
現代では、晩婚化やキャリア志向の影響により、高齢出産が増加しています。
その一方で、不安要素の一つとしてよく挙げられるのが「ダウン症のリスク」です。
特に、年齢が上がるほどリスクが高まるという話を耳にすると、将来の出産を考えている方にとっては気になるポイントではないでしょうか。
年齢を重ねることで、どの程度リスクが増加するのか、なぜ高齢出産でリスクが高まるのかを知りたいと感じる方も多いでしょう。
本コラムでは、高齢出産におけるダウン症リスクについて、年齢別データやリスク増加の理由をわかりやすく解説します。
正確な情報をもとにリスクを理解し、前向きな出産計画を立てるためのヒントをお届けします。
ダウン症とは

ダウン症(Down syndrome)は、染色体異常の一つであり、新生児の染色体疾患の中で最も多くみられます。
【ダウン症の特徴】
- 主な特徴
- 低身長である
- 成長や発達のスピードが遅い
- 筋肉の緊張が弱い(筋緊張低下)
- 顔立ちの特徴
- 目が少しつり上がっている(蒙古ひだが目立つ)
- 鼻が低く、鼻の付け根が広い
- 小さい口と厚い舌
- 平坦な顔立ち
- 身体的特徴
- 短くて幅広い指(特に小指が短い)
- 手のひらに1本の横線がある(猿線)
- 足の親指と第二趾の間が開いている(サンダルギャップ)
- 発達の特徴
- 知的障害(軽度から中等度が多いが、個人差あり)
- 言語発達がゆっくり
- 運動発達がゆっくり
- 合併しやすい疾患
- 先天性心疾患(約50%で合併)
- 甲状腺機能低下症
- 消化器疾患
- 白血病のリスク増加
- 視力・聴力障害
ダウン症の原因など、詳しい情報についてはこちらのコラムをご参考にしてください。
なぜ高齢出産ではダウン症リスクが増加する?

高齢出産でダウン症(21トリソミー)のリスクが増加する理由は、卵子が母体とともに老化しており、古い卵子ほど細胞分裂時に染色体を正確に分ける際のエラーが発生しやすいためです。
1.卵子の老化
女性は生まれたときに一生分の卵子(卵母細胞)を持っており、第一減数分裂の途中で一時停止した状態で卵巣に保存されています。
排卵の際に、この減数分裂が再開されます。つまり、年齢と同じだけ卵子も年を重ねていることになります。
卵子の老化により、減数分裂で染色体の分離が正常に行われにくくなり(染色体不分離)、21番染色体が2本とも残ることでダウン症(21トリソミー)が発生します。
2.細胞分裂エラーの増加
卵子が長期間、減数分裂が一時停止した状態で保存されていると、染色体を正常に分離させるための機構が劣化し、エラーが起こりやすくなると考えられています。
そのため、母親の年齢が高くなるほど、卵子の減数分裂時に染色体不分離が起こりやすくなり、結果としてダウン症などの染色体異常を持つ子どもの割合が増加します。
補足:
- ダウン症の原因のほとんどは卵子由来の染色体不分離ですが、精子由来や受精後の初期発生段階での異常が原因となることも稀にあります。
- 父親の年齢もわずかに関係するという研究もありますが、影響は限定的です。
- 高齢出産が必ずダウン症につながるわけではありません。あくまでリスクが高まるということであり、多くの高齢出産の女性も健康な赤ちゃんを出産しています。
年齢別のダウン症発症確率
ダウン症の発症率が顕著に増加し始めるのは35歳頃からで、40歳以降では加速度的に増加します。
【女性の出産時年齢とダウン症の子が生まれる確率】

Hook EB, Cross PK & Schreinemachers DM. (1983). Chromosomal abnormality rates at amniocentesis and in live-born infants. JAMA , 249, 2034-8. PMID: 6220164
Schreinemachers DM, Cross PK & Hook EB. (1982). Rates of trisomies 21, 18, 13 and other chromosome abnormalities in about 20 000 prenatal studies compared with estimated rates in live births. Hum. Genet. , 61, 318-24. PMID: 6891368
【女性の出産時年齢とダウン症の子が生まれる確率】

20代でのダウン症の確率

20代で出産した場合、ダウン症の子が生まれる確率は1,000人に1人以下です。
これは比較的低いリスクですが、可能性がゼロではないことを知っておきましょう。
20代は生殖機能が成熟し、ホルモンバランスも安定しているため、妊娠や出産に適した時期です。
しかし、若いからといって染色体異常が完全に避けられるわけではありません。
ダウン症の主な原因である染色体不分離は、特に高齢出産で発生しやすいとされていますが、若い世代でも偶発的に起こることがあるため、どの年齢でもリスクをゼロにはできません。
また、染色体異常の多くは偶然に発生するため、特定の要因があるわけではなく、自然に起こることが多いのです。
20代であっても、確率は低いながらも発生する可能性があるという点を理解しておきましょう。
30歳でのダウン症の確率
30歳で出産した場合、ダウン症の子が生まれる確率は約900人に1人です。
これは20代と比べるとややリスクが高まっていますが、全体としては依然として低い確率です。
30代前半までは、卵巣機能や卵子の質が比較的安定しており、ホルモンバランスも整っているため、妊娠しやすい時期といえます。
しかし、30代中盤以降になるとリスクが急激に上昇し始めるため、出産を考える際には年齢に伴うリスクを理解することが重要です。
34歳で出産した場合、ダウン症の子が生まれる確率は約500人に1人です。
20歳と比べると約3倍の確率ですが、それでも割合としては0.2%です。
35歳でのダウン症の確率

