
生まれる前の出生前診断や生まれた後で自分の赤ちゃんにダウン症があると発覚したら、突然のことでどのように受け止めて良いか分からなくなってしまうかもしれません。
出生前診断を受ける理由として多く聞かれるのが「ダウン症がないか心配」というものですが、医療技術の発達によりダウン症がある方の平均寿命は60歳を超えているといわれており、合併症に対する適切な治療を行うことで学校へ通い趣味や習い事を楽しんでいる方もたくさんいます。
ここでは、ダウン症のある赤ちゃんの成長に焦点を当ててご紹介しています。
ダウン症とは

ダウン症とは「ダウン症候群」のことで、染色体の数が通常より多いことでおこります。
ヒトの染色体は22対(44本)の「常染色体」と、男女の性別を決める1対の「性染色体」から成り立っています。
ダウン症はこのうち21番目の染色体が1本多いためにおこる染色体異常のことで、精神の発達の遅れや運動の発達の遅れなどを伴います。
21番目の染色体が3本あるため「21トリソミー」とも呼ばれます。
(「トリ」は「3」を意味します)
染色体の変化があることと病気であることはイコールではなく、変化した遺伝子を誰しも6-7個はもっていると言われており、遺伝子の変化は珍しいことではありません。
そのため、ダウン症も多様性の一つである、個性であるとする考え方が少しずつ広まってきています。
染色体については、「コラム:染色体とは?基本から解説!」もご参考にしてください。
ダウン症の赤ちゃんが生まれる確率
日本でダウン症のある赤ちゃんが生まれる確率は生まれた赤ちゃんのうち約500人に1人の割合で、その人数は10年間変わっていません。1)
つまり少子化によって出生数が減っていることを考えると、割合としては相対的に増加していることになります。
また、出産年齢が上がるとダウン症の子が生まれる確率が高くなることが知られていますが、これは女性が生まれる時にすでに一生分の卵子の元を持っており、年齢が上がるにつれて卵子を作る際のエラーがおこりやすくなるためです。
【出産年齢と染色体異常を持つ子供が生まれる頻度】

Hook EB. (1981). Rates of chromosome abnormalities at different maternal ages. Obstet Gynecol , 58, 282-5. PMID: 6455611
Hook EB, Cross PK & Schreinemachers DM. (1983). Chromosomal abnormality rates at amniocentesis & in live-born infants. JAMA , 249, 2034-8. PMID: 6220164 Schreinemachers DM, Cross PK & Hook EB. (1982). Rates of trisomies 21, 18, 13 & other chromosome abnormalities in about 20 000 prenatal studies compared with estimated rates in live births. Hum. Genet. , 61, 318-24. PMID: 6891368
一般的に、35歳以上の高齢出産においてダウン症の子が生まれる確率が高くなるとも言われていますが、その確率は35歳あたりから緩やかに増加します。
染色体異常があると、そのほとんどは出生まで至らず流産してしまいますが、ダウン症も約80%は流産や死産となってしまいます。
日本国内では現在約8万人のダウン症のある方が生活していると推測されています。
ダウン症は遺伝するのか

