
妊娠すると自分だけの体ではなく、おなかの赤ちゃんのために何を食べたら良いのか?食べてはいけないものがあるのか?元気に育ってほしいからこそ心配になることがたくさんありますね。
妊娠中に食べてはダメなものはほとんどありませんが、食べ方に気をつけたいものがいくつかあります。
バランス良く食べて、ママの健康とおなかの赤ちゃんの健やかな成長を守りたいですね。
ここでは妊娠中の食事のポイントと、積極的に摂りたい栄養素や注意すべき食べ物などについてご紹介しています。
妊娠中の5つの食事のポイント
妊娠中の食事で意識したいポイントは次の5つです。
【妊娠中の食事で意識したい5つのポイント】
- エネルギー確保
- ビタミン・ミネラルは不足しがち
- たんぱく質をしっかり摂ろう
- カルシウムを積極的に
- 体重増加は望ましい量に
日本人女性は妊娠前からやせ型の人の割合が高く、5~6人に1人はBMI(体格指数)が18.5未満の低体重(やせ)にあたります。
妊娠前からのやせは早産や低出生体重児などのリスクを高めるとの報告もありますので、できることなら妊娠してからだけではなく妊娠前からのバランスのよい食事を心がけたいところです。
エネルギーだけではなく、妊娠前から日本人女性に不足しがちな栄養素と、妊娠すると需要が高まる栄養素がありますので、それらは積極的に摂りたいですね。
厚生労働省では「妊娠前から、健康なからだづくり」を推奨していますが、もちろん妊娠に気づいてからでもできることから始めてみましょう。
エネルギー確保

妊娠初期はまだおなかの赤ちゃんが小さくそれほど多くのエネルギーを必要としませんが、日本人女性は妊娠前からのエネルギー不足が指摘されています。
エネルギーのもととなるごはんやパン、麺類などの炭水化物を多く含んだ主食を中心とした食事を心がけましょう。
妊娠すると、妊娠前に加えて1日に必要なエネルギーは次の通りです。
- 妊娠初期 +50kcal
- 妊娠中期 +250kcal
- 妊娠後期 +450kcal
50kcalとはおにぎり1/3個、リンゴ中1/4個、とりの唐揚げ1/2個程度です。
250kcalとは食パン1.4枚、ごはん一膳、目玉焼き2.5人前程度です。
450kcalとはおにぎり2.6個、ラーメン1人前程度です。
必要なエネルギーは特定の食べ物からだけではなく、おかずと野菜などの副菜を揃えてバランス良く摂りたいですね。
1日3食にこだわらず、間食におにぎりを食べることなどもおすすめです。
ビタミン・ミネラルは不足しがち

ビタミンやミネラルはもともと不足しがちなうえに、妊娠中や授乳中は需要が高まります。
特に不足しがちな葉酸と鉄は積極的に摂りたいですね。
ビタミンやミネラルは野菜やいも、豆類などに多く含まれますので、これらをたっぷりと使った副菜を食事に取り入れましょう。
たんぱく質をしっかり摂ろう

たんぱく質は肉や魚などメインとなるおかずに多く含まれ、からだを構成するのに必要な栄養素です。
そのほか卵や大豆などにも多く含まれます。
朝食はサラダとヨーグルト、昼はうどんなどといった食事だとたんぱく質が不足しがちですので、毎食意識してみるようにしましょう。
カルシウムを積極的に

