統計情報を理解しましょう
新型出生前診断(NIPT)の検査精度は感度と特異度で表されます。
学生の頃習った気がするけどなんだっけ。。。という方も多いのではないでしょうか。
統計を理解することには、少し困難が伴うことがあります。
数学が苦手だった…とか、数字を見るだけで蕁麻疹が…とか。
残念ながら、NIPTの検査結果を理解するためには、少しだけ統計に精通している必要があります。
といっても、統計の全てを理解する必要はありません。
基本的なことだけ理解しておけば良いでしょう。
できることなら最後までお付き合いください。この情報は非常に大切ですので。
でも、要点だけ教えてほしいということであれば、次の点をしっかりと理解していただきたいのです。
それは、
母親の年齢とともに疾患の可能性(有病率)が増加すると、正の予測値(PPV)も増加し、疾患が希であるほど、PPVは低くなる。(非常に高い感度にもかかわらず)。
この事を知っているだけでも違った対応ができると思います。
それでは、順を追ってできるだけわかりやすく説明したいと思います。
出生前遺伝学、特にNIPTで重要な統計用語の1つに、正の予測値(PPV)があります。
正の予測値(PPV)は、次の質問に回答することができます。
- 検査結果が「ハイリスク」または「陽性」だった場合、私と全く同じ立場(同じ年齢、バックグラウンド・リスクなど)の誰かが、検査で陽性となった通りに疾患の赤ちゃんを産む可能性はどのくらいですか?
- 言い換えれば、私の陽性の検査結果が真、または、実際の陽性である可能性は?
正の予測値(PPV)の計算に使用される計算式は、次のとおりです。
感度 ✕ 有病率 / [ 感度 ✕ 有病率 +(1 -特異性)✕(1 -有病率)]
では、これらの用語をすべて分解してみることにしましょう。
感度
感度は、正しく特定された疾患の乳児の割合のことです。
たとえば、100人の赤ちゃんにダウン症候群(ダウン症または21トリソミー)があり、検査で60人の赤ちゃんが検出された場合、その検査ではダウン症の感度が60%になります。
- 具体的には、ダウン症の場合、ほとんどの検査機関で99%を超える感度があるとされています。
これは、検査を受けるほとんどの人にとって、赤ちゃんがダウン症である場合、検査が「陽性」または「ハイリスク」となる可能性が99%以上あることを意味します。
検査機関が99%を超える感度があると明示し、「陽性」または「ハイリスク」の結果を受け取ったとしても、
赤ちゃんがその疾患である可能性が99%あるという意味ではありません。
(ここがポイントです)
特異度
特異度は、正しく特定された疾患の無い赤ちゃんの割合を測定します。
たとえば、染色体疾患のない100人の赤ちゃんに対して検査が行われ、80人が「正常」、「陰性」、または「低リスク」の結果が出た場合、検査の特異度は80%になります。
これは、赤ちゃんの20%が偽陽性の結果を持つことを意味します。
つまり、結果は「陽性」または「ハイリスク」でしたが、実際にはその疾患ではありません。
ダウン症の場合、ほとんどの検査機関では99%を超える特異度を示しています。
これは、検査結果がダウン症が無かった場合、テストが「陰性」または「低リスク」である可能性が99%を超えることを意味します。
有病率
有病率は、選択した母集団でその疾患がどの程度一般的であるかを示す数値です。
たとえば、ダウン症などの染色体疾患は、女性の高齢化につれて頻繁に発生する傾向があります。
25歳の妊婦の場合、ダウン症の赤ちゃんを出産する可能性は約1250分の1です。
30歳の妊婦の場合、ダウン症の赤ちゃんを出産する可能性は約840分の1です。
35歳の妊婦の場合、ダウン症の赤ちゃんを出産する可能性は約356分の1となります。
この内容を踏まえて、NIPTの検査で上記の25歳、30歳、35歳の患者の正の予測値(PPV)を計算してみましょう。
ほとんどのNIPT検査機関は、感度と特異度が約99.9%であると報告しています。
それでは、ここでは感度と特異度を99.9%として計算してみることにしましょう。
25歳:NIPTの結果が陽性で、実際にダウン症である確率は?
感度(0.999)✕有病率(1/1250 = 0.0008)/【感度(0.999)✕有病率(0.0008)+ [1 –特異度(0.999)] [1 –有病率(0.0008)]】
: 0.999 X 0.0008 / [0.999 X 0.0008 +(1 – 0.999)(1 – 0.0008)]
0.4444
このような結果が出ました。
したがって、
25歳の女性がダウン症候群のNIPTの検査結果が「陽性」または「ハイリスク」である場合、お腹の赤ちゃんが実際にダウン症候群である可能性は44.44%しかありません。
30歳:NIPTの結果が陽性で、実際にダウン症である確率は?
(0.999)X(1/840 = 0.001190476)/[(0.999)X(0.001190476)+(1 – 0.999)(1 – 0.001190476)]
0.5435
したがって、
30歳の女性がダウン症候群のNIPT結果が「陽性」または「ハイリスク」である場合、彼女の妊娠が実際にダウン症候群である確率は54.35%しかありません。
35歳:NIPTの結果が陽性で、実際にダウン症である確率は?
(0.999)X(1/356 = 0.002808988)/[(0.999)X(0.002808988)+(1 – 0.999)(1 – 0.002808988)]
0.7378
したがって、
35歳の女性がダウン症候群のcfDNAの結果が「陽性」または「ハイリスク」である場合、彼女の妊娠が実際にダウン症候群である可能性は73.78%しかありません。
***これらは、仮説的な感度と特異度を使用した単なる例です。
これらの計算が示すように、母親の年齢とともに疾患の可能性(有病率)が増加すると、PPVも増加します。
疾患が希であるほど、PPVは低くなります(非常に高い感度と感度にもかかわらず)。
この事を知っているだけでも違った対応ができると思います。
今回はダウン症の発生率をもとにPPVを計算してみましたが、どのような疾患であっても、発生率のデータが有れば同じように計算をすることができます。
また、同じ疾患であったとしても、発生率のデータが異なっているものを使うと、PPVは異なる結果となります。
この点もしっかりと踏まえた上で、検査結果を理解する必要があるといえます。
自分の年齢のダウン症の発症率を知りたい場合、コラム「ダウン症(21トリソミー)はいつわかる?」のダウン症の子が生まれる確率のグラフが参考になります。
臨床成績
NIPT JapanのNIPTは、ベリナタ・ヘルス社のNIPTの「Verifi™」と「Verifi™ Plus」を使い検査を行っています。
ベリナタ・ヘルス社が公表しているNIPTの「Verifi™ Plus」の臨床成績の数値は次のとおりです。
ご参考にしてください。
染色体 | N | 感度 | 95% CI | 特異度 | 95% CI |
21 | 500 | 99.9% (90/90) | 96.0%–100.0% | 99.8% (409/410) | 98.7%–100.0% |
18 | 501 | 97.4% (37/38) | 86.2%–99.9% | 99.6% (461/463) | 98.5%–100.0% |
13 | 501 | 87.5% (14/16) | 61.7%–98.5% | 99.9% (485/485) | 99.2%–100.0% |
NIPT JapanのNIPTについてはこちらをご参考にしてください。