プラダーウィリー症候群は小児慢性特定疾病に指定されている染色体異常で、出生前診断の一つであるNIPTを受けた際に発覚することがあります。
ここではプラダーウィリー症候群について、どのような疾患なのか?その症状や原因などについて基本的な情報をご紹介いたします。
プラダーウィリー症候群の特徴
プラダーウィリー症候群とは、多くの遺伝情報が詰まった染色体の異常によって起こる指定難病です。
満腹中枢の異常による過食と肥満、発達の遅れ、低身長、性腺機能不全などが主な症状です。
知的障害は軽度から中程度で、こだわりが強く頑固、かんしゃくをおこしやすいことなどから性格障害や異常行動があるとも表現されます。
プラダーウィリー症候群は生きていく上で命に関わるような合併症はありませんが、内分泌異常(肥満、低身長、性腺機能不全など)、神経学的異常(筋緊張低下、性格障害、行動異常など)などがあり、過食は一生の課題です。
染色体異常と聞くと遺伝するのでは?と思われるかもしれませんが、ほとんどの場合は遺伝ではなく遺伝子の突然変異によって偶然起こりますので、どのような両親からも生まれる可能性があります。
顔つき
プラダーウィリー症候群は、特徴的な顔貌があることが知られています。
- アーモンド様の目
- 下がった口角
- 狭いおでこ
このような特徴は成長とともにあらわれてきます。
そのほか、新生児期は無欲顔貌(周囲に無関心な表情)が見られることもあります。
低身長
幼児期ごろから同級生と比べて低身長が目立つようになってきます。
成人の平均身長は、男性で150cm弱、女性で140cm弱とされています。
低身長に対しては成長ホルモンの注射で改善が見込めます。
性腺機能不全
男児の場合は生まれたときから外性器が小さかったり、ときには停留精巣(ていりゅうせいそう)といって「陰嚢(いんのう)(たまたま)」の中に精巣がない状態が見られることもあります。
性ホルモンがうまく作られないため思春期の二次性徴の発現が遅れます。
女性は月経がこない、男性は声変わりしなかったり体毛が少ないなどの影響があるほか、骨が上手く作られないため骨粗しょう症に注意が必要です。
肥満
満腹中枢に異常があるため、3歳ごろから過食が始まります。
常に空腹感を感じ、食欲を自分で抑えることは困難でしょう。
過食による肥満は生涯通じての課題であり、肥満からくる糖尿病や無呼吸症候群などに注意が必要です。
知的・精神発達の遅れ
精神発達の遅れは3歳ごろからあらわれて、かんしゃくを起こしたり強いこだわりや思い込みによって周囲とのトラブルが多くなります。
知的障害は軽度から中程度で、普通学級に通う人もいますが、年齢とともに行動の問題が増えるため中学校からは特別支援学級に通う人が多くなります。
症状・合併症
プラダーウィリー症候群は生まれたときから筋肉の緊張が弱い、不活発などの症状があり、成長とともに年齢依存的に症状が出現します。
それぞれの症状について早期から治療や支援を行うことによって改善が見込めるものもあります。
乳児期
新生児期は筋肉の張りが弱く力が入りづらい状態(筋緊張低下)で、反応が鈍く不活発です。
おっぱいが上手く吸えず体重が少しずつしか増えないため数か月の間、経管栄養が必要になることが多くあります。
空腹時に泣くことが少なく、軽度の呼吸障害を伴うこともあります。
皮膚や髪の毛の色素が薄く、金髪のようにみえることもあります。
男児では停留精巣の合併がよく見られます。
