
妊娠中に「赤ちゃんにダウン症の可能性がある」と言われたとき、突然のことでどのように受け止めてよいか分からなくなってしまうかもしれません。
出生前診断を受ける理由として多く挙げられるのが「ダウン症があるかどうか心配」というものですが、医療技術の発達により、ダウン症を持つ方の平均寿命は60歳を超えているといわれています。
合併症に適切に対応することで、学校へ通い、趣味や習い事を楽しむ方も多くいます。
本コラムでは、ダウン症の赤ちゃんに見られる顔立ちや体の特徴、成長の過程での変化について、できるだけわかりやすくご紹介します。
ダウン症(21トリソミー)とは

ダウン症(ダウン症候群)は、染色体異常の一つであり、新生児の染色体疾患の中で最も多くみられます。
21番目の染色体が3本あるため「21トリソミー」とも呼ばれます。(「トリ」はラテン語で「3を意味します」)
【ダウン症の特徴】
- 主な特徴:
- 知的発達の遅れ(個人差あり)
- 特有の顔立ち(つり上がった目、低い鼻梁 など)
- 筋力の弱さ(低緊張)
- 成長や発達のスピードがゆるやか
- 合併しやすい疾患
- 先天性心疾患(約半数に見られる)
- 甲状腺機能異常
- 消化器系の問題
- 視力・聴力の低下
ダウン症の概要についてはこちらのコラムをご参考にしてください。
ダウン症の赤ちゃんの特徴

新生児がダウン症を疑われるのは、出生直後の診察時が多く、医師が特徴的な顔立ちや筋緊張の低下、手足の特徴などから気づくことがあります。
ただし、外見の特徴が目立たない場合は、生後の健診で初めて疑われるケースもあります。
顔立ちの特徴

ダウン症の赤ちゃんは、生まれた時から特徴的な顔立ちが見られることが多く、医療関係者が最初に気づくケースが少なくありません。
診察では顔立ちだけでなく、筋緊張の状態や手足の形などの身体的特徴も総合的に観察され、他の先天性疾患の可能性も考慮しながら、確定診断のために染色体検査が行われます。
【顔立ちの特徴】
- つり上がった目(斜上眼裂)
- 内眼角贅皮(目頭の皮膚のひだ)(蒙古ひだ)
- 鼻の付け根が低く、ぺたんとした印象
- 小口症(口が小さく、舌がはみ出しやすい)
- 巨舌(筋緊張の低下により舌を引っ込めにくく、見かけ上大きく見える)
- 耳が小さく、やや下に位置しているように見える
ダウン症のある赤ちゃんは、顔の中心部の発達がゆっくりであるため、目や鼻の位置や形に特有の印象を与えることがあります。
また、内眼角贅皮の影響で両目の間が広く見えることもあります。
これらの特徴は、成長とともに変化することもありますが、多くは新生児期から見られます。見た目の特徴だけで判断するのではなく、医療機関での検査と診察に基づいた評価が重要です。
体の特徴

ダウン症の赤ちゃんは筋肉の緊張が弱いことが多く、特に新生児期にはその傾向が顕著です。
抱っこしたときに体にしっかりと力が入っておらず、ぐにゃっとした柔らかい印象を受けることがあります。
また、吸う力(吸啜力)が弱いため、新生児期にはミルクを飲むのに時間がかかったり、飲む量が少なかったりして、体重がなかなか増えないこともあります。
口が小さく、舌をうまくしまえない(巨舌)ことも哺乳を難しくする一因です。
ただし、多くの赤ちゃんは成長とともに徐々にミルクを飲むのが上手になっていきます。
【体の特徴】
- 首が太くて短い(うなじに皮膚のたるみがある場合も)
- 単一横手掌線(手のひらに1本の横断線)
- 指が短く太い、小指が内側に曲がっている(内反小指)
- 足の親指と人差し指の間が広い(サンダルギャップ)
- 筋緊張低下(全身の筋肉の張りが弱い)
- 頭囲が小さめ、後頭部が平坦
【合併症が疑われるポイント】
- 先天性心疾患(40〜50%に認められる)
- 消化器系の異常(約5〜10%)
- 十二指腸閉鎖・鎖肛・ヒルシュスプルング病など
- 視力・聴力の異常のリスク(出生時には判断が難しい場合も)
- 甲状腺機能異常(特に先天性甲状腺機能低下症)
- 血液疾患
- 新生児一過性骨髄異常増殖(TAM)
→ 特にダウン症児では出生時または新生児期に白血球数の異常を伴うことがある
- 新生児一過性骨髄異常増殖(TAM)
成長過程にみられる発達の特徴

