胎児の染色体や遺伝子に異常がないかどうかを調べることができるのが羊水検査です。
複数ある出生前診断と比べて診断の精度が高く、確定的検査として用いられますが、母体や胎児にとってはリスクも伴います。
ここでは、羊水検査を検討される際に参考となるよう、検査手順や方法、費用の相場などについて徹底解説します。

羊水検査とは
羊水検査とは、赤ちゃんが生まれる前に受けられる出生検査のひとつで、その名の通り母親の子宮内の羊水を採取し、染色体や遺伝子に異常があるかどうかを診断する検査です。
胎児は羊水の中で育つため、羊水の中には胎児の細胞が多く含まれます。
その羊水を直接検査にかけるので診断の精度が高く、確定的検査とされています。
ただし、母体と胎児に対するリスクも伴うため、希望すれば誰もがすぐに受けられるというわけではありません。
通常は、非確定的検査である「新型出生前診断(NIPT)」や「母体血清マーカーテスト」などの検査結果を受けた後に必要に応じて受けるケースがほとんどです。
遺伝の専門医からの説明や、パートナーとの相談を十分に経て、検査の意義を理解してから受ける必要があります。
<羊水検査の対象者>
- 夫婦のどちらかが染色体異常保因者である場合
- ダウン症などの染色体異常出産児を経験している場合
- 母親が高齢妊娠となる場合
- NIPT検査(出生前診断)で「陽性」の場合
羊水検査を行う目的

羊水検査の目的は、出生前の胎児の細胞を羊水から直接調べることによって胎児に染色体異常があるかどうかを調べることです。
さらに、染色体異常だけではなく、特定の遺伝性疾患の有無を調べる目的で遺伝子の変異や酵素の変化を調べる場合もあります。
妊娠中期の15~16週以降に受けることができ、検査結果が出るまでには3週間程度かかります。
羊水検査を受ける前に知っておきたいこと

羊水検査は診断の精度が高い確定的検査ではありますが、万能ではありません。
実際に検査を受ける前に、羊水検査の特徴をしっかり理解しておきましょう。
正常を保障する検査ではない
検査結果が正常であっても、赤ちゃんが100%正常であることを保証することはできない。
異常が見つかっても根本的な治療ができない
検査結果が異常であっても、染色体異常への治療は行えない。
100%安全な検査ではない
流産や早産のリスクがあり、胎児を傷つける可能性も伴う。
結果が出ないこともある
胎児の細胞が少なすぎる、羊水が採取できない、といったケースがある。
正常を保障する検査ではない
羊水検査で異常が見つかった場合は、残念ながらほぼ100%異常と診断されます。
ただし、逆に、検査結果が正常であったからといって、赤ちゃんが100%正常であることを保証することはできません。
あくまでも羊水検査は、異常である確率を調べるための検査であることを知っておきましょう。
異常が見つかっても根本的な治療ができない
もし検査結果で異常であることがわかったとしても、染色体異常への治療はできません。
ただし、心臓の奇形といった染色体異常によって起こり得る深刻な合併症への対処を生まれてすぐに行える病院で出産する、という対応は可能です。
100%安全な検査ではない
羊水を採取するために子宮に針を刺すため、流産や早産のリスクがあり、胎児を傷つける可能性もゼロではありません。
ある調査では、0.3~0.5%の確率で検査後に流産をはじめとした何らかの異常が発生しているという結果もあります。
特に母体が若い場合は、胎児の異常確率が検査のリスクよりも低いため、安易に検査を受けない方がよいとされています。
結果が出ないこともある
羊水の中にある胎児の皮膚などの細胞を調べるのが羊水検査ですが、一度に採取する羊水に含まれる細胞はごくわずかです。
そのため、検査に十分な細胞数となるよう培養する必要があります。
培養に時間が必要なので、検査結果が出るまでに数週間かかるのです。
培養の過程でうまく数が増えなかった場合や羊水がきちんと採取できていなかった場合には、検査結果が出ないこともあります。
羊水検査当日の流れ

