先天性疾患の種類と発生率

先天性疾患の一つ、多指症

先天性疾患とは、生まれつき持っている病気や障害のことを指します。

妊婦中の女性やそのご家族にとって、子どもの健康は何よりも重要なことのひとつですね。

染色体異常のように防ぎようのないものもありますが、気をつけることで回避できる要因もあります。

今回は、先天性疾患が起こる原因とその発生率について解説いたします。

先天性疾患とは

先天性疾患とは生まれながらにして持っている病気や障害のことをいい、臓器や四肢など体の形に異常がある「構造異常」と、「機能異常」があります。

新生児の3-5%に何らかの先天性疾患が認められます。

「生まれつき」持っている疾患ですが、妊娠中の検査で見つかる異常もあれば、生まれた後に初めて分かる異常もあります。

例えば妊娠中の検査で、胎児の心臓の形に異常があれば超音波検査で見つかる可能性がありますが、染色体のごくわずかな変化によって起こる疾患の場合は妊婦健診では発見できず見逃す可能性があります。

形態異常

口唇裂、口蓋裂の新生児の赤ちゃん
口唇裂、口蓋裂の新生児の赤ちゃん

形態異常とは身体の構造や形に異常がある状態で、欠損や奇形などが含まれます。

【形態異常の例】

  • 心室中隔欠損症(先天性心疾患)
  • 口唇口蓋裂
  • 体肢の異常
  • 水頭症
  • 二分脊椎(神経管閉鎖障害)

形態異常発生に影響を与える因子として、遺伝子や染色体の異常、催奇形性を持つ化学物質、ウイルス、医療放射線、飲酒、喫煙等の多くの要因が考えられます。

機能異常

甲状腺の解剖モデル、先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)のイメージ

機能異常とは、見かけは元気なようでも、特定のホルモンや酵素が欠損していたり代謝の働きが阻害されることなどで、体内のシステムや働きに障害が起こっている状態のことをいいます。

【機能異常の例】

  • フェニルケトン尿症
  • メープルシロップ尿症
  • クレチン症(先天性甲状腺機能低下症)
  • ガラクトース血症
  • 先天性副腎過形成症

機能異常が起こる原因は遺伝子の異常によるものが多く、単一遺伝子の変異や酵素の欠損が主な原因です。

これらの異常は外見上分かりにくいため、新生児マススクリーニング検査が重要で、早期発見によって適切な治療や管理が可能となり、健康や生活の質の向上につながります。

先天性疾患の種類と発生率

【新生児の先天性疾患発生率と原因別割合】

先天性疾患の発生率と原因別割合

先天性疾患が起こる割合は新生児の3~5%です。

つまり、100人の赤ちゃんが産まれたらそのうちの3~5人に生まれつきの病気や障害があるということです。

先天性疾患が起こる原因としては、染色体の数や構造の変化による「染色体異常」のほか、特定の遺伝子の変化による「単一遺伝子疾患」、複数の遺伝的要因と生活習慣などの環境要因が組み合わさって発生する「多因子性疾患」、母体の感染症・喫煙・飲酒・特定の薬物摂取などによる「環境・催奇形因子」があります。

【先天性疾患の原因】

  • 染色体異常:25%
  • 単一遺伝子疾患:20%
  • 多因子性疾患:50%
  • 環境・催奇形因子:5%

染色体異常

ダウン症の子どもの成長
ダウン症の赤ちゃん

染色体は遺伝情報を担い、細胞の成長、発達、機能を制御する重要な役割を果たします。

その染色体の数や構造に異常がある状態のことを「染色体異常」といい、染色体の特定の部分の異常によって似たような症状が起こることが分かっています。

染色体異常があると心臓の異常、運動障害、知的障害、体の欠損などさまざまな症状や合併症が起こる可能性があります。

単一遺伝子疾患

働く筋ジストロフィー症の女性
テレワークで働く筋ジストロフィー症の女性

一つの遺伝子が変異することで生じる遺伝性疾患を「単一遺伝子疾患」といいます。

染色体は遺伝情報がつまった遺伝子がぐるぐるに折りたたまれてできており、ここには数百~数千の遺伝子があります。

よく染色体と遺伝子の関係は本に例えられます。

染色体が一冊の本だとすると、遺伝子は文章、DNAは文字だと考えることができます。

つまり、染色体異常は本のページが一部分なかったり同じページが2枚ある状態なのに対して、単一遺伝子疾患は文章のおかしい箇所がある、という状態です。

単一遺伝子疾患の中でも、その遺伝の仕方によって「(常染色体)優性遺伝病」(常染色体)劣性遺伝病」 「X連鎖遺伝病」に分けられます。

優性遺伝

常染色体優性遺伝形式

優性遺伝病は、両親から受け継いだ対の染色体の遺伝子のどちらか一方が正常であっても、片方に異常があれば発現します。

夫婦の片方が罹患者の場合、50%の確率で子どもに遺伝するため、より多くの世代に伝達しやすい病気と言えます。

優性遺伝疾患のある人のほとんどは、両親の少なくとも片方が同じ疾患を持っていますが、症状が軽く診断を受けていないケースもあります。

まれに両親の遺伝子は正常でも新たな遺伝子突然変異として発生することもあります。

【優性遺伝病の例】

  • 筋強直性ジストロフィー
  • ハンチントン病
  • 四肢短縮症
  • 先天性白内障
  • 軟骨無形成症

なお、この「優性」というのは遺伝形式を示すもので、「優性=現れやすい、伝わりやすい」、「劣性=現れにくい、伝わりにくい」といった意味合いで使われています。

しかし言葉の響きから「優れている」「劣っている」と誤解が生じやすいため、現在では「優性遺伝=顕性遺伝」「劣性遺伝=潜性遺伝」と表現することが推奨されています。1)

