
妊娠中の方の中には、自分や自分の家系に関わる遺伝性疾患が自分の子どもに影響しないか、お腹の赤ちゃんがダウン症ではないか?ということを心配して出生前診断を希望する方が増えています。
NIPT(新型出生前診断)を含める出生前診断の検査をする前に、検査やその意義について正しく理解する必要がありますが、様々な悩みや不安を抱えてどのように判断をすればよいか分からなくなる方も少なくありません。
そのようなときに、遺伝学の知識を持つ専門家による遺伝カウンセリングは大変参考になります。
ここでは、遺伝カウンセリングとはどのようなことをするのか、具体的な内容や費用などについて解説していきます。
NIPT Japanの臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングの詳細・お申込みはこちら
遺伝カウンセリングとは
遺伝カウンセリングとは、日本遺伝カウンセリング学会によると
クライエント(依頼者である患者や家族)のニーズに対応する遺伝学的情報などを提供し、クライエントがそれらを十分に理解した上で自らによる意思決定ができるように援助する医療行為である
日本遺伝カウンセリング学会 – 出生前遺伝カウンセリングに関する提言
としています。
さらにこのように続きます。
したがって提供すべき情報は、単なる遺伝性疾患の医学的情報や検査内容だけではなく、社会的な支援体制や倫理的問題なども含めた汎用なものとなり、心理的な対応技術も必要となる。
日本遺伝カウンセリング学会 – 出生前遺伝カウンセリングに関する提言
非指示的な、共感的理解を示した受容的な態度が重要であり、このような対応の中で、クライエント自身が問題解決能力を高めていくコミュニケーションプロセスが遺伝カウンセリングといえる。
つまり、
遺伝に関する様々な悩みの相談はもちろんのこと、検査や遺伝性の疾患についてわかりやすく説明してくれて、
社会的にどのような支援体制があるのか?
どのような倫理的問題があるのか?
などを説明したうえで、クライエントを否定したりカウンセラーの考えを押し付けたりすることなく、あくまでクライエント自身で決断できるようにサポートすることが遺伝カウンセリングです。
遺伝カウンセリングで何がわかるの?
今やネットで何でも調べられる時代ですが、その情報が常に正しい、最新の情報だとは限りません。
また、あなたが抱える悩みに関しては身近な人に相談しても、その人の偏見があったり相談する人によって意見が違うことも多く、余計に悩むことにもなりかねません。
様々な価値観や家族背景、置かれている立場は千差万別で、出生前診断において全ての人に共通する正解などありません。
遺伝カウンセリングでは、遺伝子や遺伝のメカニズムに関与する疾患や体質などの最新の遺伝学的情報についてはもちろん、検査を受けることと受けないことの意味、もし検査で疾患が見つかった場合どういう選択肢や社会的サポートがあるのか、あなたが正しい情報の元納得のいく決断ができるようサポートしてくれます。
正しい答えというのはありません。
大切なことは科学的根拠に基づく正しい情報と、悩みに悩んであなた自身が決断するということです。
最終的な判断は遺伝カウンセラーが行うのではなく、あなた自身(とパートナー)が行う必要があります。
どのような選択であっても、個人の価値観を最大限尊重し、可能な限りサポートしてくれる存在が遺伝カウンセラーです。
どんな人がカウンセリングをしているの?

遺伝カウンセリングは、「認定遺伝カウンセラー」もしくは「臨床遺伝専門医」が行います。
【認定遺伝カウンセラー®】
日本遺伝カウンセリング学会および日本人類遺伝学会の共同認定による認定遺伝カウンセラー制度で、2005年に開始されました。
認定試験を受けるには、指定の養成専門課程を設置した大学院を修了する必要があり、2020年4月現在で、267名しかいません。
臨床遺伝専門医と連携し、遺伝に関する問題に悩むクライエントを援助するとともにその権利を守る専門家です。
認定遺伝カウンセラーとなるうるのは医療を取り巻く職種のメディカルスタッフ、コメディカルスタッフなどが考えられます。
認定遺伝カウンセラー制度委員会【外部サイトへ移動】
【臨床遺伝専門医】
臨床遺伝専門医は、遺伝医学についての広範な知識を持っている医師であり、遺伝カウンセリングを行うことができるのはもちろん、遺伝医療関連の専門的検査・診断・治療を行うことができます。
臨床遺伝専門医制度委員会【外部サイトへ移動】
遺伝カウンセリングはどこで受けられるの?