35歳で出産した場合、ダウン症の子が生まれる確率は約350人に1人です。
これは20歳でのリスク(約1/1,500)と比べると約4.3倍に増加しており、35歳を境にリスクが急激に高まることがわかります。
35歳を過ぎると、卵巣機能や女性ホルモンの分泌量が低下し始め、妊娠率が低下します。
また、卵子の老化によって流産や染色体異常のリスクが増加するため、出産を考える際にはリスクを理解することが重要です。
一方で、35歳以上でも多くは問題なく出産しており、リスクがあるからといって過度に不安を感じる必要はありません。
リスクを正しく理解しながら、自分に合った計画を立てることが大切です。
38歳でのダウン症の確率
38歳で出産した場合、ダウン症の子が生まれる確率は約180人に1人です。
これは、35歳でのリスク(約1/350)と比べると約2倍に増加しており、確率としては約0.6%です。
これを高いと感じるかどうかは個人の判断によりますが、35歳を過ぎて妊娠を望む場合は、計画的に妊娠を考えることが大切です。
40歳でのダウン症の確率

40歳で出産した場合、ダウン症の子が生まれる確率は約100人に1人です。
確率としては約1%であり、20歳でのリスク(約1/1,500)と比べると約15倍に増加します。
また、35歳でのリスク(約1/350)と比較しても約3.5倍に上昇しており、5歳の差がリスクに大きく影響することがわかります。
40歳以降で出産を考える場合、適切な検査やリスク管理を徹底し、医師と相談しながら進めることが大切です。
特に、出生前診断(NIPTなど)や健康チェックを活用し、リスクを把握しておくことが安心につながります。
43歳でのダウン症の確率
43歳で出産した場合、ダウン症の子が生まれる確率は約50人に1人です。
確率としては約2%であり、20歳でのリスク(約1/1,500)と比べると約30倍に増加します。
また、35歳でのリスク(約1/350)と比べても約7倍、40歳でのリスク(約1/100)と比べると約2倍に上昇しています。
45歳でのダウン症の確率
45歳で出産した場合、ダウン症の子が生まれる確率は約30人に1人です。
確率としては約3%であり、20歳でのリスク(約1/1,500)と比べると約50倍に増加します。
また、35歳でのリスク(約1/350)と比べても約12倍、40歳でのリスク(約1/100)と比べると約3倍に上昇しています。
染色体異常の中でダウン症が最も多い理由

ダウン症(21トリソミー)が染色体異常の中で最も多い理由は、主に2つあります。
1.21番染色体の小ささと遺伝子数
ヒトの常染色体(1番から22番)は、大きいものから順に番号が付けられていますが、21番染色体はその中で最も小さく、保有する遺伝子数も少ない染色体です。
染色体のトリソミー(染色体が1本多い状態)では、その染色体上の遺伝子が過剰に働くことで、体の設計図に混乱が生じ、様々な障害が発生します。
しかし、21番染色体は遺伝子数が少ないため、トリソミーとなっても他の大きな染色体に比べて影響が比較的軽度であると考えられています。
そのため、21トリソミーは生存率が高く、出生まで至るケースが多くなります。
2.他の常染色体トリソミーの致死性
実は、受精卵の段階では、他の染色体のトリソミーも頻繁に発生しています。
しかし、1番や2番のような大きな染色体や、中程度の大きさの染色体(例:16番など)のトリソミーでは、遺伝子の過剰による影響が深刻すぎるため、胎児がうまく発生・成長できず、妊娠の極めて初期段階で自然流産となります。
受精卵の段階では他の染色体異常も多く発生しますが、その多くが出生前に自然淘汰されるため、結果的にダウン症候群の出生数が最も多くなります。
妊娠中に受けられるダウン症検査

妊娠中には、主に妊婦健診でさまざまな検査が行われます。
その中でも、超音波検査でNT(Nuchal Translucency:胎児の首の後ろのむくみ)が指摘されることがあります。
このNTの厚みが一定値以上である場合、ダウン症などの染色体異常がある可能性が高まります。
さらに詳しい胎児スクリーニング検査として、以下の方法が主に用いられています。
スクリーニング検査と確定診断の違い
スクリーニング検査は、ダウン症の疑いがある児を発見するために行われます。
検査結果は、「異常がある確率が1/295」や「陽性(疑いあり)」などといった形で示されます。
もし、スクリーニング検査でダウン症の疑いが持たれた場合は、羊水検査や絨毛検査といった確定検査を行い、診断を確定します。
検査選択のポイント
それぞれの検査には特徴や精度の違いがあるため、以下の点を考慮して選択することが重要です。
- 検査内容や精度
- 検査費用
- 妊娠週数
- 結果が出るまでの日数
これらを総合的に検討し、受ける検査(または受けないこと)を決めることが大切です。
出生前診断の種類と特徴についてはこちらのコラムをご参考にしてください。
まとめ

高齢出産におけるダウン症リスクは、母親の年齢が上がるにつれて増加します。
例えば、20歳でのダウン症発生率は約1/1,500ですが、35歳では約1/350、40歳では約1/100、45歳では約1/30にまで上昇します。
特に35歳を過ぎると急激にリスクが高まるため、年齢に伴うリスクを理解することが重要です。
ダウン症の主な原因は、卵子の老化によって染色体分離エラーが発生することです。
特に高齢出産では、減数分裂時に染色体の不分離が起こりやすく、その結果としてダウン症が発生しやすくなります。
ただし、高齢出産だからといって必ずダウン症になるわけではありません。
健康な赤ちゃんを出産するケースも多くあり、過度に不安を感じる必要はありません。
妊娠を考える際は、リスクを正しく理解し、適切な検査や医師のサポートを受けることが大切です。
正確な情報をもとに、前向きに出産計画を立てましょう。
ダウン症のある赤ちゃんの成長と特徴についてはこちらのコラムをご参考にしてください。