最近何かと耳にする機会が増えたSDGs(持続可能な開発目標)ですが、「何かの目標なんだな」ということは分かっても、具体的にどういった内容なのかピンとこないという方も多いのではないでしょうか。
今回はSDGs(エスディージーズ)の簡単な内容と、SDGsの17の目標のうちの「女性の性と生殖」に関連する部分をピックアップしてご紹介いたします!
SDGs(持続可能な開発目標)とは
SDGsとは、日本語では「持続可能な開発目標」と訳されます。
よく見かけるロゴにも英語で記載されており、「Sustainable Development Goals」の略でSDGs(エスディージーズ)と呼ばれます。
「サステナブル」が「持続できる、ずっと続けていける」
「デベロップメント」が「発展、開発」です。
「持続可能な開発目標」とは、「発展途上国から先進国まで地球一体となって、誰一人取り残さないより良い世界を目指す、世界共通の目標」です。
「人にも地球にも優しい世界を作り、守っていこうよ」ということです。
2016年から2030年までの15年間という期間で解決すべき目標を「17のゴール、169の具体的なターゲット」で細かく設定しており、日本としても積極的に取り組んでいます。
SDGs:17の目標
SDGsでは、貧困や飢餓といった発展途上国に多い問題に留まらず、ジェンダー平等、地球を守るための気候や陸海資源の持続可能な利用といった、多岐にわたる問題について目標を定めています。
SDGsの17の目標について、簡単に内容をご紹介します。
SDGsでは2030年までに解決または改善する課題を17項目設定しており、それぞれに平均10個ずつくらいの具体的なターゲットが設定されています。
1,「貧困」
貧困をなくそう
あらゆる場所の、あらゆる形態の貧困を終わらせる
2,「飢餓」
飢餓をゼロに
飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する
3,「保健」
すべての人に健康と福祉を
あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する
4,「教育」
質の高い教育をみんなに
すべての人々への包摂的*かつ公平な質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する
*包摂性(ほうせつ):つつみ込むこと、誰一人取り残さない
5,「ジェンダー」
ジェンダー平等を実現しよう
ジェンダー平等を達成し、すべての女性および女児の能力強化を行う
6,「水と衛生」
安全な水とトイレを世界中に
すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する
7,「エネルギー」
エネルギーをみんなに、そしてクリーンに
すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する
8,「経済成長と雇用」
働きがいも経済成長も
包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用を促進する
9,「インフラ、産業化、イノベーション」
産業と技術革新の基盤をつくろう
強靭なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの促進を図る
10,「不平等」
人や国の不平等をなくそう
各国内及び各国間の不平等を是正する
11,「持続可能な都市」
住み続けられるまちづくりを
包摂的で安全かつ強靭で持続可能な都市及び人間居住を実現する
12,「持続可能な消費と生産」
つくる責任、つかう責任
持続可能な生産消費形態を確保する
13,「気候変動」
気候変動に具体的な対策を
気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる
14,「海洋資源」
海の豊かさを守ろう
持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する
15,「陸上資源」
陸の豊かさも守ろう
陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、ならびに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する
16,「平和」
平和と公正をすべての人に
持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する
17,「実施手段」
パートナーシップで目標を達成しよう
持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する
ロゴに分かりやすく要約されているため、解決すべき課題の方向性がなんとなく見えてくるのではないでしょうか。
ゴール3「健康と福祉」
