
ターナー症候群は小児慢性特定疾病に指定されている染色体異常で、出生前診断の一つであるNIPTを受けた際に発覚することがあります。
ターナー症候群の症状には個人差がありますが、適切に治療を行えば生命を脅かすような重篤な症状があるわけではありません。
ここではターナー症候群について、どのような体質なのか?遺伝するのか?といった内容も含めて基本的な情報をご紹介いたします。
ターナー症候群とは
ターナー症候群とは、女性のみに見られる先天性の染色体異常で、X染色体の数に異常があることが原因です。
基本的に知的発達には影響せず、身長が低いこと、卵巣が機能しにくいこと、ほとんどは不妊であることが特徴です。
「ターナー症候群」と呼ばれますが、適切な治療を受ければ命に関わる重篤な症状はなく、一概に「病気」とは言えません。
近年ではアレルギーなどと同様に生まれつきの体質の一つであり、多様性の一形態、すなわち個性の一つであるとする考え方が広がっています。
(本コラムでは便宜上「疾患」と記載します)
病気・障害というイメージが先行してしまわないよう「ターナー女性」と呼ぶことが増えています。
【症候群について】
症候群とは、特定の共通する症状を持つ人々を分類するための総称です。
ターナー症候群では、身長が低いことや卵巣の機能低下などが特徴に挙げられます。
もともとは、原因が不明な場合に特定の症状を持つ人々をグループ化する目的で使われていましたが、原因が判明した後も「症候群」という名称がそのまま使われることが多く、定義はあいまいなようです。
多くの症候群は、最初に発見・報告した医師の名前にちなんで命名されており、ターナー症候群は医師ヘンリー・ターナー(Henry Turner)によって最初に報告されました。
特徴

ターナー症候群は、女性に見られる染色体異常の中で最も多いもので、以下の特徴があります。
【ターナー症候群の特徴】
- 低身長
- 翼状頸(よくじょうけい)
- 外反肘(がいはんちゅう)
- 肩や胸の幅が広い
- 耳の変形
- うなじの髪の生え際が低い
- 小顎症(下あごが小さい)
- 高口蓋(口の中の天井が高い)
- 爪の発育が悪い
- 指が少し短い
- ほくろが多い
すべての症状が現れるわけではなく個人差も大きいため、生まれてすぐには気づかれず、思春期の発達の遅れをきっかけにターナー症候群が疑われるケースが多くあります。
胎児期から発育が遅れ、「胎児発育不全」が多く見られます。
低身長

他の特徴とは異なり、低身長はほとんどすべてのターナー症候群の人に見られます。
子どもの頃から低身長であり、治療を受けない場合、成人女性の平均身長より約20cm低くなります。
日本人女性の平均身長が約158mであるのに対し、ターナー症候群の人の平均身長は約139cmです。
成長ホルモン療法を受けた場合、最終的な平均身長は約147cmとなります。
成長ホルモン療法は、遅くとも15歳までに開始することでより高い効果が期待できます。
翼状頸(よくじょうけい)

翼状頸とは、首の両側の皮膚が余ってひだ状になることで、首が太く見える状態を指します。ターナー症候群によく見られる特徴の一つです。
翼状頸の程度には個人差があり、見た目にほとんど影響しない軽度なものから、明らかに首の皮膚が余っているように見えるものまでさまざまです。
外反肘(がいはんちゅう)
外反肘とは、肘から先の腕が通常より外側に向いている状態のことを指します。ターナー症候群によく見られる特徴の一つです。
通常、腕を自然に伸ばしたとき、肘の角度はわずかに外側に向いていますが、外反肘があるとその角度が通常より大きくなります。重度の場合、腕をまっすぐ伸ばしにくいことがあります。
日常生活に支障が出ることは少ないですが、スポーツや特定の動作(例えば、物を持ち上げる動作)で違和感を覚えることもあります。
顔つき
染色体異常には特有の顔つきが見られることが多いですが、ターナー症候群には明確な特徴的な顔つきはありません。
合併症
ターナー症候群にはさまざまな合併症がありますが、注意することで早期発見・早期治療が可能になり、予防につなげることもできます。
【ターナー症候群の合併症】
- 卵巣機能不全
- 生理がこない
- 不妊
- 骨粗しょう症
- 心奇形・心疾患
- 糖尿病
- 腎奇形・腎不全
- 自己免疫疾患
- 中耳炎
- 難聴
- 遠視、斜視
- 高血圧
- リンパ浮腫
- 側弯症
- 学習障害
症状の程度には個人差がありますが、多くの人に共通するのは不妊であり、性的発達がみられなかったり、遅れたりすることです。
中耳炎になりやすく、繰り返すことで難聴がみられることがあります。
肥満や高血圧のリスクが高く、それに伴い糖尿病や動脈硬化のリスクも高まるため、注意が必要です。
心臓や腎臓に異常がみられることが多いです。
甲状腺の機能障害がみられることもあります。
自己免疫疾患の発症率は一般の人よりも高い傾向があります。
空間認識が苦手な傾向があり、そのため算数や体育が苦手な子が多いようです。
知的障害はまれですが、非言語性学習障害や注意欠如・多動症(ADHD)が多く見られます。
卵巣機能不全

