2023年の日本における出生数は72万7288人で、そのうち低出生体重児は7万151人と、約10人に1人が低出生体重児でした。(割合は9.6%)
低出生体重児は生後の健康や成長に注意が必要になりますが、妊娠中の生活習慣や健康管理によってリスクを軽減することが可能な場合があります。
本コラムでは、低出生体重児が産まれる原因と、妊婦さんが日常で気をつけるべきポイントを分かりやすく解説いたします。
赤ちゃんの健やかな成長のために、今からできる対策を一緒に確認しましょう。
低出生体重児の特徴
低出生体重児とは、生まれたときの体重が2,500グラム未満の赤ちゃんのことを指します。
正常な出生時体重は2,500g以上4,000g未満で、この範囲内で生まれた赤ちゃんは、体重に関する特別なリスクは少ないと言えます。
出生児の平均体重は、2023年の人口動態調査によると、男児で3.04kg、女児で2.96kgでした1)。
在胎期間が短く体が小さく生まれるほど、赤ちゃんの健康や発育に影響を与える可能性が高くなります。
【低出生体重児の特徴】
- 出生児体重が2,500g未満
- 小さく生まれるほど重篤な問題が生じる
- 早産や胎児発育不全が関係することが多い
- 体温調節が難しい
- 呼吸器の未熟さ
- 哺乳力が弱い
- エネルギー不足や低血糖になりやすい
- 免疫機能が未熟で感染症にかかりやすい
- 神経発達や知的発達の遅れの可能性
- 運動機能発達の遅れや運動障害のリスク
- 将来的な生活習慣病のリスクが高い
低出生体重児・超低出生体重児・未熟児の違いとは?
低出生体重児の中でも、2,500gに近い子と1,000g程度の子では合併症の程度が違うため、治療方針も異なります。
そのため、出生時の体重からいくつかに分類されます。
【出生体重からの分類】
出生時体重2,500g未満はすべて「低出生体重児」ですが、その中でもさらに1,500g未満を「極低出生体重児」、1,000g未満を「超低出生体重児」と分類します。
2,500g未満の中でも、体重が少なく体が小さく生まれるほど臓器が未成熟なため、それだけ合併症や重篤な障害が起こる可能性があり、特別な医療サポートが必要になります。
一方で、「未熟児」とはどのように違うのでしょうか?
「未熟児とは、身体の発育が未熟のまま出生した乳児であって、正常児が出生時に有する諸機能を得るまでにいたるまでのものをいう」と、母子保護法によって定義されています。
つまり未熟児は生まれたときの体重に関わらず、臓器の機能などが未熟な児のことを指します。
低出生体重児の健康リスク
低出生体重児で生まれると、身体の各機能が未成熟なためさまざまな健康上の問題が生じる可能性があります。
【低出生体重児が抱える可能性のある健康リスク】
- 知的障害
- 運動障害
- 成長遅延
- 体温調節が難しい
- 呼吸器が未熟
- 心疾患
- 免疫が弱い
- 将来的な生活習慣病のリスク
体温を維持するための皮下脂肪が少なく低体温症になりやすいほか、各臓器が未熟なため心疾患や消化器系の問題、免疫系への影響、栄養摂取の困難などが起こる可能性があります。
脳についても同様のため、知的障害や運動障害にもつながります。
さらに、将来的に糖尿病や高血圧など生活習慣病になるリスクが高まることが知られています。
これらは出生時の体重によって大きく異なりますが、明らかな障害がなくても運動発達や言葉の発達が遅れがちで、成長とともに追いついてくる場合もあります。
ただし発達過程は一人ひとり異なるため、出生時の体重が同じでも同様の経過をたどるとは限りません。
知的障害
特に1,500g未満の極低出生体重児において、知的障害を合併するリスクが高まります。
脳の発達が未熟なまま出生することで、神経回路の形成が不十分になる可能性があります。
また、脳室内出血や脳白質軟化症、低酸素性虚血性脳症が原因で脳にダメージを受け、言語や学習、運動の発達遅延が生じることがあります。
知的能力が境界領域であったり、自閉症スペクトラム症、注意欠如・多動症(ADHD)と診断される場合もあります。
運動障害
脳の未成熟さや脳室内出血、脳白質軟化症が原因で、運動機能に影響が出ることがあります。