カウンセラーが在籍している医療施設で受けることができます。
かかりつけの医療機関がある方は、そちらでご相談ください。
かかりつけがない方は、全国の遺伝子医療体制を検索できるサイトがありますので、そちらのシステムを利用して調べることができます。
登録機関遺伝子医療体制検索・提供システム【外部サイトへ移動】
また、機関によってはオンラインでの相談も可能です。
遺伝カウンセリングの費用はどのくらいかかるの?
原則として保険適用外の自費診療です。
費用は医療機関によって様々で、またカウンセリングにかかった時間でも異なります。
多くの医療機関は、「受診前にお問い合わせください」としています。
一般的に1回5,000~10,000円の施設が多いようです。
遺伝カウンセリングにはどのくらいの時間がかかるの?
初回のカウンセリング枠を30分~1時間と設定している施設が多いようです。
もちろん相談内容によってはそれでは足りず1回で終わらない場合もあります。
漠然と不安なのでとりあえずカウンセリングを受けよう、でも良いかもしれませんが
悩みや不安に思っていることを事前にまとめ、その時点での自分の考えをもっておくことが大切です。
NIPTにおける遺伝カウンセリングの主な内容

NIPTにおける遺伝カウンセリングでは、主に次のような内容について情報提供、カウンセリングが行われます。
- 問診
- NIPTについての概要説明(検査の仕組み)
- 先天性疾患、染色体疾患について
- NIPTの対象疾患について
- 検査によって分かることと分からないこと
- 検査結果とその意味について
- 検査後の対処法について
ただし、これらがすべて行われるわけではなく、クライエントの要望に合わせて臨機応変に対応してくれます。
それぞれの項目について見ていきましょう。
問診
クライエントの基本情報を確認します。
妊娠の状況や家族歴などの医学的な情報の収集、NIPTを受けようと思っている動機、不安に思っていることなどです。
一見同じような悩みや不安であっても置かれている状況や背景が全く異なりますので、カウンセラーはクライエントが遺伝カウンセリングに何を求めているかを知る必要があります。
話したくないことを話す必要はありませんが、より正確な情報を元にカウンセリングができるよう、「こんなこと言ってもいいのかな。。。」ということでも遠慮なく相談してみましょう。
繰り返しになりますがカウンセラーはあなたの味方です。
NIPTについての概要説明(検査の仕組み)
新型出生前診断(NIPT:ニプト)とはどういう検査なのか?
以下の内容について知っておく必要があります。
- どんな検査なのか、対象者や検査の目的とは
- 検査で分かること、分からないこと
- 検査方法
- 検査結果が出るまでの所要日数
- 対象となる妊婦の条件
- 検査を受けられる時期
- 母体と胎児のリスク
- 結果の解釈の仕方
要約するとこのような内容になります。
- この検査では妊婦さんから10~20mlの血液を採取して、血液中に浮遊している赤ちゃんのDNA断片を分析することで、ダウン症などの染色体疾患を調べることができます。
- 採血だけなので、流産のリスクはありません。
- 検査精度は高いですが、赤ちゃんの疾患を確定する検査ではないので、検査の結果が陽性(疾患の疑いあり)だった場合、羊水検査などの確定検査が必要になります。
- すべての先天性疾患が分かるわけではありません。
割合が多い3つの染色体疾患と、検査機関によってはその他の染色体も調べることができます。 - 妊娠早期の10週から検査ができます。
- 結果が出るまではおよそ1~2週間かかります。
- 費用は施設や検査内容にって違いますが15~25万円程度かかります。
NIPTの検査内容についてはこちらもご参考にしてください。
先天性疾患とは?染色体疾患とは?

