5p欠失症候群は猫のような甲高い泣き声をすることが特徴の一つで、以前は猫鳴き症候群とも呼ばれていました。
染色体異常によって起こる小児慢性特定疾病の一つで、小頭症や成長障害が主な症状です。
そのほかにはどのような症状があるのか?遺伝はするのかなど、5p欠失症候群について基本的な情報をご紹介いたします。
5p欠失症候群の特徴と症状
5p欠失症候群(猫鳴き症候群)とは、多くの遺伝情報が詰まった染色体の異常によって起こる指定難病です。
新生児期の泣き声が甲高く猫の鳴き声に似ていることが特徴で、小頭症や小顎症など顔周辺に起こる変化のほか、重度の精神運動発達の遅れが主な症状です。
【5p欠失症候群の主な特徴】
- 猫のような甲高い泣き声
- 重度の精神運動発達遅滞
- 知的障害
- 筋緊張低下
- 小頭症
- 小顎症
- 丸顔
- 眼間開離
- 耳介低位
生まれたときは低出生体重児(2,500g未満)であることが多く、筋肉の緊張が弱いため力なく見えます。
体の成長や運動機能の発達、精神の発達はゆっくりです。
猫のような泣き声
新生児期の赤ちゃんはみんな声をあげて泣きますが、5p欠失症候群の赤ちゃんはその泣き声が甲高く子猫の鳴き声に非常に似ています。
なお、別称で「猫鳴き症候群」とも言われますが、人間を動物にたとえることはその人への敬意を欠く行為であるとして、人道上の観点から使われなくなっています。
顔貌
生まれたときから頭の小ささが目立ち(小頭症)、成長するにつれてより顕著になります。
そのほか丸い顔で眼の間隔が離れている、まぶたが目がしらを覆っている(内眼角贅皮)、顎が小さい(小顎症)、耳の形が変形し低い位置にある(耳介低位)、鼻筋の幅が広いなどの特徴があります。
知的・精神発達の遅れ
知的障害は中程度から重度といわれており、多くの場合は言葉の習得が遅れます。
話すのが苦手な場合でも、サイン言語など非言語によるコミュニケーション方法によって周囲へ意思を伝えやすくなります。
運動発達の遅れがあり、はいはいや歩き始めが人よりゆっくりです。
行動面では多動や自傷行為、過剰な興奮や過敏性、攻撃的な行動といった問題が見られることもあり、てんかん発作や自閉傾向のある人もいます。
合併症
心疾患や腎臓の奇形などを持って生まれてくることがあります。
循環器、泌尿器、生殖器、消化器、筋骨格、呼吸器、目や耳の疾患など、合併症は多領域にわたり数多くの症状を抱えることがあります。
男性は停留精巣(ていりゅうせいそう)といって「陰嚢(いんのう)(たまたま)」の中に精巣がない状態が見られることもあります。
目のトラブルとしては近視や乱視、斜視があります。
背骨が左右に曲がる「脊柱側弯症」は子どもの頃に見られやすく、成人期にも進行する可能性があります。
手足の指がつながっている「合指症」がしばしば見られます。
原因は染色体異常
5p欠失症候群は染色体異常によって起こります。
染色体は細胞の核にあって、遺伝情報を伝えるDNAが太く折りたたまれたものでできています。
ヒトの染色体は22対(44本)の「常染色体」と、男女の性別を決める1対の「性染色体」から成り立っています。
常染色体は長いものから順番に1~22番の番号が割り振られています。
染色体異常はこのうちの変化(異常)がある染色体の番号が疾患名に付けられており、例えば21トリソミー(ダウン症)は21番目の染色体が1本多いためにこのように呼ばれます。
5p欠失症候群は、5番目の染色体の特定領域にごくわずかな欠失があることで引き起こされます。
欠失した遺伝情報が多いほど症状が重くなります。
微小欠失症候群
5p欠失症候群のように、染色体のある特定領域の遺伝子がごくわずかに欠失や重複することで引き起こされる疾患を「微小欠失症候群」といいます。
何番目の染色体のどの領域に変化が起こるかによって特徴的な症状は違いますが、成長障害や発達遅延、先天奇形などを伴いやすいのが特徴です。
ただしその程度は個人差が大きく、生まれる前に重症度を予測することには限界があります。
染色体異常を含む先天異常をもって生まれた赤ちゃんの原因のうち、約10%はこのような染色体の微小な変化が関係しています。
遺伝するのか?
