ディジョージ症候群(22q11.2欠失症候群)は染色体異常の一つで、小児慢性特定疾病に指定されている難病です。
ファロー四徴症をはじめとする先天性心疾患や免疫不全、発達の遅れなど認知的および身体的な発達に多くの影響を与えます。
口蓋裂や耳介低位など顔周辺に起こる変化のほか、特徴的な顔貌があることで知られています。
そのほかにどのような症状があるのか?妊娠中の検査にはどのようなものがあるのかなど、ディジョージ症候群に関する基本的な情報を分かりやすくご紹介いたします。
ディジョージ症候群(22q11.2欠失症候群)の症状と特徴
ディジョージ症候群(22q11.2欠失症候群)とは染色体異常によって起こる指定難病の一つで、先天性心疾患、免疫不全、発達遅延、口蓋裂、低カルシウム血症など、全身の多部位に症状をきたしうる複合疾患です。
【ディジョージ症候群の主な症状】
- 先天性心疾患:約75%
- 免疫不全
- 口蓋裂:約70%
- 鼻咽腔閉鎖不全
- 低カルシウム血症:約50%
- 精神運動発達遅滞:約20%
- 難聴:約40%
- 腎尿路奇形:約30%
- 特徴的な顔貌
先天性心疾患(ファロー四徴症)
先天性心疾患は罹患者の約75%に見られます。
特にファロー四徴症、総動脈幹症、大動脈解断症、大動脈弓離断といった特定の先天性心疾患と関連があります。
ファロー四徴症とは1)肺動脈狭窄、2)心室中隔欠損、3)右心室肥大、4)大動脈騎乗 の4つの特徴をもつ先天性心疾患の一種です。
これらの異常により酸素濃度の低い血液が全身に送られるとチアノーゼ(唇や爪が青紫色になる)が生じることがあり、呼吸困難や哺乳不良などの命にかかわる問題を引き起こす可能性があります。
ディジョージ症候群の死因の9割は心疾患によるものです。
免疫不全
免疫系の発達に不可欠な胸腺ですが、ディジョージ症候群の患者ではしばしば未発達で、胸腺低位または胸腺無形性による免疫不全が起こります。
白血球の一種で外敵や異常細胞を見つけてやっつける「T細胞」の数が少ないために免疫力が非常に弱く、繰り返し感染症にかかります。
口蓋裂(鼻咽腔閉鎖不全)
口蓋裂(こうがいれつ)は口内の天井が裂けている状態で、このままでは食べる、飲む、話す際に問題が生じますので手術で治療を行います。
鼻咽腔閉鎖不全(びいんくうへいさふぜん)は咽頭の括約筋が適切に機能しない状態で、鼻から空気が漏れてふがふがいったり、飲み込み時に食べ物や液体が鼻から出たりします。
これは口蓋裂が原因の一つです。
このような問題は罹患者の約70%に見られ、哺乳障害や構音障害、鼻に響く声、中耳炎の原因になります。
低カルシウム血症
低カルシウム血症は血中のカルシウム濃度が低い状態のことで、新生児のテタニー(手指の不随意筋収縮)、けいれんを引き起こすことがあります。
副甲状腺低形成などが原因で、約50%の罹患者に見られます。
精神運動発達遅滞
はいはいや座る、立つといった運動機能の遅れ、言語発達の遅れが見られることがあります。
自閉症スペクトラムは約20%に見られます。
行動障害や情緒障害、学習障害などが起こりやすく、思春期から青年期にかけて不安、抑うつなどにより精神疾患のリスクが高まります。
特徴的顔貌
ディジョージ症候群では、しばしば似たような特徴的な顔立ちを持ちます。
【ディジョージ症候群の特徴的顔ぼう】
- 口蓋裂
- 小顎症:極端に小さくて引っ込んでいる
- 目と目の間隔が離れている
- 耳の位置が低い
- 人中が短い(鼻とくちびるの間の部分)
このような特徴は本症の早期発見に重要な役割を果たします。
ディジョージ症候群の原因
ディジョージ症候群は染色体異常によって起こります。
ヒトの常染色体は22対あってそれぞれ番号が割り振られていますが、そのうち22番染色体の長腕と呼ばれる部分の一部が欠失していることでディジョージ症候群は引き起こされます。
染色体の特定領域に欠損があることが、さまざまな身体的および認知的特徴の原因となります。
微小欠失症候群
ディジョージ症候群のように、染色体の非常に小さな領域が欠失することによって引き起こされる疾患を「微小欠失症候群」といいます。
何番目の染色体のどの領域に変化が起こるかによって特徴的な症状は違いますが、成長障害や発達遅延、学習障害や行動の問題、先天奇形などを伴いやすいのが特徴です。
ただしその程度は個人差が大きく、生まれる前に重症度を予測することには限界があります。
染色体異常を含む先天異常をもって生まれた赤ちゃんの原因のうち、約10%はこのような染色体の微小な変化が関係しています。
遺伝するのか?