具体的には脳性麻痺や筋緊張の異常、手足の動きのぎこちなさ、バランス能力の低下などが見られます。
成長遅延
哺乳力が弱いため十分な栄養を摂れないことがあり、生後の体重や身長の増加が遅れやすくなります。
消化器系の問題によって栄養摂取が困難な場合もあります。
身体が小さいためエネルギーの蓄えが少なく、エネルギー不足や血糖値が下がりやすいため注意が必要です。
呼吸器が未熟
呼吸器が未熟な場合が多く、呼吸に問題が生じやすくなります。
肺が十分に発達していないため酸素を効率よく取り込めず、新生児呼吸窮迫症候群(RDS)や無呼吸発作が起こることがあります。
心不全
心臓の機能が未発達だと、血液を全身に効率よく送り出せず、循環不全や低酸素血症を引き起こすことがあります。
そのため新生児集中治療室(NICU)でのモニタリングと適切な治療が不可欠です。
免疫が弱い
身体に異物が入った際に排除するように働く「抗体」は、妊娠後期に母体から胎児へと移行します。
そのため、早く産まれた早産児はママからの免疫グロブリン(抗体を作るタンパク質)の移行が不十分なため、病原体に対する抵抗力が弱くなります。
また、白血球の働きも未熟で細菌やウイルスへの防御機能が弱く、これにより肺炎、敗血症、髄膜炎などの重篤な感染症を発症しやすくなります。
成長後の生活習慣病リスク
生まれてすぐの健康上の問題だけでなく、成長後の生活習慣病のリスクが高まることが知られています。
胎児期に栄養不足やストレスを経験していると、代謝や内分泌系に影響が生じ、インスリン抵抗性や脂質代謝異常が起こりやすくなります。
これにより、成人後に糖尿病や高血圧、心疾患、脂質異常症などのリスクが高くなります。
低出生体重児が生まれる主な原因
低出生体重児が生まれる原因は、母体や胎児の状態、妊娠中の環境など、さまざまな要因が絡み合っています。
妊娠合併症や胎児の先天異常があると、胎児発育不全によって低出生体重児となりやすいほか、母体と胎児の状況からベストなタイミングで分娩を行うため、人口早産(帝王切開)にならざるを得ない場合があります。
妊娠中の食事の極端な偏りや、体重を増やしたくないことによる栄養不良があると、胎児に十分な栄養が届かず成長が遅れる原因となります。
また妊娠中の喫煙は、発育不全のほか先天異常、流産の原因となりますのでご法度です。
妊娠合併症
妊娠高血圧症候群のように血圧が高い状態が続くと、胎盤への血流が制限され、おなかの赤ちゃんの発育不全につながります。
胎盤の機能低下や胎盤の異常、羊水量の異常(多すぎる、少なすぎる)があると、赤ちゃんに十分な酸素や栄養が行き届かず成長障害につながったり、出産時のトラブルを避けるために帝王切開(人口早産)を選択する可能性が高くなります。
感染症
早産の原因として最も多いのは子宮内感染で、早産の原因の約8割を占めています。
早産だとおなかの赤ちゃんは十分に育つことができず、低出生体重児として生まれる可能性が高くなります。
クラミジアや淋菌などの膣内からの感染のほか、生肉の摂取や猫の糞を介するトキソプラズマ、ナチュラルチーズや加熱不十分な食肉、生野菜に付着した菌から感染するリステリア菌などによる感染症が原因となり得ます。
双子、多胎妊娠
双子や三つ子などの多胎妊娠では、子宮内のスペースの問題や栄養の取り合いにより、単胎妊娠よりもそれぞれの赤ちゃんの体重が軽くなる傾向にあります。
また、赤ちゃんが一人の場合と比べて子宮がより大きくなるためお腹が張りやすく、早産や帝王切開の可能性が高くなります。
実際に多胎妊娠の約半分は早産で生まれています。(早産だと低出生体重児になる可能性が高くなる)
高齢出産
【母親の年齢階級別低出生体重児(2,500g未満)の出生割合】
35歳以上で初めて出産することを一般的に高齢妊娠・高齢出産と言います。
出産年齢が上がると血管の衰えや胎盤機能低下、妊娠合併症の発症率が高くなるなどの理由によって、低出生体重児になりやすくなります。
上記のグラフのように、20歳未満の若年出産でも低出生体重児の割合が増えます。
胎児の先天異常
