
妊娠中にお腹の赤ちゃんの健康状態を調べる方法はいくつかあり、その中でも「NIPT(新型出生前診断)は受けるべき?」と悩む方は少なくありません。
近年は検査の認知度も高まり、多くの妊婦さんが選択肢の一つとして検討するようになっています。
ただしNIPTはあくまで「確定診断」ではなく、遺伝子異常の可能性を調べるためのスクリーニング検査です。
そのため結果によっては不安を感じたり、今後の検査や出産について考える必要が生じる場合もあります。
NIPTを受けるかどうかはどちらの選択にも意味があり、大切なのは情報を正しく理解したうえで「自分が納得できる選択」をすることです。
このコラムでは、NIPTを受けるか迷っている方に向けて、検査の概要やメリット・デメリット、注意点、そして判断のためのポイントをわかりやすく解説します。
NIPTを「受けるべきか」迷う人が増えている理由

「NIPTを受けるべきか」と悩む妊婦さんが増えている背景として、出産年齢の上昇や情報環境の変化など、社会全体の変化が大きく関係しています。
出産年齢が上がるにつれ、妊娠や出産に伴うリスクへの関心は高まります。
一方で、SNSやブログなどを通じて発信される多様な体験談は、参考になる反面、情報のばらつきや感情的な内容も多く、かえって不安や迷いを招くことも少なくありません。
さらに、NIPTの結果が「命の選択」に関わる可能性があるという現実が、多くの人の心に重くのしかかります。
こうした要素が重なり「受けるべきかどうか」という判断をより難しくしているのです。
高齢出産の増加で注目が高まる
近年では妊娠・出産の平均年齢が上昇し、「高齢出産」と呼ばれる35歳以上での出産はもはや珍しくありません。
厚生労働省が発表した2024年「人口動態統計(確定数)」によると、35歳以上で出産した女性は全体の30%を超え、約3人に1人が高齢出産にあたります。
35歳ごろからは卵子の質が徐々に低下し、胎児の染色体異常のリスクが上がることが知られています。
そのため「リスクを早めに知りたい」「安心して出産に臨みたい」と考える方が増えており、NIPTの需要が高まっています。
SNSの体験談が与える影響

SNSやブログなどでは、NIPTを受けた人の体験談が数多く発信されています。
これらの「リアルな声」は参考になる一方で、個人差が大きく、情報の正確性にもばらつきがあります。
特にSNS上では「NIPTを受けて安心した」「結果にショックを受けた」といった相反する体験談が混在しており、読む人に不安を与えるケースも少なくありません。
このように、ネット上の膨大な情報の中で「何を信じればよいのか分からない」と感じることが、妊婦さんの迷いを一層深める要因になっています。
検査が「命の選択」に直結し得る
NIPTをめぐる最大の葛藤は、この検査が単なる健康チェックではなく「命の選択に関わる可能性がある」という点です。
胎児の染色体異常が見つかった場合、分娩・出産後に向けた準備を整えることができますが、染色体異常そのものは治療できません。
そのため、結果をどう受け止め、今後どのような行動をするかという選択が求められます。
「結果を知ること」=「安心できる」とは限りません。
心の準備ができていないまま結果報告を受けることで、強い混乱や自己責任感、罪悪感に苦しむケースもあります。
NIPTとは?検査の基本をわかりやすく解説

NIPT(新型出生前検査)とは、妊婦さんの血液を採取して胎児の染色体異常の可能性を調べる検査です。
妊婦さんの血液中には、胎盤由来の胎児DNAがわずかに含まれています。
このDNAを解析することで、赤ちゃんに特定の染色体異常があるかどうかを非侵襲的に(母体を傷つけずに)調べることができます。
従来の羊水検査のように子宮に針を刺す必要がないため、流産のリスクがないのが大きな特徴です。
また、非確定検査(スクリーニング)の中では最も検査精度が高く、妊娠10週という早い時期から受けられる点も、NIPTが注目されている理由のひとつです。
どんな異常がわかるのか(21・18・13トリソミー)

