
「ターナー症候群」について、身近な方にいなければ、聞いたことがない・知らないという人が多いかもしれません。
出生前診断や生まれてからの健診で、お子さんがターナー症候群と診断されると誰しも不安でいっぱいになります。
ターナー症候群の症状には個人差がありますが、適切に治療を行えば生命を脅かすような重篤な症状があるわけではありません。
ここではターナー症候群について、どのような体質なのか?遺伝するのか?といった内容も含めて基本的な情報をご紹介いたします。
ターナー症候群(モノソミーX)とは
ターナー症候群とは、モノソミーX、またはXモノソミーともいい、男女の性別を決める性染色体の異常によって起こります。
ターナー症候群は女性特有の疾患で、身長が低いこと、性発達の遅れが特徴です。
「ターナー症候群」という呼び方をしますが、適切に治療を行えば命に関わるような重篤な症状があるわけではなく病気と一概に言えず、アレルギーなどと同じように「生まれつきの体質」とされています。
(本コラムでは便宜上「疾患」と記載します)
病気・障害というイメージが先行してしまわないよう「ターナー女性」と呼ぶことが増えています。
ターナー症候群の原因

ターナー症候群は性染色体異常の一つです。
染色体とは、遺伝子を含むDNAが、折り重なってできたものです。
ヒトの体細胞には46本の染色体があります。
そのうちの44本はペアとなって22対の「常染色体」とよばれ、
あとの2本は男女の性別を決める「性染色体」といいます。
ヒトの性染色体には「X染色体」と「Y染色体」があり、両親から染色体を受け継ぐときに、お母さんから「X染色体」、お父さんからは「X染色体もしくはY染色体のどちらか」をもらいます。
「XX」の組み合わせで女性、「XY」の組み合わせで男性になります。
ターナー症候群は、この両親から染色体を受け継ぐ過程がうまくいかず、「XX」のうち1本の全体または一部が欠失しています。
この現象はほとんどの場合たまたま起こり、どんな人にも起こりうることです。
染色体についてはコラム「染色体とは?基本から解説!」もご参考にしてください。
ターナー症候群の症状
ターナー症候群の症状として、以下のものが挙げられます。
- 低身長
- 思春期以降の月経などの二次性徴が現れない
- 不妊
- 心臓や腎臓の奇形
- 難聴や視力の問題
- 自己免疫疾患
すべての症状があるわけではなく、また個人差が大きいため、生まれてしばらくはそれと気づかず、思春期の遅れで初めてターナー症候群が疑われる場合もあります。
基本的に知的障害はありません。
症状の程度は個人差が極めて大きく、ほとんどの方は不妊ですが稀ですが赤ちゃんを授かる方もいます。
ターナー症候群の見た目の特徴

ほぼすべてのターナー症候群の人が低身長です。
成人で比較すると
日本人女性の平均身長が約158mに対して
ターナー症候群の人は約139cm
成長ホルモン療法を受けたターナー症候群の人は約147cmです。
首の両側の皮膚が余っており首が太く見える「翼状頸(よくじょうけい)」と、腕の肘から先が外側を向いている「外反肘(がいはんちゅう)」が有名な特徴です。
耳が変形していたり後ろ向きに回転していることが約80%
うなじの髪の生え際が低いことが約80%
下あごが小さいことが約80%
口の中の天井が高いことが約40%にみられます。
その他に、
乳幼児期に手足の甲のむくみ(リンパ浮腫)がよくみられます。
胸の幅が広いことが約80%
爪が小さくて柔らかく、上向きなことが約70%
指が少し短いことが約50%
ほくろが多いことが約50%にみられます。
ターナー症候群の合併症
ターナー症候群にはさまざまな合併症があります。
卵巣の機能が弱い「卵巣機能不全」はほぼすべてのターナー症候群の人にあり、性的発達がなかったり遅れたりします。
中耳炎になりやすく、繰り返すことで難聴がみられます。
女性ホルモンの分泌が少ないことによって骨密度が低下し骨粗しょう症になりやすいため注意が必要です。
心臓や腎臓の異常がよくみられます。
甲状腺の機能障害がときどきみられます。
自己免疫疾患の発症率が一般の人より高めです。
ターナー症候群の発達・予後
上記のように様々な合併症がありますが、ターナー症候群の多くの方は一般の方と同じように日常生活を送っています。
子どもの頃から低身長ですが、治療をしなければ成人女性で比較すると平均身長より20cm程度小柄です。
月経異常・不妊
一般的な女性は10~12歳頃から生理が始まったり胸がふくらんだりと「二次性徴」がありますが、それが多くの場合現れません。
卵子の発育がみられず(性腺形成不全)、約90%が不妊症になります。
生理がなかなかこずに受診した人のうち、特定できた中でもっと多い原因はターナー症候群(26.4%)だったというデータもあります。
肥満や高血圧になりやすく、糖尿病や動脈硬化に注意が必要です。
空間認識が不得意で算数が苦手、体育が苦手という子が多いようです。
知的障害はまれですが、注意欠如・多動症や学習障害がみられることがあります。
ターナー症候群の子が生まれる確率
ターナー症候群は胎児の段階で流産してしまう確率が非常に高いことが知られています。
生まれてくる女の子の赤ちゃんのうち、約2,500人に1人の確率でターナー症候群であるとされ、染色体疾患の中では比較的よくみられるものの一つです。
高齢出産とターナー症候群の関係
ダウン症などの染色体異常は、お母さんの年齢が上がるほどその発生頻度は高くなりますが、ターナー症候群は母親の年齢依存性はなく、どの年齢でも一定の割合で発生すると言われています。
ターナー症候群の寿命
ターナー症候群だからといって特別に寿命が短いわけではなく、合併症に対する適切な治療を行っていれば一般の人と同じです。
ターナー症候群は遺伝するのか?
染色体異常と聞くと、遺伝するのではと思われるかもしれませんが、そのほとんどは遺伝ではなく偶然に起こります。
ターナー症候群も両親や環境のせいではなく、誰にでも起こりうると言われています。
先に生まれたきょうだいがターナー症候群だからと言って、次に生まれる子に影響はほとんどの場合ありません。
ターナー症候群の検査・診断
生まれる前の出生前診断でターナー症候群だと発覚する場合もありますが、多くは生まれた後、ある程度成長してからその疑いが持たれます。
診断には血液検査により染色体の分析を行います。
ターナー症候群の検査:出生前診断