卵巣機能不全とは、卵巣が正常に機能しない、または機能が低下している状態です。
卵巣は女性ホルモンの分泌や排卵に関与しており、その機能が低下すると、生理がこない、不妊症になるなどの影響が現れます。
生理がこない
一般的に女性は10~12歳頃から生理が始まり、胸がふくらむなどの「二次性徴」が現れますが、ターナー症候群の多くの人ではこれがみられません。
約20%の人は自然に生理が来ることがありますが、それでも規則的に続くことはまれです。
不妊
卵子提供による妊娠が可能な場合もありますが、ほとんどの人は不妊となります。
まれに、自然に初経を迎えた人の中で自然妊娠の報告例がありますが、非常に少数です。
また、生理が遅れていることを理由に受診した人のうち、ターナー症候群が診断されるケースが多く、あるデータではその割合が26.4%であったと報告されています。
骨粗しょう症

女性ホルモンの分泌が少ないことにより、骨密度が低下し、10代のうちから骨粗しょう症になりやすいため注意が必要です。
特に成長期に十分な骨量が形成されないと、将来的に骨折のリスクが高くなります。
また、背骨が横方向に曲がる脊柱側弯症(せきちゅうそくわんしょう)が約10%の人にみられます。
成長ホルモン療法や女性ホルモン補充療法を適切に行うことで、骨密度を保ち、骨折リスクを減らすことができます。
リンパ浮腫
乳幼児期に手足の甲のむくみ(リンパ浮腫)がよくみられ、特に新生児期のむくみは診断の有力な手がかりとなります。
リンパ浮腫は成長とともに軽減することが多いですが、一部の人では思春期以降も手足のむくみが続くことがあります。
長期的にリンパ浮腫が続く場合、適切なケアを行わないと悪化することがあるため、圧迫療法やリンパドレナージなどの治療が推奨されます。
原因は染色体異常

ターナー症候群は性染色体の異常によって発生します。
染色体とは遺伝情報を持つDNAが太く折りたたまれたもので、親から子に受け継がれる多くの遺伝情報が収められています。
ヒトの染色体は22対(44本)の「常染色体」と、性別を決定する1対(2本)の「性染色体」で構成されています。
性染色体には「X染色体」と「Y染色体」があり、子どもは母親から「X染色体」を、父親から「X染色体」または「Y染色体」のいずれかを受け継ぎます。
「XX」の組み合わせで女性、「XY」の組み合わせで男性になります。
ターナー症候群は、染色体の受け継ぎの過程で異常が生じ、「XX」のうち1本が欠失するか、一部が欠けています。
染色体異常の中でも正常な細胞と異常な細胞が混在している状態を「モザイク型」とよび、ターナー症候群ではこのモザイク型が多いことが特徴です。
モザイク型の場合、症状や合併症が比較的軽くなる傾向があります。
生まれる確率

