統計情報を理解しましょう
統計を理解することには、少し困難が伴うことがあります。
数学が苦手だった…とか、数字を見るだけで蕁麻疹が…とか。
残念ながら、NIPTの検査結果を理解するためには、少しだけ統計に精通している必要があります。
といっても、統計の全てを理解する必要はありません。
基本的なことだけ理解しておけば良いでしょう。
最後までお付き合いください。この情報は非常に大切ですので。
出生前遺伝学、特にNIPTで重要な統計用語の1つに、正の予測値(PPV)があります。
正の予測値(PPV)は、次の質問に回答することができます。
- 検査結果が「ハイリスク」または「陽性」だった場合、私と全く同じ立場(同じ年齢、バックグラウンド・リスクなど)の誰かが、検査で陽性となった通りに疾患の赤ちゃんを産む可能性はどのくらいですか?
- 言い換えれば、私の陽性の検査結果が真、または、実際の陽性である可能性は?
正の予測値(PPV)の計算に使用される計算式は、次のとおりです。
感度 ✕ 有病率 / [ 感度 ✕ 有病率 +(1 -特異性)✕(1 -有病率)]
ではこれらの用語をすべて分解してみましょう。
感度
感度は、正しく特定された疾患の乳児の割合を測定します。
たとえば、100人の赤ちゃんにダウン症候群があり、テストで60人の赤ちゃんが検出された場合、テストではダウン症候群の感度が60%になります。
- 具体的には、ダウン症候群の場合、ほとんどの検査機関で99%を超える感度があるとされています。
これは、テストを受けるほとんどの人にとって、赤ちゃんがダウン症候群である場合、テストが「陽性」または「ハイリスク」となる可能性が99%以上あることを意味します。
検査機関が99%を超える感度があると言っても、「陽性」または「ハイリスク」の結果を受け取ったとしても、赤ちゃんがその疾患である可能性が99%あるという意味ではありません。(ここがポイントです)
特異度
特異度は、正しく特定された疾患のない赤ちゃんの割合を測定します。
たとえば、染色体疾患のない100人の赤ちゃんに対してテストが行われ、80人が「正常」、「陰性」、または「低リスク」の結果が出た場合、テストの特異度は80%になります。これは、赤ちゃんの20%が偽陽性の結果を持つことを意味します。
つまり、結果は「陽性」または「ハイリスク」でしたが、実際にはその疾患ではありません。
- 具体的には、ダウン症候群の場合、ほとんどの研究室では99%を超える特異性を示しています。
これは、妊娠にダウン症候群がない場合、テストが「陰性」または「低リスク」に戻る可能性が99%を超えることを意味します。
有病率
有病率は、選択した母集団でその疾患がどの程度一般的であるかを示す数値です。
たとえば、ダウン症などの染色体疾患は、女性が年をとるにつれて頻繁に発生する傾向があります。
25歳の女性がダウン症の赤ちゃんを持つ可能性は約1250分の1です。
30歳の女性がダウン症の赤ちゃんを持つ可能性は約840分の1です。
35歳の女性は356分の1の確率でダウン症の赤ちゃんが生まれます。
この内容を踏まえて、NIPTの検査で上記の25歳、30歳、35歳の患者のPPVを計算してみましょう。
ほとんどのNIPT検査機関は、感度と特異度が約99.9%であると報告しています。
それでは、その感度と特異度を99.9%として計算してみることにしましょう。
25歳:NIPTの結果が陽性で、実際にダウン症である確率は?
感度(0.999)✕有病率(1/1041 = 0.00096061)/【感度(0.999)✕有病率(0.00096061)+ [1 –特異度(0.999)] [1 –有病率(0.00096061)]】
それでは、少しずつ計算してみることにしましょう:
0.999 X 0.00096061 / [0.999 X 0.00096061 +(1 – 0.999)(1 – 0.00096061)]
0.999 X 0.00096061 / [0.999 X 0.00096061 +(0.001)(0.99903939)]
0.999 X 0.00096061 / (0.999 X 0.00096061 + 0.00099904)
0.999 X 0.00096061 / (0.00095965 + 0.0009904)
0.00095965 / (0.00095965 + 0.0009904)
0.00095965 / 0.00195005
0.492
したがって、25歳の女性がダウン症候群のNIPTの検査結果が「陽性」または「ハイリスク」である場合、お腹の赤ちゃんが実際にダウン症候群である可能性は49.2%しかありません。
30歳:NIPTの結果が陽性で、実際にダウン症である確率は?
(0.999)X(1/701 = 0.00142653)/[(0.999)X(0.00142653)+(1 – 0.999)(1 – 0.00142653)]
0.999 X 0.00142653 / [0.999 X 0.00142653 +(0.001)(0.99857347)]
0.999 X 0.00142653 / (0.999 X 0.00142653 + 0.00099857)
0.999 X 0.00142653 / (0.0014251 + 0.00099857)
0.0014251 /( 0.0014251 + 0.00099857)
0.0014251 / 0.00242367
0.588
したがって、30歳の女性がダウン症候群のNIPT結果が「陽性」または「ハイリスク」である場合、彼女の妊娠が実際にダウン症候群である確率は58.8%しかありません。
35歳:NIPTの結果が陽性で、実際にダウン症である確率は?
(0.999)X(1/297 = 0.003367)/[(0.999)X(0.003367)+(1 – 0.999)(1 – 0.003367)]
0.999 X 0.003367 /[ 0.999 X 0.003367 +(0.001)(0.996633)]
0.999 X 0.003367 / (0.999 X 0.003367 + 0.000996633)
0.999 X 0.003367 /( 0.003363633 + 0.000996633)
0.003363633 / (0.003363633 + 0.000996633)
0.003363633 / 0.004360266
0.771
したがって、35歳の女性がダウン症候群のcfDNAの結果が「陽性」または「ハイリスク」である場合、彼女の妊娠が実際にダウン症候群である可能性は77.1%しかありません。
***これらは、仮説的な感度と特異度を使用した単なる例です。
これらの計算が示すように、母親の年齢とともに疾患の可能性(有病率)が増加すると、PPVも増加します。
疾患が希であるほど、PPVは低くなります(非常に高い感度と感度にもかかわらず)。
この事を知っているだけでも違った対応ができると思います。
臨床成績
NIPT JapanのNIPTは、ベリナタ・ヘルス社のNIPTの「Verifi™」と「Verifi™ Plus」を使い検査を行っています。
ベリナタ・ヘルス社が公表しているNIPTの「Verifi™ Plus」の臨床成績の数値は次のとおりです。
染色体 | N | 感度 | 95% CI | 特異度 | 95% CI |
21 | 500 | 99.9% (90/90) | 96.0%–100.0% | 99.8% (409/410) | 98.7%–100.0% |
18 | 501 | 97.4% (37/38) | 86.2%–99.9% | 99.6% (461/463) | 98.5%–100.0% |
13 | 501 | 87.5% (14/16) | 61.7%–98.5% | 99.9% (485/485) | 99.2%–100.0% |