エコー検査などの妊婦健診の際に、「通常より手足が短い」など異常を指摘され、何らかの疾患を疑い詳しく調べる場合があります。
また、ダウン症などの染色体異常を調べるために受けた出生前診断で、思わず発覚することがあります。
新型出生前診断(NIPT)を行っている一部の機関では、ターナー症候群も検査対象に含まれます。
これは非確定検査で、「ターナー症候群の可能性があるかどうか」が分かります。
本当にターナー症候群かどうか?を調べるためには、羊水検査を受けます。
出生前診断については、「出生前診断とは」のページもご参考にしてください。
ターナー症候群の検査:出生後の検査
出生後に、首の両側が太くみえたり手足のむくみなどからターナー症候群が疑われることがあります。
後天的になることはありませんが、出生時には何ら一般の人と変わらずそれと分からず過ごし、思春期になって二次性徴が現れない、身長が低いままといったことから初めてターナー症候群が疑われます。
どちらの場合も血液検査により診断します。
出生前の検査でターナー症候群と分かったら?
出生前診断でダウン症などの染色体異常が発覚した場合、中絶を選択する人が多いことについて議論がつきませんが、ターナー症候群は生きていくうえで重篤な症状があるわけではなく、多くの人は普通の生活を送っています。
ですが、生まれつき心臓やその他臓器に異常がある可能性があるので、専門のお医者さんを探す必要があります。
ターナー症候群の家族会が全国にありますので、これからどのような問題が起こる可能性があり、どのようなことに気を付けたらよいのか、お話を聞くのも良いと思います。
早めにターナー症候群だと分かれば、生まれた後に受けられる医療制度や福祉制度など様々なサポートを調べ万全の体制で備えることができます。
とはいっても、お腹の赤ちゃんがターナー症候群だと分かった場合、少なからず不安を抱くことと思います。
まずは専門家による遺伝カウンセリングを受けて、現状の理解と、あなたとあなたのパートナーとでしっかり話し合うことが大切です。
遺伝カウンセリングについてはこちらもご参考にしてください。
ターナー症候群の治療・療育
ターナー症候群そのものに対する根治的な治療法はありませんが、適切な医学的ケアを行うことで一般の人と変わらない生活を行うことができます。
合併症については定期的な検査により、早期発見・早期治療に努めます。
低身長に対しては成長ホルモンの補充療法を行います。
卵巣機能不全に対しては、女性ホルモンの補充療法を行います。
不妊に対する有効な治療法は今のところありません。
「性腺」という、卵巣になる細胞にがんができる可能性があるため、予防として取り除く手術を行います。
肥満や糖尿病などの生活習慣病に対しては、食事指導や運動療法を行います。
外反肘の場合、手術を行い、肘にある神経が周辺の骨に圧迫されないようにします。
ターナー症候群のサポート体制
成長ホルモン療法は、自費の場合高額な医療費がかかります。
また、場合によっては手術、通院など何かとお金がかかります。
ターナー症候群は小児慢性特定疾病に指定されているため、一定の条件はありますが、医療費の助成が受けられます。
小児医療費助成制度や高額医療費支給制度などの医療費補助もあります。
就学・就労
就学については学業に大きな問題はなく、普通の学校に通っています。
同級生と比べて身体が小さく、体育や算数が苦手という子が多いようですが、誰しも得意・不得意があります。
就労についても同様で、一般の人と変わりなく社会生活を送っています。
自身の体質や経験から、看護などの医療系に進む人も多くいるようです。
関係団体
ある程度成長してからターナー症候群だと発覚することも多く、本人にどのように伝えるかは大きな課題です。
患者家族会が全国各地にありますので、まずは話を聞いてみるだけでもよいでしょう。
まとめ

ターナー症候群は約2,500人に1人の確率で起こり、けっして珍しくはありません。
2019年の女児出生数は421,809人だった(厚生労働省HPより)ことより、単純計算で毎年約169人のターナー女性が生まれ、生活されています。
生まれる前にターナー症候群だと分かると、どんな疾患か分からず不安になるでしょうが、基本的には身体が小さく、子どもができにくいこと以外は一般の方と変わりません。
まずは一人で抱え込まずに遺伝カウンセラーや、家族会の方などに相談してみるのがよいでしょう。
参考:ターナー症候群/東京医科大学(外部サイトへ移動します)
2021年4月19日 一部修正