羊水検査は、以下のような手順で行われます。
- エコーで胎児の状態を確認
超音波検査(エコー)で胎児の発育や心拍等の状態が正常か、母体の羊水量が正常かを確認し、羊水採取のための針を刺すのに胎盤の位置が妨げにならないか、といった状況を確認する。
- 母体のお臍の下あたりに針を刺す
針を刺す部分を消毒し、エコーで胎児の位置などを確認しながら母体のお臍の下あたりに細い針を刺す。
基本的に麻酔は無しで行うが、通常の採血の際よりも痛みを感じないという人がほとんど。
- 羊水採取
約20mlの羊水を20秒くらいかけて採取する。
通常は1回のみ。
ただし、十分な量が採取できない場合は、2~3回繰り返す場合もあり。
針を刺した後には絆創膏を貼る。
- エコーで胎児の正常を確認
胎児の状態をエコーで再度確認して、異常がないか確かめる。
- 約30分の安静と再度のエコー
胎児の状態に異常がなければ終了。
30分程度安静を保ち、その後再度のエコー確認で異常がなければ帰宅できる。
一連の流れで特に問題がなければ、約1時間程度の所要時間で検査は終了です。
羊水検査の結果はいつでる?

母体の子宮から採取した羊水からすぐに検査を行うことはできません。
羊水中の胎児の細胞を増やす、培養の工程が必要で、それには約2週間かかります。
その後初めて染色体の検査・判定をすることになるため、結果が出るまで早くても3週間程度はかかるのが通常です。
また、培養の過程で胎児の細胞が増えてこない場合は、2週間程度で連絡が来る場合もあります。
その場合、検査可能な週数であれば再度の検査も可能です。
羊水検査の検査方法の違い

採取・培養して得られた胎児の染色体を検査・分析する方法としては、現状使用されているものでは以下の3つの方法が挙げられます。
- 染色体分染法
- FISH法
- マイクロアレイ法
なかでも、最も細かい検査・分析方法はマイクロアレイ法で、これは全染色体のうち、多数の遺伝子を解析できる方法です。
染色体分染法
蛍光色素を使って全染色体(46個)それぞれの縞模様をはっきり見えるようにして、染色体の数や構造の異常(逆位や欠失、重複など)を発見する方法です。
最も一般的に使われてきた方法で、染色体上の縞模様(バンド)で染色体に異常がないかを分析します。
染色液の頭文字を取ってG-バンド法と呼ばれることもあります。
検出感度としてはさほど高くないため、顕微鏡で発見できないレベルの欠失などについては見つけることができないとされています。
FISH法
FISH法のFISHとは、Fluorescence in Situ Hybridization(蛍光・イン・サイチュ・ハイブリダイゼーション)の略で、染色体の特定の場所だけを蛍光染色で光らせます。
主に、特定の染色体異常を診断するもので、遺伝病の遺伝子検出、大きな欠失・重複などを見つけることができますが、遺伝子レベルの微小な欠失などの検出については適しているとは言えません。
マイクロアレイ法
多数の染色体の変化を細かく見ることが可能で、先述の染色体分染法の100倍ほども精緻だと言われる分析法です。
通常の染色体分染法で検出できない、染色体のより微細な過剰や欠失を検出することが可能です。
羊水検査の価格相場

羊水検査を受けるためには、費用はどのくらいかかるのでしょうか。
羊水検査は保険適応外となるため、いわゆる自費診療であり全額自己負担です。
検査を受ける医療機関によって異なりますが、概ね10~20万円程度が相場のようです。
羊水検査単体で検査をすることはほぼないので、その前の非確定的検査費用を含めると、出生前診断だけで30~40万円ほどはかかる可能性があります。
NIPTとは

NIPTとは、母体の血液から胎児の染色体を調べる遺伝学的検査のことで、「無侵襲的出生前遺伝学的検査(non-invasive prenatal genetic test)」を略して NIPT と呼ばれています。
羊水検査より安全で、ダウン症候群など染色体が原因の疾患の可能性をかなり高い精度で調べることができますが、確定的検査ではなく非確定的検査です。
NIPT や母体血清マーカー検査など非確定的検査で陽性や判定保留となった場合に、確定的検査である羊水検査を受けるという順番になります。
検査に必要な費用としては、 NIPT も羊水検査同様保険適応外なので全額自己負担となり、相場としては20万円ほどです。
日本医学会の認定施設などの限定された病院でしか実施されておらず、どの病院でも受けられるというわけではないため、事前に確認が必要です。
まとめ

出生前診断の中でも、羊水検査は高い精度で胎児の染色体、遺伝子の異常の有無を調べることができますが、それでも万能ではありません。
ただし、検査結果が正常であっても、実際に生まれてくるまで健常である保証はありません。
事前に専門医などから説明を聞いて納得し、パートナーともよく話し合いながら検査を活用してください。