日本人女性のカルシウム摂取量は不足しがちなうえに、妊娠中や授乳中は胎児の体をつくったりすることで母体からカルシウムが失われます。
乳製品のほか、緑黄色野菜や小魚、豆類などにカルシウムは多く含まれますので、組み合わせて積極的に摂りましょう。
体重増加は望ましい量に
妊娠するとおなかの赤ちゃんの体重以外に、胎盤や羊水、母体の血液量などを含めて少なくとも体重がおよそ7~8kgは最終的に増加します。
そのほか妊娠・出産に必要なエネルギーを皮下脂肪として蓄えるため、妊娠前の体格によって7~15kgは体重が増えることを目安としています。
しかし、日本人女性は妊娠前から痩せている人が多いうえに、太りたくないなどの理由から妊娠中の体重増加が少ない人が多く、そのことによる早産や低出生体重児の増加などのリスクが近年報告されています。
急激に体重が変化しないようコントロールしつつ、ママとおなかの赤ちゃんの健康のために体重増加が不足しないようにしたいですね。
妊娠中の体重増加については、「コラム:妊婦の体重管理のポイント」もご参考にしてください。
つわりでもしっかり食べないとダメ?
つわりには、食べるとすぐに吐いてしまう「吐きづわり」のほか、おなかがすくと気持ち悪くなる「食べづわり」、炊きたてのごはんなど今までは平気だった香りで気持ち悪くなる「においづわり」などがあります。
妊娠初期におこるつわりですが、その種類や程度は人によって違い、ずっと同じ症状ではなくて日によって変わったりもします。
「妊娠すると2人分食べないといけない」と思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、つわりがある妊娠初期ではまだおなかの赤ちゃんは小さくそれほど多くのエネルギーを必要としません。
つわりが辛い時期はまずは食べられるものを食べられる量と頻度で摂るようにしましょう。
ただしアルコールはNGです。
妊娠が発覚した時点できっぱりと禁酒しましょう。
嘔吐を繰り返すと脱水になりやすいため、こまめに水分を摂るようにしてくださいね。
つわりの時期の食事については、「コラム:つわりの症状別食べ方のポイント!」もご参考にしてください。
積極的に摂りたい栄養素

妊娠前も妊娠中も、大切なのは「バランスの良い食事」です。
「これだけ摂っていればいい」という栄養素はなく、炭水化物やたんぱく質、ビタミンやミネラルなどをバランス良くとる必要があります。
その中でも妊娠すると需要が増える栄養素や、もともと日本人女性に不足しがちな栄養素などがありますので、積極的に摂りたいですね。
【妊娠中に積極的に摂りたい栄養素】
- 葉酸
- 鉄分
- カルシウム
葉酸

葉酸とはビタミンB群の一種で、緑黄色野菜に多く含まれます。
赤血球をつくる働きがあるため「造血のビタミン」と呼ばれるほか、生物の細胞を作るための情報がつまっているDNAの生合成に大きくかかわっているため、細胞増殖が盛んな胎児にとても重要な成分です。
特に神経管が作られる時期である妊娠初期に葉酸が不足すると「神経管閉鎖障害」の発症リスクが高まることが知られており、妊娠を希望する女性や妊娠初期に十分に摂取することが大切です。
神経管閉鎖障害とは、胎児が成長する過程で、神経管という管が正常に発達しないために、脳や脊髄、髄膜などが影響を受け、神経損傷や麻痺、二分脊椎や無脳症などがおこる先天異常の一種です。
葉酸はほうれん草やブロッコリーなどの色の濃い野菜のほか、レバーや納豆、果物などにも多く含まれています。
水溶性のためゆでると半減してしまいますので、サラダや汁ごといただけるスープなどがおすすめです。
神経管閉鎖障害については、「コラム:葉酸が不足すると心配のある神経管閉鎖障害って?」もご参考にしてください。
鉄分

鉄は赤血球に含まれるヘモグロビンを作るのに欠かせない成分で、不足すると貧血になり体の組織に十分な酸素が行き届かなくなります。
日本人女性は妊娠前から鉄分が不足している人が多いですが、妊娠すると循環血液量の増加などにより、さらに多くの鉄分が必要になります。
鉄分には動物性食品に多く含まれる「ヘム鉄」と、植物性食品に多く含まれる「非ヘム鉄」があります。
非ヘム鉄は吸収されにくいのですが、動物性のたんぱく質やビタミンCと一緒にとることで吸収率がアップします。
鉄分はレバーやカツオ、まぐろなどのほか、ほうれん草や小松菜、豆乳やひじきなどに多く含まれています。
カルシウム

カルシウムは歯や骨を作るのに欠かせない成分で、妊娠中に不足するとママの体内にあるカルシウムから補おうとするため、ママの骨密度が低下します。
妊娠すると必要なカルシウム摂取量が増えるわけではありませんが、日本人女性はもとから十分に摂取できていない人が多いため積極的に摂りたい栄養素の一つです。
カルシウムは牛乳やヨーグルトなどの乳製品のほか、小魚や海藻、豆類や緑黄色野菜などに多く含まれています。
注意が必要な食べ物
特定の食べ物に偏って食べ過ぎなければ妊娠中に食べてはいけないものはほとんどありません。
しかし妊娠中は免疫力が低下することや胎児への悪影響を考えて食べ方や食べる量に注意が必要です。
【妊娠中は注意が必要な食べ物】
- 刺身などの生もの
- 一部の魚類:水銀
- レバー、うなぎ:ビタミンA
- カフェイン
免疫力が落ちていると細菌やウイルスに感染しやすく、流産や早産につながるおそれがあり、おなかの赤ちゃんに感染すると障害が残る可能性もあるため、普段食べ慣れているものでも油断できません。
刺身などの生もの