1)優性遺伝と劣性遺伝に代わる推奨用語について(結果報告)/日本医学会

劣性遺伝

常染色体劣性遺伝形式

劣性遺伝とは、特定の遺伝子が両親から2つとも(つまり、両親それぞれから1つ)受け継がれたときに初めて発症する遺伝形式のことをいいます。

父母のいずれかが持つ異常な遺伝子を1つ受け継いでも、もう片方の遺伝子が正常であれば発症せず、その人は保因者(キャリア)と呼ばれます。

両親がともにキャリアの場合、子どもが発症する確率は25%で、50%は保因者、25%は正常です。

両親のどちらかがキャリアの場合、その子供はキャリアまたは正常ですが、孫世代に発症する可能性があります。

劣性遺伝病が発症する可能性があるのは両親が共にキャリアの場合のみです。

保因者は自身に症状はなくても次世代に遺伝する可能性がありますので、遺伝カウンセリングなどで相談するのが望ましいでしょう。

【劣性遺伝病の例】

  • フェニルケトン尿症
  • 全色覚異常(全色盲)
  • 鎌状赤血球症
  • 脊髄性筋萎縮症

X連鎖遺伝

X連鎖劣性遺伝形式

X連鎖遺伝とは、性染色体であるX染色体(にある遺伝子の異常)とともに受け継がれる遺伝形式のことで、X連鎖遺伝の中でも優性遺伝と劣性遺伝があります。

ヒトの性別は「XX」で女性、「XY」で男性となるため、両親のどちらが罹患者(もしくはキャリア)か?、優性遺伝か劣性遺伝かによって、いくつかの遺伝パターンに分かれます。

X連鎖劣性遺伝病は、発症するのはほとんどが男性です。

なぜなら男性はX染色体を1本しか持っていないため、変異遺伝子を持つX染色体を受け継ぐと、健康な遺伝子でその効果を打ち消すことができないからです。

女性が変異したX染色体を持っていても、もう1本の正常なX染色体があるため(2本とも異常がある場合を除いて)、病気の症状が現れにくい、または軽度であることが多いです。

X連鎖優性遺伝病は男女ともに発症し、多くは男性の場合は致死的、女性の場合は軽症です。

【X連鎖遺伝病の例】

  • 血友病
  • 筋ジストロフィー(デュシェンヌ型)
  • 先天性腎性尿崩症
  • 家族性くる病
  • 赤緑色覚異常

多因子性疾患

神経管閉鎖障害

複数の遺伝子の異常と環境要因が相互に作用しあって発症する疾患を「多因子性疾患」と呼びます。

【多因子性疾患の例】

環境要因としては、母体の疾患や栄養状態、薬物の影響などが考えられます。

原因の特定は困難ですが、家族歴の把握や生活習慣の改善によって予防が可能な場合もあり、葉酸の摂取、ビタミンAの過剰摂取を避けるなどの対策があります。

例えば口唇・口蓋裂の発生頻度は出生児の約600~700人に1人の割合で、人種差があります。(白人に比べて日本人は高い)

両親に口唇、もしくは口蓋裂がある場合の子の発症率は約60人に1人の割合になります。

口唇・口蓋裂が多くみられる症候群として13トリソミーや18トリソミーが、先天性心疾患が多く見られる症候群としてダウン症やターナー症候群などの染色体異常があります。

環境・催奇形因子によるもの

合指症
合指症

妊娠中に母体を通じて胎児に影響を与え、先天性疾患を引き起こす可能性のある物質や要因として「環境因子」「催奇形因子」があります。

【先天性疾患の原因となる環境因子や催奇形因子の例】

  • タバコ
  • アルコール
  • 大気汚染
  • 水質汚染
  • 農薬
  • 放射線
  • ウイルス
  • 薬物

【環境・催奇形因子による疾患例】

  • 体肢の異常(多指症、合指症、短肢症など)
  • 発達障害
  • 水頭症
  • 奇形

妊娠中の喫煙は、多指症、無指症、小頭症などの先天奇形の増加や、ADHDなどの発達障害のリスクが高くなります。

飲酒により胎児性アルコール症候群になると、顔に異常が見られたり、発達障害や行動障害のリスクが高くなります。

風疹ウイルスやトキソプラズマなどの感染症も胎児に影響を与える可能性があります。

薬害事件として有名なサリドマイドは、手足や耳などに奇形を起こす催奇形性があったことで問題となりました。

まとめ

胎児の超音波写真を見ながらお腹をさする妊婦

先天性疾患は生まれつきの病気なので後天的になることはありませんが、症状の程度によっては妊娠中や出生直後は気づかないこともあります。

その原因の多くは努力で防げるものではありませんが、喫煙や飲酒が催奇形因子だと知っていれば回避することが可能です。

妊娠中に胎児の先天性の異常や病気について調べる「出生前診断」についてはこちらをご参考にしてください。


【参考URL】

編著:関沢明彦,佐村修,四元淳子,「周産期遺伝カウンセリングマニュアル 改訂3版」,中外医学社,2020年5月


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