染色体異常のほとんどは偶然おこるもので、ダウン症もその95%は遺伝ではなくたまたまおこります。
これを「標準型」もしくは「トリソミー型」と呼んだりもします。
トリソミー型は染色体の不分離という偶発的な事象が原因で、高齢妊娠などによって頻度は高くなりますが、誰にでも起こり得ます。
トリソミー型は高齢妊娠だけが原因ではありませんが、一定数は必ずおこります。
妊娠前の行動や飲食物、両親の遺伝的な特性が影響するものではありません。
21番染色体に他の染色体がくっつくなどして形が変化したものを「転座型」と呼び、ダウン症の3-4%がこの型です。
転座型の場合は遺伝の可能性もありますので、まずは遺伝カウンセリングにて相談することをお勧めします。
正常な細胞と21トリソミーの細胞の両方をあわせもつものを「モザイク型」と呼び、ダウン症の1-2%に当たる珍しい核型です。
モザイク型は他の型と比べて症状が軽度になる傾向があります。
次の妊娠での再発率
同一の女性の妊娠でも、それぞれは独立していると考えます。
しかし確率だけをみると、一定の条件において再罹患率は高くなり、それは妊娠時の年齢であったり両親の隠れた染色体異常であったりします。
ダウン症もしくはその他の染色体トリソミーの方が家系内に1人いる場合の再発率は約1%です。
過去に30歳未満でダウン症の子の妊娠歴がある場合の再発率は、現在も30歳未満では同年齢の女性と比べて8.2倍、現在が30歳以上では2.2倍となります。
ダウン症の子の妊娠歴が2回ある場合は再発率が10-20%となり、両親のいずれかに隠れた染色体異常がある可能性があります。2)
出生前検査:超音波検査

妊婦健診の超音波検査(エコー検査)でダウン症が疑われることがあります。
超音波検査は超音波を利用した画像を解析することで胎児の発育を確認し、心臓や四肢などに見た目の異常がないか、羊水量は正常かなどを調べるものです。
超音波検査はダウン症などの染色体異常を診断することはできませんが、ダウン症があると以下の所見を合併しやすいなどスクリーニング検査として利用されます。
【ダウン症が疑われる超音波検査所見】
- 首の後ろの皮膚が厚い(頸部浮腫:NT)
- 心奇形
- 軽度水腎症
- 十二指腸閉鎖
- 腸管高輝度エコー
- 大腿骨が短い
- 舌が大きい
生まれたダウン症のある赤ちゃんの約半数に先天性心疾患の合併症があります。
十二指腸狭窄や閉鎖などの消化器官奇形はおよそ10%に見られます。
生まれる前にダウン症を調べる検査

生まれる前に胎児のダウン症を調べる検査としては、NIPT(新型出生前診断)や羊水検査などがあります。
出生前診断の目的とは、生まれる前に胎児の病気や障害について調べ、安全な分娩方法を整えて出生後の治療や育児につなげるためのものです。
ダウン症に限って言えば難産になりやすいということはありませんが、早くからサポート体制などの情報を集めて備えることができます。
出生前診断については、「出生前診断とは」もご参考にしてください。
生まれたばかりのダウン症の赤ちゃんの特徴

生まれたばかりのダウン症のある赤ちゃんは、特有の顔貌(顔つき)やその他の見た目の特徴、筋力の弱さなどでダウン症かもしれないと疑いを持たれることがありますが、生まれてすぐは分からずその後の乳児検診などではじめて疑われることもあります。
眼や鼻や口、耳が小さく顔が平たい、首の後ろの皮膚がだぶついている、力が弱い感じがする、などの特徴がありますが、個人差がありすべてが見られるわけではありません。
【生まれたばかりのダウン症の赤ちゃんの診察所見】
- 短頭
- 頭の縦幅が短い
- 短頸
- 首が短い
- 首の後ろのだぶついた皮膚
- 平坦な鼻根
- 細いつり目で眼の間隔が広い
- 耳の位置が低い
- 内眼角贅皮(ないがんかくぜいひ)
- 蒙古ひだ
- 舌が大きくしわが多い
- 口が開きっぱなしになっている
- 手掌単一屈曲線(しゅしょうたんいつきょくせん)
- てのひら横一直線に伸びる深いしわ
- 第5指が短く湾曲している
- 特徴的な皮膚紋理
- 指紋のような隆線
- 腹壁・臍・鼠経ヘルニア
- サンダルギャップ
- 足の第1指と第2指の間隔が広く深いしわがある
- 筋肉の緊張が弱い
これらの診察所見によりダウン症の疑いが持たれたら染色体検査によって調べます。
ダウン症の子どもの成長