お寿司やお刺身などの生魚にはアニサキスという寄生虫がいる可能性があります。
牡蠣や生卵は食中毒をおこしやすいため控えた方が無難です。
きちんと管理されたものなら大丈夫ですが、それでも少量にとどめておいて、できれば加熱処理した料理がよいでしょう。
一部の魚類:水銀

クロマグロやキンメダイなど一部の魚類には食物連鎖によって水銀が多く含まれている可能性があります。
水銀の含有量が高い魚を多量に食べるとおなかの赤ちゃんの発育に影響を与える可能性があるため、大切なのは食べるお魚の種類と量と頻度です。
特に注意が必要なのはキダイ、マカジキ、ユメカサゴ、ミナミマグロ、ヨシキリザメ、イシイルカ、クロムツで、これらは1週間に1人前が目安です。
なおお魚の中でも、ツナ缶やサバ、アジ、サケ、イワシやサンマなどは特に注意が必要ではありませんので、良質なたんぱく質源としておすすめです。
レバー、うなぎ:ビタミンA

ビタミンAは皮膚や粘膜の健康を保つ働きがあるため体に必要な栄養素の一つですが、妊娠初期に過剰摂取すると胎児の形態異常が起こりやすくなることが報告されています。
貧血予防に推奨されているレバーや、うなぎなどにビタミンAは多く含まれています。
毎日食べるものでもないと思いますので通常の食事での過剰摂取はほとんど心配ありません。
鶏や豚のレバーなら30g程度を週に1~2回程度、うなぎならかば焼きを週に1回程度が目安量です。
ただし、サプリメントは過剰摂取の恐れがありますので担当医にご相談くださいね。
カフェイン

カフェインは少量なら問題ありませんが、たくさん摂りすぎると発育不全や流産のリスクが高くなる可能性があります。
コーヒーなら1日に1~2杯程度にしておきましょう。
そのほか日本茶や紅茶、栄養ドリンクやエナジードリンクなどにもカフェインが含まれていますので飲む量に気をつけましょう。
麦茶やそば茶、ルイボスティーはカフェインが含まれていませんので妊娠中におすすめです。
避けるべき食べ物
妊娠が分かったらアルコールや非加熱の加工食品は避けましょう。
【妊娠中は避けるべき食べ物】
- アルコール
- 非加熱の加工食品
アルコール
妊娠中のアルコールがNGだということは、身近に妊婦さんがいない方でもご存じだと思いますがなぜダメなのでしょうか?
おなかの赤ちゃんに悪影響のあるものの多くは胎盤がフィルターの役割を果たして赤ちゃんを守っています。
しかしアルコール代謝産物は胎盤を通過して赤ちゃんに影響を与えてしまう可能性があり、特に妊娠初期の飲酒によって顔面を中心とする形態異常(奇形)、発育不全や脳の障害による多動学習障害などといった「胎児性アルコール症候群」になる可能性が高くなります。
そのほか流産や早産などのリスクも高くなります。
妊娠中の飲酒によって胎児の発育や成長に悪影響を及ぼす可能性がありますので、妊娠がわかった時点できっぱり禁酒しましょう。
非加熱の加工食品

ナチュラルチーズや肉や魚のパテ、生ハムやスモークサーモンなど非加熱の加工食品にはリステリア菌という食中毒菌が増殖している可能性があります。
妊娠中は免疫力が落ちているため感染しやすく、リステリア菌に感染すると流産や早産を引き起こすリスクが高まります。
肉類は十分に加熱し、カマンベールチーズやブルーチーズなどの非加熱のものは避けましょう。
まとめ
妊娠したらアルコールはやめて、生ものや非加熱の加工食品はできるだけ避ける、もしくは少量にとどめましょう。
また、いくら積極的に摂りたい栄養素であってもそれだけ食べていればいいわけではなく、さまざまな食品を組み合わせてバランスよく食べることが大切です。
定食をイメージすると分かりやすいかと思いますが、ご飯、肉や魚、野菜の付け合わせ、みそ汁といった「一汁三菜」をまずは意識してみましょう。
ママご自身の健康と、赤ちゃんの健やかな発育のためにできることから始めていけると良いですね。
【参考】