ターナー症候群は流産率が非常に高いことが知られています。
生まれた女の子の赤ちゃんのうち、2,000~2,500人に1人の確率でターナー症候群であるとされています。
生しかし、生まれた直後には目立った症状がほとんどなく、診断されないケースも多いため、実際の発生頻度はこれより高いと推測されています。
受精卵の段階では、ターナー症候群を含む多くの染色体異常が発生しますが、その大部分は流産や死産となり、生まれてくることはありません。
ターナー症候群の胎児も、その約98%が流産するとされています。
高齢出産では確率が高くなる?
35歳以上での初産を一般的に高齢出産といいます。
出産年齢が上がるにつれて、受精卵が作られる過程で細胞分裂が正常に行われにくくなり、染色体の過剰や不足が生じやすくなります。その結果、ダウン症などの染色体異常の発生率も高くなります。
ただし、ターナー症候群をはじめとする「性染色体異常」は、母親の年齢には関係なく、どの年齢でも一定の割合で発生するとされています。
遺伝するのか?
染色体異常と聞くと、遺伝するのではないかと思われるかもしれませんが、ほとんどの場合、遺伝ではなく偶然に発生します。
ターナー症候群も、両親の遺伝や環境が原因ではなく、誰にでも発生する可能性があるとされています。
すでに生まれたきょうだいがターナー症候群であっても、次に生まれる子に影響が及ぶことはほとんどありません。
寿命
ターナー症候群であっても特別に寿命が短くなるわけではなく、合併症に適切に対処すれば、一般の人と変わらない寿命を全うできます。
治療法
ターナー症候群そのものを根本的に治す治療法はありませんが、適切な医学的ケアを受けることで、一般の人と変わらない生活を送ることができます。
主に、低身長に対する成長ホルモン療法と、二次性徴を促すための女性ホルモン療法が行われます。
合併症に関しては、定期的な検査を行い、早期発見・早期治療に努めます。
心臓や腎臓などの臓器に異常がある場合は、外科手術が必要となることもあります。
外反肘の症状が強い場合は、手術によって肘の神経が周囲の骨に圧迫されないように調整します。
肥満や糖尿病など、発症頻度が高い生活習慣病については、予防を重視しながら、食事指導や運動療法を実施します。
不妊治療に関しては、卵巣凍結や卵子提供を利用することで妊娠が可能となる場合もあります。
成長ホルモン療法
低身長に対しては成長ホルモンの補充療法を行われます。
定期的な通院は必要ですが、自宅で成長ホルモンの自己注射が可能であり、毎日実施します。
身長の伸びには個人差がありますが、治療を行なわなかった場合の平均身長は約139cmであるのに対し、治療を受けた場合の平均身長は約147㎝と、8cmの差が生じます。
成長ホルモン療法は治療費が高額ですが、ターナー症候群は小児慢性特定疾病に指定されているため医療費助成を受けることができます。
なお、成長ホルモンによる治療は身長が145.4cmに達した時点で終了となります。
その後も自費で治療を継続することはできますが、小児慢性特定疾病の医療費助成は適用されなくなります。
【参考】
小児慢性特定疾病における成長ホルモン治療の認定について(外部サイトへ移動します)
女性ホルモン補充療法
卵巣機能不全に対しては、女性ホルモン補充療法が行われます。
女性ホルモンには「エストロゲン(卵胞ホルモン)」と「プロゲステロン(黄体ホルモン)」の2種類があります。
エストロゲンは、乳腺や子宮の発育を促し、女性らしい体の形成に関与します。
プロゲステロンは、子宮内膜を整え、妊娠しやすい状態を維持します。
これらのホルモンの作用により、生理を含むさまざまな変化が女性の体に生じます。
女性ホルモン補充療法により、二次性徴を促すとともに、生理周期を整える効果も期待できます。
不妊治療
ターナー症候群の多くの人は、自然妊娠が難しいとされています。
まれに排卵がある場合は、将来に備えて卵子を採取し、凍結保存する方法があります。
一般的に、女性は50歳前後で閉経を迎えますが、ターナー症候群の人は早ければ10代で閉経し、排卵がなくなることがあります。
強く子どもを望む場合、第三者から卵子提供を受け、体外受精を行う方法も選択肢の一つです。
卵子提供を受ける場合は海外での治療が必要となることが多く、費用も高額になります。
どうやって分かるのか?検査方法
妊娠中に行われる出生前診断でターナー症候群だと判明することもありますが、多くの場合、生後しばらく経ってから疑われます。
診断には、血液検査による染色体分析が行われます。
出生前診断

