から外れていたとしても一喜一憂する必要はありません。
もし範囲外の数値が続く場合は、母体側と胎児側のそれぞれに異常がないかを詳しく調べることになります。
妊娠週数別の胎児の平均体重
【妊娠週数別の胎児体重の基準値】
妊娠週数 | -2.0SD | 平均値 | +2.0SD | ||
---|---|---|---|---|---|
妊娠中期 | 妊娠5ヶ月 | 18週0日 | 126 | 187 | 247 |
19週0日 | 166 | 247 | 328 | ||
妊娠6ヶ月 | 20週0日 | 210 | 313 | 416 | |
21週0日 | 262 | 387 | 512 | ||
22週0日 | 320 | 469 | 618 | ||
23週0日 | 387 | 560 | 733 | ||
妊娠7ヶ月 | 24週0日 | 461 | 660 | 859 | |
25週0日 | 546 | 771 | 996 | ||
26週0日 | 639 | 892 | 1145 | ||
27週0日 | 742 | 1023 | 1304 | ||
妊娠後期 | 妊娠8ヶ月 | 28週0日 | 853 | 1163 | 1473 |
29週0日 | 972 | 1313 | 1654 | ||
30週0日 | 1098 | 1470 | 1842 | ||
31週0日 | 1231 | 1635 | 2039 | ||
妊娠9ヶ月 | 32週0日 | 1368 | 1805 | 2242 | |
33週0日 | 1509 | 1980 | 2451 | ||
34週0日 | 1649 | 2156 | 2663 | ||
35週0日 | 1790 | 2333 | 2876 | ||
妊娠10ヶ月 | 36週0日 | 1927 | 2507 | 3087 | |
37週0日 | 2058 | 2676 | 3294 | ||
38週0日 | 2181 | 2838 | 3495 | ||
39週0日 | 2293 | 2989 | 3685 | ||
妊娠11ヶ月 | 40週0日 | 2388 | 3125 | 3862 | |
41週0日 | 2465 | 3244 | 4023 |
これは胎児発育曲線の数値を表にしたものです。
-2.0 SDから+2.0 SDの間に収まっていれば、体重の面では順調に成長していると言えるでしょう。
胎児の体重増加のスピードは一定ではなく、妊娠後期の、特に妊娠8ヶ月~9ヶ月頃にどんどん大きくなります。
妊娠中期である妊娠6ヶ月~7ヶ月は、胎児の体重は1日に約10~18g程度ずつ増えます。
妊娠8ヶ月である妊娠28週~31週は1日に約20~23g程度、妊娠9ヶ月である妊娠32週~35週は1日に約25g程度ずつ胎児の体重は増加します。
妊娠10ヵ月である妊娠36週~39週になっても1日に20~25g程度ずつ増えますが、その頃になると胎児の体重は2,500g~3,000gほどに成長していますので、体重に占める増加率はゆるやかになります。
そして胎児発育曲線を見てもらうと分かるように、妊娠週数が進むほど標準偏差の範囲が広くなります。
例えば妊娠36週では1,927g~3,087gと、約1,100gもの開きがあります。
個人差があって当然ですので、平均値に近くないからといって心配する必要はありません。
胎児発育曲線を下回っている
胎児の推定体重が小さめな場合、胎児発育不全も疑われますがまずは以下のことを理解しておく必要があります。
【推定体重が小さめな場合】
- ±10%程度の誤差が考えられるため実際は適正範囲内かもしれません。
- 体が小さくても出産予定日は変わりません。(予定帝王切開を除く)
- 他の検査で問題がなければ妊娠週数に応じて体の大事な器官などは成熟していっています。
- 今後の検査で推定体重が右肩上がりになっていればあまり心配ありません。
胎児発育不全が疑われる場合
胎児の成長が妊娠週数に対して芳しくない場合、「胎児発育不全」と診断されます。
胎児発育不全の約70%は体質的なものですが、その他に原因として考えられるものを以下に挙げます。
ダウン症や18トリソミー、13トリソミーなどの染色体異常が胎児にあると、早期から胎児発育不全になることが多くなります。
また、先天性心疾患など体の形に異常がある「形態異常」の場合も発育に影響があります。
双子や三つ子などの多胎妊娠では低出生体重児で生まれる割合が非常に高く、単胎では8.1%に対して双子を含む多胎児では70.6%(2022年)となっています。
妊婦さんが風疹ウイルスやサイトメガロウイルス、ヘルペスウイルスやトキソプラズマなどの感染症にかかると胎児の発育に影響を及ぼす可能性があります。
妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病は初期は自覚症状はありませんが、胎児の発育が悪くなったり早産になる可能性があります。
妊娠中の飲酒や喫煙はもちろんご法度で、胎児の発育に大きな影響を与えるだけでなく心身共に障害が起こる可能性があります。
前置胎盤を含む、胎盤や臍帯に何らかの異常があると胎児に必要な栄養や酸素が行き渡らず発育不全となることがあります。
これには、母親の栄養状態、妊娠中の喫煙やアルコール摂取、慢性疾患、遺伝的要因、または胎盤の機能不全などが含まれます。これらの要因は、胎児の成長を妨げ、低体重や発育遅延を引き起こす可能性があります。
胎児発育曲線を上回っている
胎児が正常の発育範囲よりも大きい場合、胎児の体質や遺伝的要因なども考えられますが、原因として一番多いのは妊婦さんの糖尿病です。
元から糖尿病がある場合もありますが、妊娠中はホルモンの影響で誰でも血糖値が上がりやすい状態になっています。
妊娠中に血糖値が高い状態が続くと、胎児の成長が促進されて大きく育ちすぎる可能性があります。
【胎児が正常の範囲より大きくなる原因】
- 糖尿病
- 遺伝的要因
大きい胎児のリスク
大きく育ちすぎて4,000g以上の巨大児で出産に望む場合は難産になりやすいため多くは帝王切開となります。
また、無事に生まれた後も新生児低血糖症を引き起こしやすかったり、黄疸や電解質異常などを発症しやすくなるため、出産後の適切なケアが必要です。
その他にも、将来肥満や糖尿病になりやすい傾向にあります。
男の子も女の子も同じ基準値でいいの?
「うちの子、女の子で小柄だけど同じ基準値でいいの?」と思っていらっしゃる方もいることでしょうね。
胎児発育曲線は、たくさんの正常に生まれた赤ちゃんのデータを元に胎児期の体重を算出しています。
この推定体重には元々ある程度の誤差が含まれているため、胎児の性別の違いや初産・経産による違いは考慮する必要がないと、保健指導マニュアルに記載されています。
まとめ
胎児の推定体重は妊娠の経過を見るために重要な指標ですが、10%程度の誤差があるため一度の測定で一喜一憂せず、線で観測することが大切です。
平均値に近いことが良いように感じますが、成長の様子は個人差があるため胎児発育曲線の上下のグラフの間に収まっていれば妊娠の経過は順調と言えるでしょう。
今しかないマタニティライフを楽しんで心穏やかに過ごし、元気な赤ちゃんを迎えてくださいね。
【参考文献】