ダウン症のある子どもは、心や体の発達がゆるやかに進むことが特徴です。
運動・言語・知的な発達に時間がかかることがありますが、一人ひとりに合ったペースで確実に成長していきます。
ダウン症候群は、心臓・消化器・内分泌など、体のさまざまな機能に影響を及ぼす可能性があります。
特に先天性心疾患はよく見られる合併症の一つですが、医療の進歩により、適切な治療や管理を受けることで、多くの方が健康的な生活を送ることができるようになっています。
合併症の種類や程度には個人差があり、すべての症状が現れるわけではありません。
また、ダウン症のある子どもは、人との関わりを楽しむ子も多いといわれますが、性格や興味関心には一人ひとり異なる個性があります。
発達のスピードには幅があるため、他の子と比べるのではなく、その子自身のペースを大切にし、温かく見守ることが何より大切です。
乳児期(0~1歳ごろ)

【発達の特徴】
筋緊張が低いため、運動発達がゆっくり進む傾向がある
- 首のすわり:3〜7か月ごろ(通常は3〜4か月)
- ひとり座り:6〜11か月ごろ(通常は6~9か月)
- はいはい:9~15か月ごろ(通常は7~9か月)
【健康面】
- 約50%に先天性心疾患(特に心室中隔欠損など)がみられる
幼児期(1~3歳ごろ)

【発達の特徴】
この時期のダウン症のある子どもは、筋緊張が低く筋力も弱いため、運動の発達がゆっくり進む傾向があります。
- つかまり立ち:9~19か月ごろ(通常は8~10か月)
- ひとり歩き:1歳半~2歳半ごろ(通常は12~18か月)
- 言葉の発達がゆっくり
- はじめての言葉(単語)を話すまでに時間がかかる
- ジェスチャーや表情でのコミュニケーションが先行
- 言葉が出るのが遅い分、感情の表現がうまくいかず癇癪を起こすことも。
【健康面】
- 耳の感染症(中耳炎)や風邪をひきやすい傾向
- 視力・聴力の低下に気づきにくいため、定期的な検査が推奨される
- 甲状腺機能(特に低下症)に注意が必要
学童期(4~12歳ごろ)

【発達の特徴】
- 言語理解は比較的得意だが、発話(話す力)が苦手な傾向
- 手先の細かい動き(微細運動)や、運動全般の習得がゆっくり
- 基本的な生活動作(食事・着替え・トイレなど)は自分でできるようになる子が多い
- 知能指数(IQ)には幅があるが、平均値はおよそ50(一般的な平均は100程度)
- 注意欠如・多動症(ADHD)を思わせる行動が見られることがある
- 自閉スペクトラム症(ASD)に類似する行動が見られることもある
- 認知や記憶の力には個人差があり、具体的・視覚的な支援が有効
【健康面】
この時期は多くの合併症が現れることがあるため、定期的な健康チェックと早期介入が重要です。
症状が目立たない場合もあるため、予防的な意味でも定期健診が勧められます。
- 歯の生え変わりが遅い、歯並びに特徴がある
- 肥満リスクが高い
- 眼疾患(近視・遠視・乱視・斜視・白内障)が見られる
- 難聴・耳の感染症が起こりやすい
- 心疾患がある場合は、引き続き専門医の経過観察が必要
【小児期に多い合併症】
- 先天性心疾患:約50%
- 消化管疾患:約10%
- 眼疾患:約60%
- 難聴:約75%
- 血液の疾患(例:白血病のリスク、新生児一過性骨髄異常増殖など)
- 甲状腺疾患:約15%(特に先天性甲状腺機能低下症)
- 環軸椎椎不安定症:約10%
- 閉塞性睡眠時無呼吸:50~70%
補足:
環軸椎椎不安定症とは、首の骨(環椎と軸椎)の接続が不安定になる状態で、脊髄を圧迫する可能性があります。
その結果、歩き方や手の使い方が変化したり、排便・排尿の障害、筋力の低下などの症状が出ることがあります。
思春期以降(中高生〜成人)

【発達の特徴】
- 視覚的・具体的な情報には反応しやすい
- 抽象的な思考や複雑な言語理解は苦手
- 知的障害は軽度(IQ50~70)から中等度(IQ35~50)が多い
- うつ病など精神的な不調を抱えるリスクがある
- 自立や自己主張への意識が高まる一方で、感情のコントロールが難しいこともある
- 感情が豊かで、人との関わりを大切にする傾向
- 規則正しい生活や安心できる環境があれば、社会的なスキルも伸びていく
- 一部の人は就労や自立した生活に取り組むこともある
【健康面】
思春期以降も継続的な健康管理が重要です。
特に生活習慣病や加齢に伴う疾患への注意が必要になります。
- 甲状腺疾患(甲状腺機能低下症など)のリスク
- 肥満・糖尿病など生活習慣病のリスク
- 40代以降にアルツハイマー型認知症を発症するリスクが高まる
医療的ケアや療育について