胎児に染色体異常や遺伝的な疾患などがある場合、胎児の発育に影響が出ることが多く、子宮内で十分に成長できない「胎児発育不全」を引き起こすことがあります。
遺伝子の異常によって、細胞分裂や臓器形成に支障が出るため、体重や身体の各部位の発達が遅れることが考えられます。
また、心臓や消化器官、腎臓などに先天異常がある場合、栄養や酸素の供給が妨げられ、発育に栄養が出やすくなります。
リスクを減らすために妊娠中にできること
低出生体重児になることを防ぐためには、妊娠中の生活習慣を整え、栄養バランスや健康管理を徹底することが大切です。
また、妊婦さん自身の体調やおなかの赤ちゃんに異常があった場合にすばやく対応ができるよう妊婦健診は必ず受け、不安があれば早めに相談することが赤ちゃんの健康を守ることにつながります。
【低出生体重児で産まれるリスクを減らすために妊娠中にできること】
- 定期的な妊婦健診を受ける
- 体重・健康管理
- バランスの取れた食事
- 禁煙・禁酒の徹底
- 感染症予防
妊婦健診
妊婦健診は胎児の発育状態をチェックするほか、発育不全など胎児の異常の兆候を早期に発見し、適切な対策を取るためのきっかけとなります。
それは妊婦さん自身の健康についても同様で、妊娠高血圧症候群など病状が進行しないと症状が現れない妊娠合併症の早期発見につなげることができます。
体重・健康管理
【妊娠中の体重増加指導の目安】
妊娠中の体重増加量の目安は10~13kg程度です。(妊娠前の体格によって異なる)
適切な体重増加は胎児への栄養供給を助け、低出生体重児や胎児発育不全のリスクを減らします。
逆に過度な体重増加は妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病の原因となり、胎盤機能の低下を招くことがあります。
妊娠中に体重が増えなさ過ぎても増えすぎても胎児の発育に影響します。
また健康管理を徹底することで、生活習慣病や感染症のリスクを抑えることができます。
バランスの取れた食事
おなかの赤ちゃんの健やかな成長のためには、バランスの取れた食事がかかせません。
栄養不足は発育不全につながるだけでなく、胎児の臓器や脳の発達に悪影響を及ぼし、早産や先天異常の原因となることがあります。
必要な栄養素(タンパク質、鉄分、葉酸、カルシウムなど)を適切に摂取することで、母体の免疫力は高まり、感染症や妊娠合併症の予防にもつながります。
禁煙・禁酒
妊娠中に喫煙・飲酒は胎児の発育や健康に深刻なダメージを与えます。
喫煙はニコチンや一酸化炭素が胎盤への血流を減少させ、胎児発育不全や低出生体重児の原因になります。
また、先天異常や早産、流産のリスクも高まります。
受動喫煙も同様に胎児に悪影響を与えるため、家族や周囲の協力も重要です。
飲酒は胎児の脳や臓器の発達を妨げ、胎児性アルコール症候群や認知・行動障害を引き起こす可能性があります。
母子の健康を守るため、妊娠中は完全に禁酒・禁煙を徹底しましょう。
感染症予防
風疹やサイトメガロウイルス、トキソプラズマなどの感染症にかかると、胎児の脳や臓器に異常が生じ、先天異常や低出生体重児の原因になります。
さらに、B群溶連菌やクラミジアなどの細菌感染は、早産や新生児感染症を引き起こします。
手洗い、うがい、予防接種、家族の風邪予防、生肉や猫の糞との接触を避けるなど、日常的な衛生管理が重要です。
まとめ
低出生体重児(2,500g未満)が生まれる原因は、母体や胎児の健康状態、妊娠中の環境などさまざまな要因が絡み合っています。
在胎週数が短く早く産まれるほど体重も軽く身体の各器官が未成熟なため、重篤な障害が起こる可能性が高くなります。
低出生体重児は、体温調節や呼吸が不安定、免疫機能が弱く感染症にかかりやすい、哺乳力が弱いといった特徴があり、成長遅延や運動・知的障害、将来的な生活習慣病のリスクが高まります。
これらのリスクを減らすためには、妊娠中にバランスの取れた食事、禁煙・禁酒、感染症予防、妊婦健診の受診が重要です。
妊婦さん自身が健康的な生活を心がけ、必要に応じて医師と連携しサポートを受けることで、赤ちゃんの健やかな成長と安心した出産につながります。
【参考文献】