染色体異常の多くは親から子へと直接遺伝するものではなく、卵子または精子細胞が作られる過程や胎児の発生初期に偶然生じます。
しかしいったん染色体の欠失が生じると次の世代に受け継がれる可能性があり、両親のどちらかがディジョージ症候群の場合は50%の確率で子どもに遺伝します。
ディジョージ症候群の人の約6-10%では、両親のどちらかに同領域の染色体の欠失が見られます。
症状の程度は個人差があるため、生まれた子どもがディジョージ症候群で、その後親の染色体を調べたら症状が少なくて気づかなかったが実はディジョージ症候群だったということもあります。
生まれる確率
生まれてくる赤ちゃんのうち、約4,000-6,000人に1人の確率でディジョージ症候群であるとされています。
寿命
ディジョージ症候群の人の平均寿命は不明ですが、予後は症状の重さや合併症の有無に大きく依存します。
特に死亡要因の90%を占める心臓疾患の程度と適切な医療介入が予後に大きく影響するでしょう。
治療方法
ディジョージ症候群の原因である染色体異常そのものに対する根本的な治療法はないため、症状に合わせて対症療法を行っていきます。
【心疾患への対応】
先天性心疾患はディジョージ症候群の最も重篤で生命を脅かす症状の一つです。
多くの場合、生後早期に手術を行います。
【免疫系の管理】
感染症を予防するための予防的抗生物質投与、免疫系を増強するための免疫グロブリン療法、重症例では胸腺組織移植などの治療が行われます。
潜在的な合併症を管理し予測するためには定期的なモニタリングが重要です。
【低カルシウム血症】
低カルシウム血症に対してはカルシウムの補給と、筋肉のけいれんを防ぐためにビタミンDのサプリメントを補給します。
【発達支援と治療】
言語療法、作業療法、理学療法などの早期介入によって運動能力や日常生活動作の改善を図ります。
また支援グループ、カウンセリング、特別教育プログラムなどを利用することで、必要な精神的支援や指導を受けることができ、情緒的発達のサポートに役立ちます。
このように多方面からの専門家のサポートが生涯にわたって必要で、早期からの適切な医療介入、個々のニーズに合わせたケア、および継続的なサポートを行うことがディジョージ症候群の人の生活の質の向上に不可欠です。
どうやって分かる?検査方法
ディジョージ症候群の検査は、主に以下のような状況で行われます。
- 妊娠中の検査
- 出生後の検査
出生前診断
超音波検査で胎児に何らかの異常が見られた場合、または親がディジョージ症候群の遺伝的変異を持っている場合などは妊娠中に検査を行います。
特に胎児期の検査でファロー四徴症などの先天性心疾患、胸腺の形成不全、NT肥厚、羊水過多、二分脊椎、腎臓異常などの特徴的な異常が見られた場合はディジョージ症候群が強く疑われます。
そのほかに、妊娠中に胎児のダウン症などの染色体異常を調べるために受けた出生前診断で思わず発覚することもあります。
新型出生前診断(NIPT)は検査を実施する施設によって対象疾患が異なりますが、「微小欠失」を検査項目に含む場合は、ディジョージ症候群を調べられる可能性があります。
もしNIPTでディジョージ症候群が陽性だった場合、NIPTは検査精度が高いものの確定診断ではないため、「本当にそうか?」を調べる場合は羊水検査で診断を行います。
生まれた後の検査
出生後に特徴的な症状や兆候が見られる場合(例:心臓の異常、特徴的な顔立ち、免疫系の問題など)に遺伝子検査が行われます。
ディジョージ症候群特有の特徴的な顔貌があると発見しやすいですが、症状が軽度の場合はなかなか原因が分からないこともあります。
出生前診断でディジョージ症候群だと分かったら?
出生前診断でダウン症などの染色体異常が発覚した場合、中絶を選択する人が多いことについて議論がつきません。
出生前診断の本来の目的は、妊娠中にお腹の赤ちゃんの病気や障害を見つけ、安全に分娩できる環境を整えて生まれた後の治療や生活環境の準備につなげるためのものです。
また出生前診断でディジョージ症候群が分かっても、生まれた後に起こる障害の有無や程度についてまでは分かりません。
それでは生まれる前に検査をする意味はないのでは?と思われるかもしれませんが、生まれる前から分かっていれば早期からの治療介入が可能となり、分娩方法の検討や出生後の治療環境を整えることができます。
とはいっても出生前の検査でディジョージ症候群だと分かったら。。。?
おそらく気が動転してしまい、不安を抱くことと思います。
まずは専門家による遺伝カウンセリングを受けて、状況を整理し正しい情報の元であなたとあなたのパートナーとでしっかり話し合うことが大切です。
遺伝カウンセリングではこの疾患の情報提供、遺伝的側面の説明、将来の選択肢の提供、情緒的支援などを受けることができます。
とはいっても最終的に意思決定をするのはご本人たちで、カウンセラーはあくまでも指示的ではなくこの意思決定のサポートをする役割を担います。
まとめ
ディジョージ症候群は染色体異常によって起こる先天性の疾患で、心臓の異常、免疫系の問題、発達の遅れ、特徴的顔貌など、多様な症状を示します。
診断後は個々の症状に応じた治療とサポートが一生涯必要となり、多職種間の協力による総合的なケアが求められます。
大切な点は、早期に適切な介入を行うことで、患者の生活の質を大きく改善できる可能性があることです。
遺伝カウンセリングを通じて、家族は疾患についての理解を深め、将来の計画に役立てることができます。
生まれる前にディジョージ症候群だと分かると、どんな疾患か分からず不安になるでしょうが、まずは一人で抱え込まずに遺伝カウンセラーや、家族会の方に相談してみるのがよいでしょう。
【参考文献、参考サイト】
編著:関沢明彦,佐村修,四元淳子,「周産期遺伝カウンセリングマニュアル 改訂3版」,中外医学社,2020年5月