出生前診断を受けることによって、赤ちゃんが対象の先天性疾患を持っている可能性の有無を知ることができます。
この出生前診断で行われる検査で陽性が出た場合、どうしたらよいのか悩む人も少なくありません。
しかし、非確定的検査の場合は陽性となっても、先天性疾患が実際には胎児に存在しない「偽陽性」というケースがまれにあり、反対に検査の結果は陰性でも実際には対象の疾患がある「偽陰性」というケースもあります。
どうしてこのようなことが起こるのでしょうか?
ここでは出生前診断の検査精度についてご説明します。
出生前診断の精度
出生前診断には、胎児の持つ先天性疾患の可能性が分かる「非確定的検査」と、先天性疾患の有無に確実に診断がつく「確定的検査」とに分類され、それぞれの検査で精度が異なります。
ここでは、ダウン症候群に対する検査精度の例としてそれぞれの検査の「感度」(後でご説明します)を見てみましょう。
【出生前診断の種類と感度】
検査名 | 感度 | |
---|---|---|
非確定的検査 | コンバインド検査 | 82-87% |
母体血清マーカー検査 | 69%(トリプルテスト) 81%(クアトロテスト) | |
NIPT (新型出生前診断) | 99% | |
確定的検査 | 羊水検査 | ほぼ100% |
絨毛検査 | ほぼ100% |
確定診断の感度はほぼ100%となっており、検査結果がそのまま先天性疾患の有無として確定します。
非確定的検査のうち、超音波検査と母体血清マーカー検査を組み合わせたコンバインド検査では感度82~87%、母体血清マーカーは用いる血清マーカーの数によって69~81%程度ですが、これらは偽陽性率が5%以上あり、陽性的中率は高いとはいえません。
「NIPT」(新型出生前診断)に関しては、感度は99%とほぼ100%に近い数値となっています。
そのため、NIPTは非確定的検査の中では感度が高く、確定的検査のような母体への侵襲も少なく安全に実施できる検査であると言えます。
検査精度を正しく知るための4つの指標
出生前診断の検査精度は、感度を含めて4つの指標で表されます。
- 感度
- 特異度
- 陽性的中率
- 陰性的中率
非確定的検査においては、検査結果が疾患の有無を必ずしも意味するものではありません。
そのため、出生前診断の検査において、検査結果の信頼性の高さを理解するために4つの指標から検査の精度を知ることができます。
感度
感度とは、疾患を持つ人を正しく陽性と識別できる検査の能力のことです。
たとえば、疾患を持つ10人がその疾患の有無を調べる検査を受けると、本来なら10人すべてが陽性結果になるはずです。
しかし、感度が90%の検査では9人が陽性となり、1人が陰性という結果になってしまいます。
この場合、陰性だった1人は「偽陰性」であることがわかります。
感度が高い検査では見逃しが少ないため、検査の精度が高いことになります。
感度が高い検査であるほど偽陰性が低く、陰性判定だった場合の「疾患がある可能性」は低いのです。
特異度
特異度とは、疾患のない人を正しく陰性と識別できる検査の能力のことです。
たとえば、疾患を持たない健康な10人が検査を受けると、本来なら10人すべてが陰性結果になるはずです。
しかし、特異度が90%の検査では9人が陰性となり、1人が陽性という結果になってしまいます。
この場合、陽性だった1人は「偽陽性」であることがわかります。
特異度が高い検査であるほど検査の精度は高いことになり、間違った判定をされてしまうことが少なくなります。
また、特異度が高い検査であるほど偽陽性が少なく、陽性判定だった場合の「疾患がある可能性」は高いのです。
陽性的中率
陽性的中率とは、検査で陽性となった人の中で、実際に疾患がある割合です。
たとえば、陽性的中率が90%である場合には、検査で陽性と判定された人が10人いた場合に90%の9人は実際に陽性で、1人は陰性だったことになります。
感度との違いが分かりづらく混同されることがありますが、違いは以下の通りです。
- 感度:分母となるのが、疾患を持つ人
- 陽性的中率:分母となるのが、検査で陽性となった人
検査の陽性的中率が高ければ、陽性と判定された場合にその疾患がある可能性が高いといえます。
陰性的中率
陰性的中率とは、検査で陰性となった人の中で、実際に疾患がない割合です。
たとえば、陰性的中率が90%である場合には、検査で陰性と判定された人が10人いた場合に90%の9人は実際に陰性で、1人は陽性だったことになります。
特異度との違いは、陽性的中率と感度の関係性と同様に、以下のような違いがあります。
- 特異度:分母となるのが、疾患を持たない人
- 陰性的中率:分母となるのが、検査で陰性の人
陰性的中率が高い検査であれば、陰性の場合は疾患がなく正常である可能性が高いと捉えることができます。
出生前診断で「陽性」と判定された場合
出生前診断で「陽性」と判断された場合、検査が非確定的検査であるか、確定的検査であるかによって捉え方が変わります。
確定的検査である羊水検査や絨毛検査の結果が陽性だった場合は、胎児に染色体疾患があることが確定となります。
しかし、非確定的検査の場合、疾患を有している可能性が高いという判定にとどまります。
そのため、本当に胎児に染色体疾患があるかどうかを調べるためには、羊水検査や絨毛検査などの確定的検査を実施する必要があります。
非確定的検査のなかでもNIPTの陽性的中率はダウン症では約99%(対象の疾患や検査会社により異なります)で、陽性という結果が出れば胎児に先天性疾患がある確率が非常に高いと捉えることができます。
一方で陽性的中率が低い非確定的検査の場合には、検査で陽性という結果が出たにもかかわらず、実際には胎児に先天性疾患がない可能性が高くなります。
そのため、陽性が出たとしても偽陽性である可能性もあることになるのです。
出生前診断にはさまざまな検査がありますが、流産のリスクなども考慮しながら、感度や特異度のほか、陽性的中率の高い検査を選ぶことも大切です。
また、実際に確定的検査で陽性と出た場合に、どのように結果を受け止めて今後について決定していくのかを、パートナーと共に考える必要があります。
そのためには出生前診断を受ける前に遺伝カウンセリングを受けておき、検査や治療などへの理解と疑問や問題などを解決しておくことが重要です。
出生前診断で「陰性」と判定された場合
羊水検査や絨毛検査などの確定的検査で陰性が出れば、胎児にそれらの検査で調べることができる先天性疾患はないと判定されます。
非確定的検査であるNIPTで陰性という結果が出た場合、陰性的中率は99.9%以上なので、胎児が先天性疾患を持つ確率が低いと捉えてよいでしょう。
NIPTは他の非確定的検査と比較しても陰性的中率が非常に高いです。
なお、これは胎児に「先天性の疾患がない」ということではなく、あくまで「調べられる疾患について」ということですので、誤解しないよう注意が必要です。
陰性的中率が低い検査の場合は、結果が陰性であったとしても胎児が先天性疾患を持っている可能性がありますのでこちらも注意が必要です。
まとめ
出生前診断では、感度・特異度・陽性的中率・陰性的中率という4つの指標が分かると理解がスムーズです。
これらの指標の見方とそれぞれの関連を理解したうえで、検査結果を受け止めることが大切です。