ダウン症のある方は、特定の疾患を合併しやすいため、以下のような検査や医療的フォローが重要です。
【医療的ケア】
- 先天性心疾患のフォロー(心エコー、外科手術など)
- 甲状腺機能検査(特に先天性甲状腺機能低下症に注意)
- 耳鼻科検診(中耳炎や難聴のリスク)
- 眼科検診(白内障・斜視・屈折異常など)
- 整形外科的管理(環軸椎椎不安定症など)
- 血液検査(白血病や一過性骨髄異常増殖症:TAMなど)
- 睡眠時無呼吸症候群のスクリーニング
小児期には、ダウン症児向けの専用成長曲線を用い、小児健診ごとに身長・体重・頭囲の推移を記録します。
また、視覚・聴覚・甲状腺の異常を早期に発見するため、定期的なスクリーニングが推奨されます。
こうした医療機関との連携が、重症化の予防や生活の安定につながります。
【療育(発達支援)】
「療育」とは、子ども一人ひとりの発達や特性に合わせて行う支援のことで、ダウン症のある子どもには、次のような支援が行われます。
運動機能の支援
- 理学療法(PT):筋緊張の低下や運動発達の遅れに対して、バランスや筋力を育てる支援
- 作業療法(OT):手先の動きや日常動作(着替え・食事・排泄など)の自立をサポート
言語・コミュニケーション支援
- 言語聴覚療法(ST):言葉の理解や発話、飲み込み(嚥下)の支援
- 代替コミュニケーション(AAC):ジェスチャーやカードなどを活用した非言語のコミュニケーション手段の導入
認知・社会性の支援
- 発達支援プログラム:療育センターや児童発達支援事業所などで、認知機能、行動、集団生活への適応を支援
保育・教育との連携
- 通常の保育園や幼稚園、通園施設、特別支援学校・支援学級など、子どもの特性に合った教育環境の選択が重要
就学・就労について

【就学】
小学校では、特別支援学級や特別支援学校に通う子が多いですが、通常学級に在籍している子も一部います(およそ10%程度といわれています)。
中学校や高校へと進学するにつれて、通常学級に通う割合は減少し、大学まで進学するケースはごく少数です。
およそ7割の子どもが高等学校(主に特別支援学校高等部など)を卒業しています。
周囲の子どもと同じような活動が難しいこともありますが、スポーツを楽しんだり、習い事に通ったり、友達と遊ぶなど、趣味や人との交流を楽しんでいる子も多くいます。
【就労】
ダウン症のある人の就労率は約12.6%で、内訳としては、一般就労が約2%、一般企業の障害者枠雇用が約6%、就労継続支援A型が約3%となっています。1)
多くの場合、特別支援学校高等部で職業訓練や実習を受けた後、清掃、軽作業、販売補助など、本人の特性に合った職種に就労しています。
また、ジョブコーチなどの支援体制が整っていると、職場への定着や安定した勤務の継続が期待できます。
ダウン症の人の平均寿命

現在、ダウン症のある人の平均寿命は約60歳程度まで延びていると報告されています。
1980年代には30歳前後とされていましたが、医療の進歩によって大きく延びました。
特に、乳幼児期に見つかる心疾患(例:房室中隔欠損症など)について、早期発見と手術が可能になったことが、寿命の延長に大きく貢献しています。
まとめ

ダウン症の赤ちゃんは、出生直後に顔立ちや筋緊張の低下から疑われることが多く、特徴的な顔立ちとしては、吊り上がった目や蒙古ひだ、低く平坦な鼻、小さな耳が挙げられます。
体の特徴としては、首や指が太くて短く、頭囲が小さいことがよくあります。
代表的な合併症としては、先天性心疾患や消化器系異常があり、早期診断と適切なケアが重要です。
ダウン症の人の中には高い自己肯定感を持ち、毎日の生活に幸福を感じている人が多いとする報告があります。
障害の有無やその程度と、本人および家族の幸福感との間には、直接的な関連がないとされる見解もあります。
ダウン症があることも個性の一つであり、どの子どもも親の深い愛情のもとで成長することが大切ではないでしょうか。
妊娠初期にお腹の赤ちゃんのダウン症について調べる検査はこちらをご参考にしてください。
【参考】
1)ダウン症の人、8人に1人が雇用 親は「比較的高い幸福感」生活調査 | 朝日新聞
成人期を見据えたダウン症候群のある児への関わり/小児保健研究
ダウン症患児の健康管理ガイドライン(アメリカ小児科学会 のガイドラインの日本語訳)
【関連情報】
ダウン症の子どもたちやその家族が安心して暮らせる社会の実現に向けて、様々な支援や取組が行われています。