妊婦健診のエコー検査などで、「通常より手足が短い」などの異常が指摘され、詳しい検査が行われることがあります。
また、ダウン症などの染色体異常を調べる目的で出生前診断を受けた際に、偶然ターナー症候群が判明することもあります。
新型出生前診断(NIPT)を実施している一部の医療機関では、ターナー症候群も検査対象に含まれています。
これは非確定検査で、「ターナー症候群の可能性があるかどうか」が分かります。
本当にターナー症候群かどうか?を調べるためには、羊水検査(確定診断)が必要です。
なお、出生前診断でターナー症候群だと判明しても、生まれた後の症状の程度は予測できません。
生まれた後の検査
出生後、首の両側が太くみえたり、手足のむくみがある場合などにターナー症候群が疑われることがあります。
ターナー症候群は後天的に発症することはありません。
しかし、出生時には特に目立った特徴がなく、思春期に二次性徴が現れない、身長が低いままであるなどの症状をきっかけに診断されることが多いです。
いずれの場合も、血液検査による染色体分析で診断されます。
遺伝カウンセリング
出生前診断でダウン症などの染色体異常が判明した場合、中絶を選択する人が多いことについては議論が続いていますが、ターナー症候群は生命に関わる重篤な症状を伴うことは少なく、多くの人が通常の生活を送っています。
ただし、生まれつき心臓やその他の臓器に異常が見られる可能性があるため、専門の医師による診察や適切な医療体制の準備が重要です。
全国にターナー症候群の家族会がありますので、今後想定される課題や日常生活で気を付けるべきことについて情報を得ることができます。
早めにターナー症候群と診断されることで、生まれた後に利用できる医療制度や福祉制度などのサポートを事前に調べ、適切な準備を整えることができます。
とはいえ、お腹の赤ちゃんがターナー症候群と診断された場合、不安を感じることもあるでしょう。
まずは、専門家による遺伝カウンセリングを受け、現状を正しく理解した上で、パートナーと十分に話し合い、自分たちにとって最適な選択を考えることが大切です。
遺伝カウンセリングについてはこちらもご参考にしてください。
ターナー症候群のサポート体制
成長ホルモン療法は、自費負担の場合、医療費が高額になります。
また、手術や通院など、治療に伴う費用が何かとかかります。
ターナー症候群は、小児慢性特定疾病に指定されており、一定の条件を満たせば医療費助成を受けることができます。
小児医療費助成制度や高額療養費制度など、医療費の負担を軽減する制度も利用できます。
就学・就労
就学については学業に大きな問題はなく、多くの人が一般の学校に通っています。
同級生と比べて身体が小さく、体育や算数が苦手な傾向がありますが、誰しも得意・不得意があります。得意な分野を伸ばしてあげると良いでしょう。
就労においても大きな制限はなく、一般の人と同様に社会生活を送ることができます。
また、自身の体験を活かし、看護や医療関連の分野に進む人も少なくありません。
関係団体
ターナー症候群は、ある程度成長してから診断されることも多く、本人への伝え方が重要な課題となります。
全国各地に患者家族会があり、まずは情報を得るために相談してみるのもよいでしょう。
まとめ

ターナー症候群は2,000~2,500人に1人の割合で発生し、決して珍しい疾患ではありません。
低身長や卵巣機能の低下以外は一般の人と変わらず、多くの人が進学や就職をし、通常の生活を送ることができます。
自然妊娠は難しいことが多いですが、ホルモン補充療法を行うことで二次性徴を促し、生理周期を整える効果が期待できます。
身長に関しても、成長ホルモン療法を行うことで平均身長147cm程度まで伸ばすことができます。
そのほか目や耳のトラブルが起こりやすいなど合併症の存在はありますが、人は誰でも交通事故や病気など常にトラブルと隣り合わせの状態で生きています。
小麦や卵のアレルギーがある人も工夫しながら付き合って生きています。
出生前診断でターナー症候群と診断されると、どのような疾患か分からず不安に感じることもあるでしょう。
しかし、一人で抱え込まずに、遺伝カウンセラーや家族会などの支援団体に相談することが大切です。
NIPT JapanのNIPTでは胎児のターナー症候群の可能性について調べることができます。
【参考】