SDGsの17の目標のうち、目標3では「すべての人に健康と福祉を」とし、「あらゆる年齢でのすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する」としています。
具体的なターゲットのうち、一部を抜粋します。
3.7 2030年までに、家族計画、情報・教育及び性と生殖に関する健康の国家戦略・計画への組み入れを含む、性と生殖に関する保健サービスを全ての人々が利用できるようにする。
3.7.1 近代的手法によって、家族計画についての自らの要望が満たされている出産可能年齢(15~49歳)にある女性の割合
3.8.1 必要不可欠な保健サービスのカバー率(一般及び最も不利な立場の人々についての、生殖、妊婦、新生児及び子供の健康、感染性疾患、非感染性疾患、サービス能力とアクセスを含む追跡可能な介入を基にした必要不可欠なサービスの平均的なカバー率と定義)
3.8.1 必要不可欠な保健サービスのカバー率(一般及び最も不利な立場の人々についての、生殖、妊婦、新生児及び子供の健康、感染性疾患、非感染性疾患、サービス能力とアクセスを含む追跡可能な介入を基にした必要不可欠なサービスの平均的なカバー率と定義)
SDGs231の指標/総務省による仮訳
必要不可欠な保健サービスというのは、発展途上国では
- 出産で命を落とすお母さんや赤ちゃんを減らす
- 幼い子どもが予防できる原因で命を落とすことを防ぐ
などがあります。
「すべての人が、性や子どもを産むことに関して、保健サービスや教育を受け、情報を得られるようにする」ことは、日本にもまだまだ課題があります。
どのような保健サービスがあるのか情報を得ることができ、受けるか受けないかを選択できる環境を整えることは非常に重要です。
ゴール5「ジェンダー平等」
SDGsの17の目標のうち、目標5ではジェンダーについて提言しており、「ジェンダー平等を達成し、すべての女性および女児の能力強化を行う」としています。
具体的なターゲットのうち、一部を抜粋します。
5.6 国際人口・開発会議(ICPD)の行動計画及び北京行動綱領、並びにこれらの検証会議の成果文書に従い、性と生殖に関する健康及び権利への普遍的アクセスを確保する。
5.6.1 性的関係、避妊、リプロダクティブ・ヘルスケアについて、自分で意思決定を行うことのできる15歳~49歳の女性の割合
5.6.2 15歳以上の女性及び男性に対し、セクシュアル/リプロダクティブ・ヘルスケア、情報、教育を保障する法律や規定を有する国の数
SDGs231の指標/総務省による仮訳
ここでは、女性の性と生殖に関する以下の内容について設定しています。
- 自分の意思で決定できること
- 情報へアクセスする権利
つまり、誰もが妊娠や出産について自分の意思で決定できること、家族計画や疾病の予防、診断や治療などの必要なサービスについて情報を得ることができ、必要なときに受けられることを目標としています。
カタカナで「リプロダクティブ・ヘルスケア」や、「セクシュアル/リプロダクティブ・ヘルスケア」と出てきていますが、具体的にどういうことなのか、次の項目で見ていきましょう!
性と生殖に関する健康と権利(SRHR)とは?
SRHRとは、日本語では「性と生殖に関する健康と権利」と訳されます。
「セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(Sexual and Reproductive Health and Rights)」を略して「SRHR」と呼ばれます。
SRHR参考URL(外部英語サイトへ移動します):Sexual and Reproductive Health and Rights (SRHR) / WHO
SRHR(性と生殖に関する健康と権利)は、SDGsの目標5に出てきていますが、1994年に「国際人口・開発会議(ICPD)」で採択された「カイロ行動計画」で提唱された概念です。
WHO(世界保健機関)によると、リプロダクティブヘルスとは、「性と生殖に関する健康のこと」で、生殖の機能とそのプロセスに関連するすべての問題において、病気や不健康がないだけでなく、身体的・精神的・社会的に幸福な状態のことであり、人々が満足のいく安全な性生活を送ることができ、生殖能力と、生殖するかどうか、いつ、どのくらいの頻度で行うかを自由に決定できることを意味するとしています。
リプロダクティブライツとは、「性と生殖に関する権利のこと」であり、性に関することや妊娠・出産といった生殖に関することを自分で決める権利があり、またこの権利が保障されるための情報やサービスにアクセスできる権利があるとしています。
リプロダクティブヘルス/ライツでは、すべてのカップル・個人には以下の権利があり社会的・政治的に左右されず自由に責任を持って決定できるとしています。
- 安全で満ち足りた性生活を営むことができること
- 本人の意思が尊重され、妊娠・出産について自らが選択し決定する権利
- 子どもを持つ、子どもを持たないことを決める権利
- 出産する子どもの人数、出産する間隔、出産する時期を選べる権利