NIPTで主に調べられるのは、以下の3つの染色体異常です。
【NIPTで調べられる主な染色体異常】
いずれの染色体異常も特定の染色体が通常より1本多く存在することで起こる先天的な異常で、発達や身体機能に影響を及ぼすことがあります。
検査機関によっては、他の常染色体や性染色体の異常、微小欠失症候群などを調べられる場合もあります。
ただし、追加項目の精度や対象範囲は検査機関によって異なるため、事前の確認が大切です。
スクリーニングと確定診断の違い
NIPTは「診断」ではなく「スクリーニング(ふるい分け)」検査です。
つまり、「染色体異常の可能性があるかどうか」を調べる検査であり、陽性=確定ではありません。
NIPTで陽性の結果が出ても、実際に胎児に異常があるかを確定するには、羊水検査や絨毛検査といった確定診断が必要です。
NIPTの精度は非常に高いものの、わずかに偽陽性(異常と出たが実際は正常)や偽陰性(正常と出たが実際は異常)の可能性があります。
そのため、NIPTの結果だけで判断せず「あくまでスクリーニングである」という理解を持つことが大切です。
冷静な判断のためには、医師や遺伝カウンセラーと十分に相談しながら進めることが推奨されます。
NIPTについてもっと詳しく知りたい方はこちらをご参考にしてください。
NIPTのメリット
NIPTは、他の出生前診断と比べて「精度の高さ」「安全性」「結果が早く分かる」という3つの大きなメリットがあります。
たとえば、従来の母体血清マーカー検査やコンバインド検査は精度に限界があり、羊水検査は流産のリスクを伴います。
NIPTは、これらの弱点を補う検査として注目されています。
主要な染色体異常を高精度で検出
NIPTの最大の特徴は、検査精度が非常に高いことです。
特に21・18・13トリソミーの3つの染色体異常に対しては、特異度(異常なしを正しく判断できる確率)は99%以上と極めて高い精度が報告されています。
そのため、「異常なし(陰性)」という結果が出た場合は安心感を得やすい検査といえるでしょう。
感度(異常を正しく陽性と判断できる確率)も高く、特に21トリソミーについては99.9%以上の精度とされています。
ただし、NIPTは確定診断ではなくスクリーニング検査であり、まれに偽陽性(異常と出たが実際は正常)や偽陰性(正常と出たが実際は異常)が生じる可能性もあります。
そのため、陽性の場合は羊水検査や絨毛検査などによる確定診断が必要です。
【NIPTの検査精度(ベリナタ・ヘルス社のデータ例)】
| 検査対象疾患 | 感度 | 特異度 |
|---|---|---|
| 21トリソミー | 99.9% | 99.8% |
| 18トリソミー | 97.4% | 99.6% |
| 13トリソミー | 87.5% | 99.9% |
*検査精度は検査機関によって異なります。
採血のみで受けられる安全な検査
NIPTは、羊水検査のように子宮に針を刺す必要がないため、流産や感染などの合併症リスクはありません。
身体的な負担が非常に少なく、母体にも胎児にも安全に行える点が大きな魅力です。
また、採血だけで検査できるという手軽さも、妊婦さんにとって安心材料のひとつといえます。
結果が早くわかる

NIPTは妊娠10週から受けられ、検査結果は約1〜2週間程度でわかります。
妊娠初期の段階で胎児の染色体異常の可能性を知ることができるため、その後の妊娠期間を落ち着いて過ごしやすくなるのが大きな利点です。
結果が陰性であれば、その後のマタニティライフを心穏やかに過ごせるでしょう。
また、万が一陽性となった場合でも、確定診断に進むための時間的余裕を確保でき、ご夫婦で冷静に今後の選択を話し合うことができます。
早い段階で情報を得ることで、出産までの準備や心の整理をする時間を持てることも、この検査の大きなメリットです。
NIPTのデメリット
NIPTは精度が高く安全性にも優れた検査ですが、すべての不安を解消できる「完璧な検査」ではありません。
検査の特性や限界を正しく理解しておくことが大切です。
偽陽性・偽陰性の可能性
NIPTは高精度な検査ですが、100%正確な結果が出るわけではありません。
まれに以下のような理由で、偽陽性(異常がないのに陽性)や偽陰性(異常があるのに陰性)が起こることがあります。
- 胎盤の遺伝情報が胎児と完全に一致しない場合がある
- 母体側のDNA(がん・モザイクなど)が結果に影響する場合がある
- 検体中の胎児由来DNA(cfDNA)の割合が少ない場合がある
このような要因により、結果が実際の胎児の状態と異なるケースが起こり得ます。
NIPTはあくまで「スクリーニング検査」であり、「胎児の染色体異常の可能性が高いか低いか」を評価するものです。
そのため、NIPTで陽性と出ても、「赤ちゃんに異常がある」と確定するわけではありません。
検査の限界
NIPTは主に21・18・13トリソミーなど限られた染色体異常を対象としており、すべての先天性疾患を検出できるわけではありません。
たとえば、以下のような異常はNIPTでは検出できません。
- 心臓や脳、神経の形成異常
- 遺伝子レベルの疾患(遺伝子変異が原因の病気)
- 発達・代謝に関わる異常 など
また、異常が見つかったとしても、症状の重さ(重症度)や出生後の発達状態までは分かりません。
同じ染色体異常でも、赤ちゃんによって症状の現れ方には大きな個人差があります。
保険適用外で費用が高額

NIPTは保険適用外(自由診療)のため、検査費用は全額自己負担です。
費用は検査機関によって異なりますが、一般的な目安は以下の通りです。
- 標準的な3項目(21・18・13トリソミー):10万〜20万円前後
- 性染色体異常や微小欠失症候群などの追加検査を含む場合:20万〜25万円以上
また、カウンセリング費用が別途かかる場合もあります。
NIPTを受けるときの注意点
NIPTは技術的に精度が高く、安全性にも優れた検査です。
しかし、検査結果の受け止め方や感じ方は人によって異なり、精神的な負担や倫理的な悩みが生じることもあります。
受検を検討する際は、結果をどう受け止めるかを含め、事前にしっかりと心の準備をしておくことが大切です。
検査後の精神的な負担