特徴的な顔立ちは成長とともに明らかになります。
幼児期
乳児期は哺乳が弱く経管栄養が必要になる子もいましたが、2~3歳ごろからは食欲が増し、過食が止まりません。
自身では食欲をコントロールすることが難しいため、周囲のサポートが必要です。
筋緊張低下は次第に改善します。
手足が小さく身長があまり伸びません。
肥満、低身長が目立ってくる時期ですが、それぞれ栄養指導や成長ホルモンによる治療で改善が可能です。
思春期
軽度から中度の学習障害、言語障害がみられます。
生殖器の機能が弱いため、成長と性的な発達が遅れます。
生理や声変わりなどの二次性徴の発現が遅れるほか、低身長が顕著になってきます。
異常な食欲のために食べ物へのこだわりがあり、隠れ食いや盗み食いがしばしば見られます。
性格は頑固で融通が利かずちょっとしたことですぐに怒り、周囲とのトラブルを起こしやすいという似た傾向があります。
成人期
成人しても食欲をコントロールすることが難しく、肥満による生活習慣病に注意が必要です。
まれに一般企業へ就職することもありますが、多くは福祉就労を目指します。
心理精神的問題や行動異常のために社会集団に馴染めないことが多く、早期からの支援が望まれます。
原因は染色体異常
プラダーウィリー症候群は染色体の異常によって起こります。
染色体は細胞の核にあって、遺伝情報を伝えるDNAが太く折りたたまれたものでできています。
ヒトの1つの細胞には46本の染色体があります。
親から子へ遺伝情報を伝える際にその半分の23本ずつが父親と母親から受け継がれています。
46本の染色体は2本ずつがペアとなって23対で構成されています。
そのうち22対を「常染色体」といい、あとの1対は男女の性別を決める「性染色体」といいます。
常染色体には長いものから順番に1~22番の番号が割り振られています。
遺伝子は通常、父母から一本ずつ受け継がれたものがセットになっており、どちらの親由来のものでも同じようにはたらきます。
しかしいくつかの遺伝子については父親、もしくは母親から受け継いだ遺伝子のみがはたらくことが知られており、これを「ゲノム刷り込み現象」といいます。
プラダーウィリー症候群はこのゲノム刷り込み現象によって起こります。
具体的には、父親由来の15番染色体の特定の領域(15q11-q13)が欠けているケースが約70%、父母から1本ずつもらうはずの染色体を母親のみから2本もらうケース(片親性ダイソミー)が約25%、父親由来の15番染色体の一部の遺伝子が不活性になるケースが約5%あります。
同じくゲノム刷り込み現象によって起こる疾患に「アンジェルマン症候群」がありますが、こちらは母親由来の特定の遺伝子の機能喪失によって起こります。
生まれる確率
生まれてくる赤ちゃんのうち、15,000人に1人程度の確率でプラダーウィリー症候群であるとされています。
高齢出産では確率が高くなる?
35歳以上で初めて出産することを一般的に高齢出産といいます。
「高齢出産ではダウン症などの染色体異常が起こる確率が高くなる」ことが知られていますが、これは出産年齢が上がるにつれて受精卵が作られる過程での分裂が正しく行われず染色体の過剰や不足が起こりやすくなるためです。
プラダーウィリー症候群については15番染色体を母親から2本もらう「片親性ダイソミー」において、母親の出産年齢が上がることでその確率が高くなります。
遺伝するのか?