- 安全に安心して妊娠・出産ができること
- 自分の身体に関することを自分で決定する権利
- 自分の性のあり方について自分で決定できる権利
- 自分の性に関して心身ともに満たされ、その状態を社会的にも認められていること
- 法に反しない出生調節の方法についての情報を得て利用する権利
- 差別・強制・暴力を受けることなく、生殖に関する決定を行える権利
- これらの権利を実現するために必要な情報やサービスへアクセスする権利及び受ける権利
世界では、望まない出産の中絶が制限されたり、強制婚や女性性器切除のような慣行があるなど、性と生殖に関することを自己決定する環境が整っていない国や地域が大半です。
そのため、SRHRが叫ばれているのです。
性と生殖に関するヘルスケア
「SRHR」における情報へのアクセスやサービスを受けるために必要なことは、そのための環境が整っていることです。
150ヶ国以上の加盟協会からなるNGO(国際協力組織)の国際家族計画連盟によると、誰もが絶対に必要な性と生殖に関するヘルスケアサービスは、その権利を行使するために「サービスがあること、その受けやすさ、容認性、質の高さ」が保障されなければならない、としています。
そして、この必須サービスには次のようなものが含まれます。
• セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルスに関する正確な情報と、カウンセリングサービス。これにはエビデンスに基づいた包括的性教育(CSE)が含まれます
セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖の健康と権利:SRHR)の新定義 / 国際家族計画連盟(IPPF)
• 性機能と性的な満足に関する情報、カウンセリング、ケア
• 性暴力、ジェンダーに基づく暴力、性的強制の予防、発見、対策
• 安全で有効な避妊法の選択肢
• 安全で有効な産前、出産、産後のケア
• 安全で有効な中絶サービスとケア
• 不妊予防、対策、治療
• HIV を含む性感染症(STI)と生殖器系感染症予防、発見、治療
• 生殖器のがん予防、発見、治療
すべての妊婦さんの知る権利
前項の「サービスがあること、その受けやすさ、容認性、質の高さ」というのは、出生前診断にも当てはまります。
お腹にいる赤ちゃんの病気や障害について調べる検査のことを「出生前診断」といいます。
一番広く知られているのは、妊婦さんが定期健診で受ける「エコー検査」ではないでしょうか。
出生前診断には色々な種類があり、妊婦さんの血液から胎児の染色体異常を調べる「新型出生前診断(NIPT)」もその一つです。
新型出生前診断は、日本では2013年に開始された比較的新しい検査で、需要の高まりもあり検査施設は年々増加しています。
新型出生前診断(NIPT)については、「NIPTとは」もご参考にしてください。
出生前診断の本来の目的は、治療や育児の準備につなげるためのものですが、胎児の病気や障害を生まれる前に調べるという性質上「安易な中絶につながる恐れ」があるとされ、さらに「命の選別である」「障害のある人の差別や存在否定につながる」として賛否の議論がたえません。
そのため厚労省では、「胎児に疾患がある可能性を確率で示すものに過ぎないことなどから、医師は妊婦に対し本検査の情報を積極的に知らせる必要はなく、本検査を勧めるべきでもない」として、今までは情報提供について消極的な姿勢をとっていました。
しかし、SDGsの積極的な取り組みに影響を受けての方向転換か不明ですが、「正しい情報を求める妊婦の増加に対して、不安に寄り添った支援とはいえない」として、情報提供を行っていく方針で現在進んでいます。
すべての妊婦さんには
- 生活の福祉を向上するために情報やサービスを選択しアクセスする権利
- 自分の意思が尊重され、自分の身体に関することを自分自身で決められる権利
があり、正しい情報の元で自分で決断する権利があります。
出生前診断について不安や悩みがあるときは、臨床遺伝医学の専門家である臨床遺伝専門医または遺伝カウンセラーに相談してみるのがよいでしょう。
遺伝カウンセラーについては、「コラム:遺伝カウンセリングとは?」もご参考にしてください。
まとめ
SDGsでは世界中で解消するべき問題について目標を設定しており、ジェンダー平等や「性と生殖に関する健康と権利」もその一つです。
出生前診断について約20年間にわたり厚労省がとっていた「積極的に知らせる必要はない」としていた姿勢が、一転情報提供を行っていく方針になる予定で、少しずつ「権利を行使できる環境」が整っていくことを願います。
SDGsについて、日本でも身近な問題や課題はたくさんあります。
少しでも考えてみるきっかけになると幸いです。
【参考】
SDG Indicators /国連統計部
持続可能な開発目標 (SDGs)と日本の取組/外務省
WHO Western Pacific | World Health Organization