1p36欠失症候群の特徴と原因【染色体異常】

1q36欠失症候群

1p36欠失症候群とは染色体異常の一つで、精神発達遅滞と特徴的顔貌をはじめとしててんかん発作や先天性心疾患、歩行障害や言語障害など多くの症状を引き起こす指定難病です。

そのほかにはどのような症状があるのか?遺伝はするのかなど、1p36欠失症候群に関する基本的な情報を分かりやすくご紹介いたします。

1p36欠失症候群の症状と特徴

1p36欠失症候群とは染色体異常によって起こる指定難病の一つで、以下のような身体的、認知および発達への影響など全身の多部位に症状をきたしうる複合疾患です。

【1p36欠失症候群の主な症状】

  • 精神発達遅滞
  • 特徴的顔貌
  • てんかん発作
  • 言語障害
  • 筋緊張低下(95%)
  • 先天性心疾患(71%)
  • 短指/屈指(指をまっすぐに伸ばせない)
  • 短い足
  • 脳構造異常:脳室拡大、脳梁欠損症、大脳皮質萎縮(88%)
  • 成長障害
  • 歩行障害
  • 斜視など視力/眼の問題(52%)
  • 難聴/聴力障害(47%)
  • 行動異常
  • 骨格異常(41%)
  • 外性器異常(25%)
  • 腎臓の異常(22%)

精神発達遅滞/知的障害

程度の差はありますが、成長および発達の遅れがすべての患者にあります。

はいはいや座る、立つ、歩くといった運動機能の発達が遅れます。

知的障害:ほとんどの患者は軽度から重度の知的障害を持ち、これは広範な認知障害を含み、学習障害、問題解決能力、日常適応機能などに影響を及ぼします。

行動異常:行動上の課題として、自閉症スペクトラムの特性や注意欠如・多動症(ADHD)、不安、場合によっては攻撃的行動など、さまざまな行動上の問題が存在する可能性があります。

特徴的顔貌

【1p36欠失症候群の特徴的顔ぼう】

  • まっすぐな眉毛
  • 落ちくぼんだ眼
  • 両目の間隔が狭い
  • とがった顎先
  • 鼻筋が広く短い
  • 人中が長い(鼻とくちびるの間の部分)
  • 内眼角贅皮(50%)
  • 低い位置で後方に回転した形態異常の耳
  • 顔面中部後退
  • 口の幅が狭い
  • 小頭症
  • 短頭症
  • 口唇口蓋裂

特徴的顔貌の中でも、まっすぐな眉毛、落ちくぼんだ眼、眼間狭小、とがった顎は診断基準の一つとなっており1p36欠失症候群の人の一般的な特徴です。

「顔面中部後退」は、顔の中部(目の下、鼻筋のあたり)が引っ込んでいるか垂直方向に通常より短い状態のことをいいます。

「小頭症」は頭囲が正常範囲よりも著しく小さい状態を指し、脳の発達が不十分であることを示す可能性があります。

小頭症を持つ人々は、知的障害、発達遅延、運動障害、痙攣など、さまざまな神経学的問題が起こることがあります。

「短頭症」は頭の後頭部が平坦になり、頭囲が正常でも頭の形が異常に広くて短い状態を指します。

この頭の形の変形は、「大泉門閉鎖遅延(赤ちゃんの頭頂部にある骨の間の大きなひし形の隙間)」も関係している可能性があります。

てんかん

てんかん発作は脳の電気的活動に異常が起こることによって引き起こされ、体の一部または全体のけいれんをはじめとして、聴覚や視覚などの感覚異常、心拍数の変化や発汗などの自律神経症状、恐怖感などの精神症状などさまざまな症状があらわれることがあります。

けいれんは1p36欠失症候群の人の約半数にみられます。

言語障害

言語障害は多くの1p36欠失症候群の人に見られる症状の一つです。

発語が乏しかったり全く話さなかったりします。

これには言語の理解や使用が困難な状態の「神経性言語障害」の場合と、理解はしているが発音がうまくできない状態の「構音障害」の場合があります。

言語障害には脳の発達遅延や構造的な問題が関係しており、少しずつ会話ができるようになる人もいます。

筋緊張低下

筋緊張低下は、筋肉の通常の緊張や弾力が不足している状態を指します。

これは筋肉の強さや弱さではなく、筋肉が適切な緊張を保つ能力が低下していることを意味し、幼児期には正しい姿勢を維持するのが難しく、座ったり立ったりするのに支援が必要になることがあります。

その後も歩行開始が遅れたり、一般的な運動スキルの習得に時間がかかる場合があります。

先天性心疾患

生まれながらにして心臓に何らかの異常がある病気をまとめて先天性心疾患といい、心臓の構造の異常、心室や心房の壁に穴がある状態、心臓弁の異常、血管の配置異常など、様々な形であらわれます。

1p36欠失症候群の原因

1q36欠失症候群

1p36欠失症候群は染色体異常によって起こります。

ヒトの常染色体は22対あってそれぞれ番号が割り振られていますが、そのうち1番染色体の短腕と呼ばれる部分の一部が欠失していることで1p36欠失症候群は引き起こされます。

染色体の特定領域に欠損があることが、さまざまな身体的および認知的特徴の原因となります。

微小欠失症候群

1p36欠失症候群のように、染色体の非常に小さな領域が欠失することによって引き起こされる疾患を「微小欠失症候群」といいます。

何番目の染色体のどの領域に変化が起こるかによって特徴的な症状は違いますが、成長障害や発達遅延、学習障害や行動の問題、先天奇形などを伴いやすいのが特徴です。

ただしその程度は個人差が大きく、生まれる前に重症度を予測することには限界があります。

染色体異常を含む先天異常をもって生まれた赤ちゃんの原因のうち、約10%はこのような染色体の微小な変化が関係しています。

遺伝するのか?