検査結果が出るまでに通常1〜2週間ほどかかり、結果を待つ間は不安で実際より長く感じたと語る妊婦さんが多くいらっしゃいます。
また、たとえ「陰性」の結果を受け取ったとしても、
- 偽陰性(実際は異常があるのに陰性と出る)可能性がわずかに残る
- すべての先天性疾患を調べられるわけではない
といった理由から、完全な安心を得られるわけではありません。
「陽性」と出た場合は、「なぜ自分が」「自分のせいではないか」と自責の念を抱いてしまう人もいます。
安心したくて検査を受けたはずが、大きなストレスを抱えてしまう可能性もあります。
命の選択に関わる倫理的課題
NIPTを含む出生前診断の目的は「出生前に胎児の状態を知り、適切な出産方法や育児環境を検討すること」です。
しかし現実には、「出産するかどうかの判断材料」として検査を受ける人が多いという実態があります。
NIPTの結果が、中絶という重大な決断に直結する可能性があるため、社会的にも議論が続いています。
例えば、ダウン症候群などの染色体異常が見つかった場合、「障害を持つ可能性のある赤ちゃんを産むかどうか」という非常に重い選択に直面することがあります。
このような現実は、いわゆる「命の選別」につながるのではないかという倫理的な問題を含んでおり、NIPTを受ける際には医学的な知識だけでなく、価値観や家族の考え方も踏まえて慎重に判断することが大切です。
NIPTを受けるか迷ったときの判断基準
NIPTを受けるかどうかは、多くのご夫婦にとって本当に難しい問題だと思います。
迷ったときは、ご夫婦の「検査を受ける目的」と「検査結果をどのように受け止めるか」の2つの視点から整理して考えてみましょう。
検査を受ける目的を明確にする
まず大切なのは「何のためにNIPTを受けるのか」という目的をはっきりさせることです。
たとえば、
- 「高齢出産でリスクを確認しておきたい」
- 「もし障害がある場合、事前に知って準備したい」
- 「妊婦健診でリスクを指摘された」
など、受ける理由は人それぞれです。
一方で、「みんな受けているから」「なんとなく不安だから」という理由だけでは、結果をどう活かせばよいか見えにくくなります。
「結果を知ったうえで、どんな行動を取りたいか」を紙に書き出してみると、自分たちにとって本当に必要な検査かどうかが見えてくるはずです。
結果の受け止め方を話し合う

NIPTを受ける前に、ご夫婦で「もし陽性だったらどうするか」を話し合っておくことが大切です。
これは決して簡単なテーマではありませんが、結果が出てからでは冷静に考える時間が足りない場合があります。
お二人の意見が違うときは、そのズレをどう埋めるのか、結果が出た後で後悔しないために「結果を受け止める心構え」と「その後の行動」について、NIPTを受ける前に話し合っておきましょう。
遺伝カウンセリングを受ける
NIPTを受けるか迷うときは、遺伝カウンセリングが心強いサポートになります。
遺伝カウンセラーは、遺伝医学に関する広範な知識を持つ専門家で、遺伝に関する悩みや不安を幅広く相談することができます。
【遺伝カウンセリングで得られるサポート】
- 年齢・家族歴・既往歴などに基づくリスクの説明
- 検査内容や結果の意味を正しく理解できるよう支援
- 陽性だったときの選択肢の情報提供
- 納得できる意思決定をサポート
カウンセラーは相談者を否定したり、意見を押しつけたりすることはありません。
あくまで第三者の立場から、あなたが自分で納得できる選択をするためのサポートを行う専門家です。
中立的な立場から意見をもらうことで、自分たちだけでは気づかなかった考え方や選択肢が見えてくることもあります。
まとめ:NIPTを受けるかどうかは「納得できる選択」が大切
NIPT(新型出生前検査)を受けるかどうかは、簡単に決められるものではありません。
この検査を受けるかどうかに「正解」はなく、ご自身とご家族が納得できる形で選ぶことが何よりも大切です。
まずは、NIPTのメリットとデメリットを正しく理解したうえで、
- なぜ検査を受けたいのか
- 結果をどう受け止めるのか
この2つをしっかりと話し合い、自分たちなりの答えを見つけていきましょう。
もしご夫婦で話し合っても結論が出ない場合は、遺伝カウンセリングを受けるのも一つの方法です。
専門の遺伝カウンセラーが、医学的な情報をわかりやすく説明し、あなたが納得して選択できるようサポートしてくれます。
検査を受ける・受けないにかかわらず、まずは専門家に相談し、心の整理をしてから判断することをおすすめします。