広い意味において、出生前診断を受ける妊婦の割合は、100%です。
妊婦が何らかの検査を受けるということは、出生前診断を受けていると言えます。
出生前診断の目的や種類については「出生前診断とは」のページをご覧ください。
例えばエコー検査ですが、これも広い意味では出生前診断です。
エコー検査では、胎児の発育や臓器の状況や胎児のNTの厚みを見ています。
胎児のNTの厚みが通常よりも厚い場合は、ダウン症などの疾患が疑われます。
その時、医者から「もう少し詳しい検査をしてみますか?」と言われるのです。
その「もう少し詳しい検査」が、染色体異常などを調べる「狭義の出生前診断」です。
女性の社会進出に伴い晩婚の傾向が強くなっています。
それに伴い、35歳以上で子どもを出産するいわゆる高齢出産の割合が増えています。
一般的に、高齢出産では、病気を持った子どもが生まれる可能性が高くなることが知られています。
次の図は、「女性の年齢と子供の染色体異常の頻度」のデータをグラフにしたものです。
高齢になればなるほど、子供の染色体異常の頻度が高くなることがわかります。

Hook EB. (1981). Rates of chromosome abnormalities at different maternal ages. Obstet Gynecol , 58, 282-5. PMID: 6455611
Hook EB, Cross PK & Schreinemachers DM. (1983). Chromosomal abnormality rates at amniocentesis & in live-born infants. JAMA , 249, 2034-8. PMID: 6220164 Schreinemachers DM, Cross PK & Hook EB. (1982). Rates of trisomies 21, 18, 13 & other chromosome abnormalities in about 20 000 prenatal studies compared with estimated rates in live births. Hum. Genet. , 61, 318-24. PMID: 6891368
子供の出生数は減少傾向のままですが、染色体疾患の検査を行う出生前診断を受ける妊婦の割合は増加傾向を示しています。
出典:毎日新聞「出生前診断、10年で2.4倍 35歳以上で25% 16年7万件」
どのくらいの妊婦さんが出生前診断を受けているの?
今回は日本における出生前診断の受検状況を、海外との比較をふまえてご紹介します。
日本における出生前診断の受検状況について
1998年から2016年までを調査した佐々木らの報告(*1)によると、我が国のNIPTを含む出生前診断の受検数は、出生数97.7万件における7.2%、高齢妊婦数27.8万人における25.1%を占めていました。
羊水検査の件数は、1998年の10,419件以降、増加傾向を示していました。
その後、2014年の20,700件を境に減少傾向となり、2016年には18,600件となっています。
これは、2013年から開始されたNIPT(新型出生前診断)の影響であると考えられています(*2)。
「流産のリスクを伴う確定的検査(絨毛検査・羊水検査)の数を減らす」というNIPT導入の目的のひとつが達成されつつあるといえるでしょう。
海外での出生前診断の動向について
NIPTは2011年にアメリカで開発され、現在はアメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、オランダ、その他多くの国々で開始されています。
検査対象や公費補助の有無や程度などは、国や地域によって違いがあります。
日本と同じく臨床研究として実施されたオランダでは、公費負担であるという点が日本と異なります。
また、日本では臨床研究から一般診療に移行することが発表されましたが、保険診療の対象外であるため、検査に関する費用は全額自己負担となります。
補足
2010年と2011年における欧米における調査によると、出生前診断(主に初期コンバインド検査)の実施率は、デンマーク90%以上、イギリス60%、フランス84%、オランダ26%となっています (*1)。
この調査からも、出生前診断を受検する妊婦さんの割合は、本邦より高いということがわかります。
胎児に起こる主な染色体異常や先天性疾患の頻度についてはこちらをご参考にしてください。
参考文献
(*1) 佐々木愛子・左合治彦ら: 日本における出生前遺伝学的検査の動向 1998-2016, 日本周産期・新生児医学会雑誌 2018;54:101-107
(*2) Sekiguchi M,Sasaki A et al:Impact of the introduction of Non-invasive pretanal genetic testing on invasive tests:2017;57:35-36