【先天性疾患とは?】
出生児の3~5%には生まれつき、なんらかの病気や障がいなどの先天性疾患(先天異状)があるといわれています。(図1参照)
染色体の変化によって起こる染色体疾患(染色体異状)は、その先天性疾患の4分の1程度を占めているに過ぎません。
つまり、染色体疾患を調べるNIPTでは、分からない病気や障がいもたくさんあるということです。
【染色体疾患とは?】
両親から半分ずつもらった遺伝情報のかたまりである染色体は、人の場合1~22番染色体があります。
お父さんとお母さんから半分ずつもらっているので、2本で1組になっています。
この1~22番までの染色体を”常染色体”、それとは別に男女の性別を決める染色体を”性染色体”と言います。
通常は2本で1組であるはずの染色体が1本や3本になる”数の異状”や、形が変わる”構造異状”が起こることを”染色体疾患”といいます。
染色体の”数の異状”の中で頻度が高いのが、NIPTで調べる対象となる21トリソミー(ダウン症)、18トリソミー(エドワーズ症候群)、13トリソミー(パトウ症候群)です。(図1参照)
トリソミーというのは、通常は2本あるはずの染色体が3本ある状態のことです。
(図1)

なんらかの先天性疾患があるのは3~5%程度であり、そのうち染色体疾患があるのはおよそ25%であり、さらにそのうちダウン症であるのは約53%、18トリソミーであるのは約13%、13トリソミーであるのは約5%である。
また、異状な染色体の細胞と正常な細胞の両方をもっている場合”モザイク”と呼び、これはNIPTで診断できることもできないこともあります。
NIPTで検査の対象となる疾患についてもう少し詳しく見ていきましょう。
染色体についてはこちらのコラムもご参考にしてください。
NIPTの対象疾患について
【21トリソミー(ダウン症候群)】
染色体疾患の中でももっともよく耳にするであろうダウン症ですが、それは他の染色体疾患より無事に生まれてくる確率が高いからです。
その頻度は生まれてくる赤ちゃんの600~1,000人に1人で、日本では約8万人が生活されています。
平均寿命は50~60歳です。
筋肉の緊張が弱く、成長がゆっくりであるのが特徴です。
心疾患などを合併することも多いのですが、早期から医療的視点に基づく教育や養育の支援を行うことで、健常者と同じように社会生活をされている方も多くいます。
【18トリソミー(エドワーズ症候群)】
その頻度は生まれてくる赤ちゃんの約3,000~8,000人に1人で、女児の方が1:3の割合で多く生まれます。
流産してしまうことが多く、無事に生まれても1歳まで生きられる確率は10%にも満たないと言われています。
身体の様々な部分の奇形や心疾患を伴うことが多く、出生後からすぐに治療を行う必要があります。
【13トリソミー(パトウ症候群)】
その頻度は生まれて来る赤ちゃんの約5,000人に1人で、重度の知的障害や奇形、心疾患など多くの疾患を合併していることが多い為、無事に生まれても1歳まで生きれる確率は10%にも満たないと言われています。
また、いわゆる”無認可”施設では、その他の染色体疾患についても検査可能な場合もあります。
*どの疾患も症状や程度には個人差があります。
先天性疾患についてはこちらのコラムもご参考にしてください。
NIPT検査結果のとらえ方とその意味について
NIPTはすべての先天性疾患を調べるものではなく、対象疾患についてしかわかりません。
その対象疾患についても、異状があるかどうかの可能性を調べる検査なので、仮に陽性(疾患の疑いあり)と結果が出たとしても、確実に疾患があるとは言えません。
【検査結果が陽性の場合】
特定の染色体疾患がある可能性が高いことを意味します。
確実にそうなのかを調べるには羊水検査を受けます。
【検査結果が陰性の場合】
NIPTで対象となる疾患はほぼないということを意味します。
【判定保留の場合】
ごくごくまれに、採血した血液中の胎児DNA量が足りないなどの理由で判定が出せない場合があります。
ある程度待つとそのDNA量は増えると考えられますので、再採血をして検査を行うことができます。
ただし、再採血の結果やはり判定が出ない場合もあります。
NIPTは陰性的中率(陰性で間違いないですよという確率)がきわめて高い検査ですが、陽性的中率は妊婦さんの年齢によって大きく異なります。
妊婦さんの年齢が上がるほど、「陽性」と判定されて本当に疾患がある確率は高くなりますが、あくまで確実にそうだとは言えません。
NIPT検査結果のとらえ方とその意味についてはこちらのコラムもご参考にしてください。
NIPT検査後の選択には何があるのか

検査結果が陽性だった場合、本当に疾患があるのかどうかを調べるために、基本的には羊水検査を受けます。
羊水検査を受けて、やはり”疾患あり”だった場合、「人工妊娠中絶」をするのか?それとも「妊娠継続」をするのか?選ばなければなりません。
【人工妊娠中絶の場合】
日本で中絶ができるのは、妊娠21週6日までです。
それも、「胎児の先天性疾患による」理由は許されておらず、以下の場合のみ認められています。
①妊娠の継続または分娩が身体的または経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるもの
②暴行若しくは脅迫によって又は抵抗若しくは拒絶することができない間に姦淫されて妊娠したもの
その中で”身体的または経済的理由”によって中絶を行っている、というのが現状です。
中絶手術をする場合、妊娠初期(12週未満)では15分程度の手術で済み、痛みや出血も少ないので体調に問題がなければ当日に帰宅できますが、妊娠12週~22週未満では、人工的に陣痛を起こし流産させるので母体への負担が大きく数日間の入院が必要になります。
また胎児の成長速度は早く、妊娠15週と20週を比べると、およそ3倍に成長しています。
中絶をすると決断した場合は、出来るだけ早い方が母体への負担も少なくなります。
【妊娠継続の場合】
お腹の中の子に染色体疾患があり、産み育てる決心をされたので、そのための準備を進めることになります。
専門の設備がある産科の選定、生まれた後に受けられる医療制度や福祉制度など様々なサポートを調べ備えます。
それぞれの疾患について協会や団体がありますので、お話を聞くのも良いと思います。
出生前診断に関する倫理的な問題についてはこちらのコラムもご参考にしてください。
NIPTでの中絶率はどのくらいなのか?