染色体異常の多くは遺伝ではなく、妊娠前の生活習慣や妊娠時の行動が原因になるわけでもありません。
プラダーウィリー症候群もほとんどは遺伝ではありませんので、1人目の子がそうであったとしても次子にも起こる確率が高くなるわけではありません。
ただし極めてまれに父親が保因者(発症はしていないが染色体に欠失がある)である場合は遺伝する可能性があります。
これは遺伝子検査で調べることができます。
寿命
プラダーウィリー症候群の人の平均寿命は一般と同じです。
染色体異常の中でも、新型出生前診断で検査をする「18トリソミー」や「13トリソミー」は生命予後が不良で、生まれてすぐに亡くなる赤ちゃんが多いのですが、プラダーウィリー症候群は命に直接関わるような心臓の奇形などの合併症があるわけではありません。
ただし、過食による肥満や糖尿病が起こりやすいため健康管理には人一倍注意が必要です。
治療法
プラダーウィリー症候群そのものに対する根治的な治療法はありませんが、適切な医学的ケアやサポートを行うことで生活の質(QOL)の改善が見込めます。
【主な治療法】
- 食事療法
- 運動療法
- 成長ホルモン補充療法
- 性ホルモン補充療法
- 心理療法
*食事療法*
自分では食欲のコントロールが難しいため、栄養バランスの良い食事やカロリー制限を基本として、目の届くところに食べ物を置かないなどの対策が重要です。
*運動療法*
食欲の更新のほか運動が苦手なこと、基礎代謝が低いことでさらに太りやすいため、定期的な運動が推奨されます。
*成長ホルモン補充療法*
成長ホルモンの補充療法は身長の成長を促進し、筋肉量を増やし、体脂肪を減らす効果があります。
成長ホルモン療法は治療費が高額ですが、プラダーウィリー症候群は小児慢性特定疾病のため低身長に対しては医療費の助成を受けることができます。
*性ホルモン補充療法*
二次性徴を助けるために性ホルモン(男性ホルモン、女性ホルモン)の補充療法を行います。
この治療によって骨粗しょう症のリスクを軽減させたり、精神を安定させる効果が期待できます。
*心理療法*
理学療法、言語療法、発達療法などの様々な他の治療法は、社会的および個人間のスキルを向上させるのに役立ちます。
どうやって分かる?検査方法
染色体異常の一部については生まれる前の出生前診断で調べることができ、プラダーウィリー症候群もその一つです。
ですが多くは生まれたあとに筋肉の緊張が弱いなどの特徴からその疑いが持たれます。
診断は血液検査により染色体の分析を行います。
出生前診断
妊娠中に胎児のダウン症などの染色体異常を調べるために受けた出生前診断で思わず発覚する場合があります。
新型出生前診断(NIPT)で「微小欠失」を検査項目に含む場合は、「プラダーウィリー症候群の可能性」を調べることができます。
もしNIPTでプラダーウィリー症候群が陽性だった場合、NIPTは検査精度が高いものの確定診断ではないため、「本当にそうか?」を調べる場合は羊水検査で診断を行います。
生まれた後の検査
多くは生まれた後に筋肉の緊張が弱いことや、おっぱいが上手く吸えない、特徴的な顔貌、男の子の場合は外性器の異常などによってプラダーウィリー症候群や何らかの疾患を疑って検査を行います。
出生前の検査でプラダーウィリー症候群だと分かったら?
出生前診断でダウン症などの染色体異常が発覚した場合、中絶を選択する人が多いことについて議論がつきません。
出生前診断の本来の目的は、妊娠中にお腹の赤ちゃんの病気や障害を見つけ、安全に分娩できる環境を整えて生まれた後の治療や生活環境の準備につなげるためのものです。
出生前の検査でプラダーウィリー症候群だと分かったら。。。?
おそらく気が動転してしまい、不安を抱くことと思います。
まずは専門家による遺伝カウンセリングを受けて、状況を整理し正しい情報の元であなたとあなたのパートナーとでしっかり話し合うことが大切です。
遺伝カウンセリングについては「コラム:遺伝カウンセリングとは?」もご参考にしてください。
まとめ
プラダーウィリー症候群は染色体異常によって起こる先天性の病気です。
現代医学では根本的な治療法はなく、ご家族のサポートはもちろん、学校や自治体のサポートが不可欠です。
治療やケアは早い段階から始めることで、生活の質の向上が期待されます。
生まれる前にプラダーウィリー症候群だと分かると、どんな疾患か分からず不安になるでしょうが、プラダーウィリー症候群の家族会などもありますので、まずは一人で抱え込まずに遺伝カウンセラーや、家族会の方に相談してみるのがよいでしょう。