染色体異常の多くは親から遺伝したわけではなく、受精卵が形成される過程、または胚発生の初期段階で偶然に生じます。

1p36欠失症候群もほとんどの場合は両親の遺伝子には関係なく突然変異で起こりますが、ごく稀に親が保因者(症状は無いけど染色体の構造異常を持っている人)の場合、子どもに遺伝する可能性があります。

生まれる確率

生まれてくる赤ちゃんのうち、約5,000-1万人に1人の確率で1q36欠失症候群であると言われていますが、難病情報センターによると日本における調査では2.5万人-4万人に1人の頻度とされています。

寿命

1p36欠失症候群の人の平均寿命は不明ですが、予後は症状の重さや合併症の有無に大きく依存します。

特に先天性心疾患がある場合はその重症度と医療介入が大きく影響します。

症状の程度は個人差が大きく、比較的自立して生活できる人がいれば、一生涯サポートが必要な人もいます。

治療方法

1p36欠失症候群は遺伝子異常によって引き起こされるため、現在のところ根治治療は存在しません。

治療は主に、症候群によって引き起こされる各種の症状や合併症の管理に焦点を当てています。

例えば心疾患やその他医学的問題がある場合、手術などの適切な医療ケアを行います。

発達遅延や学習障害が見られる場合、早期介入プログラムや特別教育が推奨され、言語療法、作業療法、物理療法などによって発達をサポートします。

症状が多岐にわたるため、治療は多職種の専門家による支援を通じて個々の患者の症状に応じてカスタマイズされます。

どうやって分かる?検査方法

1p36欠失症候群の検査は、主に以下のような状況で行われます。

  1. 妊娠中の検査
  2. 出生後の検査

どちらの場合も診断は遺伝学的検査によって染色体の分析を行います。

出生前診断

NIPTの検査イメージ

超音波検査で胎児に何らかの異常が見られた場合、例えば心疾患、脳構造異常、発育不全などによって何らかの染色体異常を疑い詳しく検査を行う場合があります。

そのほかに、妊娠中に胎児のダウン症などの染色体異常を調べるために受けた出生前診断で思わず発覚することもあります。

新型出生前診断(NIPT)は検査を実施する施設によって対象疾患が異なりますが、「微小欠失」を検査項目に含む場合は、1p36欠失症候群を調べられる可能性があります。

もしNIPTで1p36欠失症候群が陽性だった場合、NIPTは検査精度が高いものの確定診断ではないため、「本当にそうか?」を調べる場合は羊水検査で診断を行います。

生まれた後の検査

出生後に特徴的な臨床所見が見られる場合(例:特徴的な顔立ち、精神発達遅滞、てんかん発作など)に遺伝子検査が行われます。

他の疾患との症状の重複

1p36欠失症候群は広範で多様な症状を示し、その症状の一部は以下の疾患と重複する特徴があるため誤診に注意が必要です。

【1p36欠失症候群と重複する症状がある疾患】

  • レット症候群
  • アンジェルマン症候群
  • プラダー・ウィリー症候群
  • スミス・マゲニス症候群
  • アルカルディ症候群

アンジェルマン症候群は小児慢性特定疾病に指定されている染色体異常の一つで、重度の精神遅滞を中心とする中枢神経機能障害が主な症状です。

プラダーウィリー症候群は小児慢性特定疾病に指定されている染色体異常の一つで、満腹中枢の異常による過食と肥満、発達の遅れ、低身長、性腺機能不全などが主な症状です。

出生前診断で1p36欠失症候群だと分かったら?

出生前診断でダウン症などの染色体異常が発覚した場合、中絶を選択する人が多いことについて議論がつきません。

出生前診断の本来の目的は、妊娠中にお腹の赤ちゃんの病気や障害を見つけ、安全に分娩できる環境を整えて生まれた後の治療や生活環境の準備につなげるためのものです。

また出生前診断で1p36欠失症候群が分かっても、生まれた後に起こる障害の有無や程度についてまでは分かりません。

それでは生まれる前に検査をする意味はないのでは?と思われるかもしれませんが、生まれる前から分かっていれば早期からの治療介入が可能となり、分娩方法の検討や出生後の治療環境を整えることができます

とはいっても出生前の検査で1p36欠失症候群だと分かったら。。。?

おそらく気が動転してしまい、不安を抱くことと思います。

まずは専門家による遺伝カウンセリングを受けて、状況を整理し正しい情報の元であなたとあなたのパートナーとでしっかり話し合うことが大切です。

遺伝カウンセリングではこの疾患の情報提供、遺伝的側面の説明、将来の選択肢の提供、情緒的支援などを受けることができます。

とはいっても最終的に意思決定をするのはご本人たちで、カウンセラーはあくまでも指示的ではなくこの意思決定のサポートをする役割を担います。

まとめ

1p36欠失症候群は、染色体の微細な欠失により引き起こされる比較的まれな染色体異常です。

この症候群は、発達遅延、知的障害、特徴的な顔貌、低筋緊張など、多岐にわたる症状を示します。

治療法は存在しませんが、言語療法や物理療法などの支援を通じて、症状の管理と患者の生活の質の向上が目指されます。

多くの身体的および知的な課題が伴いますが、適切なサポートと治療を通じて彼らの生活の質の向上が期待されます。

生まれる前に1p36欠失症候群だと分かると、どんな疾患か分からず不安になるでしょうが、まずは一人で抱え込まずに遺伝カウンセラーや、家族会の方に相談してみるのがよいでしょう。


【参考サイト】

1p36欠失症候群(指定難病197)-指定難病センター

GRJ 1p36欠失症候群-GeneReviews


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