ダウン症のある子どもは心と体の成長がゆっくりであることが特徴です。
筋力が生まれつき弱いため、新生児期は哺乳に時間がかかったりミルクを飲む量が少なめなことがあります。
また口が小さく舌が大きいことも哺乳が苦手な子が多い要因になります。
多くの子はミルクを飲むのもだんだん上手になっていきます。
体格は小柄なことが多いですが、これは筋力が弱く口が小さいため食事に時間がかかるためです。
言葉を話せるようになるのも一般の子の約2倍かかります。
大きくなっても言語理解は高くても話すのが苦手な子が多いようです。
性格は明るくて素直、頑張り屋さんが多いといわれます。
成長は一般の子と比べるとゆっくりなため、その子のペースでの成長を優しく見守ることが大切です。
運動発達

筋力が弱いため、首のすわりや寝返り、一人座りなどができるようになるのが遅めです。
はいはいやつかまり立ち、一人歩きができるようになるまでは一般の赤ちゃんの約2倍の時間がかかります。
精神発達

精神発達の遅れの程度は個人差が大きくありますが、軽度(IQ50-70)から中等度(IQ35-50)の知的障害をもち、時に重度(IQ20-35)なこともあります。
社会的な適応力は高い子が多いようです。
小児期の合併症

ダウン症にはおこりやすい合併症が様々あり、特に小児期は早期介入が合併症の管理において重要です。
定期的な健診で早期発見・早期治療に努めるとともに、予防につながる場合もあります。
【ダウン症の小児期の合併症】
- 先天性心疾患:約50%
- 消化管疾患:約10%
- 眼疾患:約60%
- 難聴:約75%
- 血液の疾患
- 甲状腺疾患:約15%
- 環軸椎椎不安定症:約10%
- 閉塞性睡眠時無呼吸:50-70%
眼の問題は近視や遠視、乱視のほか、斜視や白内障も小児期から注意が必要です。
耳の問題は中耳炎になりやすく難聴になる可能性があります。
血液の疾患としては一過性骨髄異常増殖症(TAM)という一時的に白血病のような状態になる疾患がダウン症に合併することがあると知られていますが、頻度は高くなくほとんどの場合自然に治ります。
また、白血病も一般の子よりは頻度が高めですが稀です。
環軸椎椎不安定症とは、首の骨のつながりがずれて不安定になる状態のことです。レントゲン検査で調べます。
就学

小学校は特別支援学級や特別支援学校へ通う子が多いですが、普通学級に通う子も10%程度います。
中学校・高校と進学するにつれて普通学級に通う子は少なくなり、大学まで進学することは稀です。
およそ7割の子は高校を卒業します。
一般の子と同じように活動するのは難しいこともありますが、スポーツを楽しんだり習い事をしたり、お友達と遊んだりと趣味や交流を楽しんでいる子もいます。
ダウン症の平均寿命
ダウン症の合併症として多い心疾患や消化管疾患の手術技術や術後管理の向上により、かつては20歳を超えないとされていたダウン症の平均寿命ですが、現在では60歳を超えると言われています。
日本では現在約8万人のダウン症のある人が生活されていると推測され、そのうちの過半数が成人を迎えていると考えられます。
これまでの世界最高齢のダウン症のある方は83歳とされています。
まとめ

ダウン症のある人の多くが高い自己肯定感を持っており、毎日の生活に幸福感を感じている人が約9割を占めたとの報告もあります。
日本産科婦人科学会によると、障害の有無やその程度と、本人および家族が幸か不幸かということの間には、ほとんど関連はないとされています。
ダウン症があることも個性の一側面でしかなく、どの子どもにおいても親の深い愛情の元で成長することが大切ではないでしょうか。
【参考】
1)成人期を見据えたダウン症候群のある児への関わり/小児保健研究
2)Gardner RJM, et al. Chromosome abnormalities and genetic counseling. 4th ed. Oxford University Press; 2012. p.277-94.