「NIPTでは検査の結果、染色体異状が発覚した人のうち96%が中絶を選択している」
そんなデータを聞いたことがあるでしょうか?
ほとんどの人が中絶を選択していることになりますが、これには数字のカラクリがあります。
検査を受けて、陽性だった場合の選択肢は
①妊娠継続するか
②人工妊娠中絶するか のどちらかです。
染色体異状発覚後も妊娠継続する場合、事前に様々な準備ができるのがメリットですが、そもそも「異状があっても産み育てる」という意思がある方は検査を受けること自体をやめる方がほとんどです。
つまり、NIPTを受ける人の多くは、胎児に何らかの異状があった場合中絶すると決めて検査に臨んでいます。
これが、NIPT = 中絶のための検査 という印象につながっている一つの理由です。
しかし、これは検査を受ける方たちそれぞれが悩み考え抜いた結論であって、決して”安易な”選択だと一言で済ませていい問題ではありません。
NIPTを受ける前に理解すべきこと
NIPTでは母体へのリスクなしで、高確率で胎児の染色体疾患を調べることができる半面、もし疾患が判明した場合、専門の設備がある病院を探すなどそれに対する準備は出来ますが、直接的な治療につながるわけではありません。
ともすれば、染色体疾患のある胎児の出生の排除、さらにはそのような疾患のある方々の生命の否定へとつながりかねない、という懸念があります。
日本産科婦人科学会の指針を要約すると、このように提言しています。
・生まれてくる子どもは誰でも先天性異常などの障がいをもつ可能性があり、また後天的な障がいが発生することもあるということ
・障がいは個性の一側面でしかなく、障がいの有無やその程度と、本人および家族が幸か不幸かということの間には、ほとんど関連はないということ
日本産科婦人科学会 – 母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査に関する指針【外部サイトへ移動】
このことは出生前診断を受ける上で大変重要であり、それを踏まえたうえでのカウンセリングが不可欠です。
「先天性異常」「先天性異状」といいますが、本コラムでは”状態が異なる” 異状と表現しています。
遺伝カウンセリングの実際
ここまでNIPTにおける遺伝カウンセリングの流れをみてきましたが、以上の内容をどのような順番でどのような流れでカウンセリングを行うかはケースバイケースです。
実施する施設やカウンセラーによっても違いますし、何よりクライエントの要望によって臨機応変に対応されます。
事前に概要だけ説明し後日カウンセリングを行う施設もあれば、グループでカウンセリングを行う施設、オンラインでカウンセリングを行う施設など様々あります。
ですが、共通して言えることは、クライエントがなにを不安に思っているのか理解し、NIPTを受けることによってその解決の一助となるのか、カウンセラーの指示的要素が一切なく自ら意思決定ができるようサポートする、というところです。
遺伝カウンセリングの前に考えてほしいこと
妊娠して幸せいっぱいのはずなのに、漠然と押し寄せるたくさんの不安に、何が不安なのか分からなくなることもあるでしょう。
出生前診断を受ける前に、遺伝カウンセリングを受ける前に、次のことをあなたとあなたのパートナーとで一緒に整理してみてください。
- なぜこの検査を受けようと思うのか?
何が不安で、それは誰の不安なのか - 検査を受けることで、その不安は解消されるのか?
- 検査を受けた結果、陽性だった場合どうするのか?
「妊娠継続」か「人工妊娠中絶」のいずれかを選ばなければなりません
そうすることで、自分たちにとって本当に必要な検査かどうか冷静に考えられるはずです。
まとめ

NIPTにおける遺伝カウンセリングでの結論は大きく分けると、
- 検査を受けるか?受けないか?
- 検査を受けて陽性だった場合、妊娠を継続するか?人工妊娠中絶を選択するか?
ということになりますが、いくら自分たちで情報を集めて悩み抜き導き出した結論でも、臨床遺伝学の専門家であるカウンセラーのカウンセリングを受けることで、また違った視点や考え方が見えてくるかもしれません。
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