染色体異常と聞くと遺伝するのではと思われるかもしれませんが、ほとんどの場合は突然変異により起こるもので遺伝ではありません。
どのような夫婦にも起こる可能性があり、妊娠前の生活習慣や妊娠時の行動が原因になるわけではありません。
猫鳴き症候群も、その85%は遺伝ではなく偶然に起こります。
12%は「不均衡型相互転座」といい、染色体の一部が入れ替わっています。
両親のどちらかが症状がないものの元から転座型染色体を持っている場合(転座保因者)と突然変異によるものがあり、転座保因者の場合は遺伝によるものです。
5%は「モザイク型」といい、正常な細胞と染色体異常がある細胞が混ざった状態で、ほとんどの場合遺伝ではありません。
モザイク型は症状が軽くなる傾向にあります。
約1%は両親のどちらかが「染色体逆位」といって、染色体に2か所の切断が起こりひっくり返った構造異常を持っており、それに由来して起こります。
生まれる確率
生まれてくる赤ちゃんのうち、15,000~50,000人に1人の確率で猫鳴き症候群であるとされています。
寿命
生命に関わるような合併症がなければ生命予後は良好で、寿命は一般と同じです。
重篤な心疾患などがあると約10%は乳児期に亡くなりますが、生後数年を過ぎると死亡率は減少します。
てんかんにより突然死の確率が高くなるほか、肺炎や感染症にかかりやすいため注意が必要です。
治療法
5p欠失症候群の原因である染色体異常そのものに対する根本的な治療法はありません。
症状に合わせて対症療法を行っていきます。
心疾患や腎臓の奇形など臓器に異常がある場合は外科手術を行います。
新生児期は哺乳障害や呼吸障害、成長障害があるためそれらの治療・管理が中心となります。
言葉の遅れに対しては言語療法を、運動機能や脳機能の遅れに対しては理学療法や作業療法を行ないます。
てんかん発作に対しては抗てんかん薬を使用することで、発作のない生活ができることが一般的です。
歯や目、耳のトラブルが起こりやすいため、定期健診による早期発見が大切です。
早い段階からの治療介入によって病気の予防や進行を食い止める助けとなり、早期からの療育は出来ることの幅を広げ社会適応を改善します。
どうやって分かる?検査方法
出生後に特徴的な泣き声や小頭症、成長障害などがあると5p欠失症候群を疑い検査を行います。
染色体異常の一部については生まれる前の出生前診断で調べることができ、5p欠失症候群もその一つです。
どちらの場合も診断は遺伝学的検査によって染色体の分析を行います。
出生前診断
妊娠中に胎児のダウン症などの染色体異常を調べるために受けた出生前診断で思わず発覚する場合があります。
新型出生前診断(NIPT)で「微小欠失」を検査項目に含む場合は、「5p欠失症候群の可能性」を調べることができます。
もしNIPTで5p欠失症候群が陽性だった場合、NIPTは検査精度が高いものの確定診断ではないため、「本当にそうか?」を調べる場合は羊水検査で診断を行います。
生まれた後の検査
5p欠失症候群は1)猫のような甲高い泣き声、2)小頭症、3)成長障害のすべてあることが診断基準の一つで、これらの症状がある場合は染色体検査によって検査を行い、5番染色体の特定領域(5p15領域)に欠失があると診断されます。
出生前の検査で猫鳴き症候群だと分かったら?
出生前診断でダウン症などの染色体異常が発覚した場合、中絶を選択する人が多いことについて議論がつきません。
出生前診断の本来の目的は、妊娠中にお腹の赤ちゃんの病気や障害を見つけ、安全に分娩できる環境を整えて生まれた後の治療や生活環境の準備につなげるためのものです。
生まれる前から分かっていれば早期からの治療介入が可能となり、合併症の発生や進行を防ぐことができるかもしれません。
とはいっても出生前の検査で5p欠失症候群だと分かったら。。。?
おそらく気が動転してしまい、不安を抱くことと思います。
まずは専門家による遺伝カウンセリングを受けて、状況を整理し正しい情報の元であなたとあなたのパートナーとでしっかり話し合うことが大切です。
まとめ
5p欠失症候群は染色体異常によって起こる先天性の病気です。
現代医学では根本的な治療法はなく、ご家族のサポートはもちろん、学校や自治体のサポートが不可欠です。
治療やケアは早い段階から始めることで、生活の質の向上が期待されます。
生まれる前に5p欠失症候群だと分かると、どんな疾患か分からず不安になるでしょうが、5p欠失症候群の家族会などもありますので、まずは一人で抱え込まずに遺伝カウンセラーや、家族会の方に相談してみるのがよいでしょう。
【参考】